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第27話 遺跡の奥

 ヤドという協力な仲間ができたお陰で遺跡の探索は飛躍的に加速した。

 2ヶ月もすると現状冒険者たちが確認している最深部へと到達することが出来た。


「凄い……これが古代の巨大魔道具……」


「静かですね、死んでしまっているのですか?」


「違うよヤド、この魔道具は今、別のことに利用されている。

 世界から魔法を隠す手伝いをさせられているんだ」


 アーシュは魔道具の周囲を京一の書に従い調べていく。


「あった……」


 ごとん。アーシュは床に隠された装置を起動する。

 壁が開いて階段が現れる。しかし、同時に禍々しい気配も感じる。

 

「くっ」「キャッ!」


「大丈夫かふたりとも?」


 アーシュの左手の紋様もビリっといたんだが、メラとヤドはその非ではなく、首の紋様を抑え苦しんでいる。アーシュは急いで扉を閉める。


「はぁはぁ……」「な、何が……」


「どうやら二人はこの奥に進むのは危険だな……」


「だ、大丈夫です!」


「ダメだ。これは命令だ、部屋の外で待機していてくれ、俺は中を見てくる。

 大丈夫、無理はしない。知ってるだろ? 俺は慎重なんだ」


「……はい」


「旦那様、お気をつけて」


 二人は最後の部屋の扉の外で警備にあたる。


「ふぅ、行くか」


 もう一度扉を開いて奥へと進む。左手の紋様は鈍くうずいたが、それでも階段を降りていく……


「こ、これは……」


 階段を降りると初めて見る光景に息を飲んだ。

 壁面、天井、床、そこらかしこに呪術に使われる紋様が張り巡らされている。

 そしてその中央には……亜人が貼り付けられていた。

 凍りついたように固まった宝石の中に、亜人がいる。

 そこに大量の紋様が回路のように繋がり脈動していた。

 なにか手がかりがないか周囲を探してみるとなんと京一から受け継いだ指輪が光りだした。


「な、何が……」


 次の瞬間、指輪から一冊の本が飛び出してきた。

 その本を開くと、一枚の紙片が差し込まれていた、そこには京一の文字でこう綴られていた。


『これを見ているということは、たどり着いたということだな。

 私もここにたどり着いたときには驚いた。

 そして同時におぞましいという気持ちを覚えた。

 私は何か手がかりがないか探し、そしてこの書を見つけた。

 そこに書かれていることは、とても受け入れられるものではなかったが、今の私にこの装置をどうこうできる準備も覚悟も足りなかった。

 我が志を継ぐものよ、汝自身でこの真実と向き合い、そして、決断をするのだ』


 それからアーシュはその本を読んだ。

 それは、この装置の恐ろしい概要だった。

 封じられ貼り付けられているのは、太古の精霊王。

 世界の魔力を吸収し、呪力へと変える装置に変えられた太古の王。

 そして、この装置に捧げられた亜人は100人。

 この装置を停止させるには、人間10人分のエネルギー、命が必要になる。

 この地に10人人間を呼び、呪紋に喰わせることで、この装置は停止する。


「ば、ばかな……」


 なんという残酷な装置を作ったんだ。ふざけるな。アーシュは大声を張り上げそうになった。亜人100人の命を喰らったことも、その対価に人間の命を、しかも10も求める呪具に背筋が震えた……


人間ひとは、どれほどの罪を背負っているんだ……」


 この社会がその裏でどれだけの血を流しているのか、理解しているつもりだったが、正直最近の穏やかな日々でそのことを忘れかけていた。

 そして、自分がなそうとしていることが、10人の命を駒のように利用する、《《そういう事》》だと知ってしまったのだ。


「俺は……、俺は……」


 アーシュはしばし悩んだ後、その部屋をあとにした。

 彼は、決めることが出来なかった。



「アーシュ様、大丈夫でしたか?」


「旦那様? 顔色が……」


「大丈夫だ、今は、まだ準備が出来ていない……一度帰ろう」


 それ以降、アーシュはふさぎ込むことが多くなった。

 メラやヤドが何を聞いてもその理由は教えてもらえなかった。

 二人への態度が変化するようなことはなかったが、時折なにかに苦しんでいるようだった。

 メラとヤドは変わらぬ幸せな日々を過ごさせてもらっていたが、主人の苦悩に寄り添えないことに心を痛める日々を送ることになる。



 そんなアーシュ達に、暗雲が近づいていることは知る由もなかった。


「そうなんですよ領主様、そいつらは突然村に火を放って全てを奪ってにげやがったんです」


「……ふむ、だから税が払えぬと……」


 身なりの良い男にそれを守るように多くの騎士、その前に膝をついて必死に弁明をする男。


「その犯人はわかっているのか?」


「いえ、宿帳も全て焼けてしまって……ただ、猫人の獣人を連れた若い中級冒険者でした!」


「つまり、冒険者風情が我が領地を荒らしたと……」


「そうなんですよ……へっへっへ」


「とりあえず、税を払えぬのであれば、皆奴隷落ちだ」


「え、いや、しかし、それは……その冒険者が悪いのであって」


「そうだな、その冒険者も悪い。しかし、お前らも悪い。それだけだ。

 やれ」


「ははっ!!」


「お待ちを、どうか!」


 騎士たちは村人に隷属の首輪をつける。

 村を作ったときの契約のせいで奴隷化はそれだけで成り立ってしまう。

 彼らの過酷な日々は、死ぬまで終わることはないだろう。


「しかし、獣人を連れた冒険者……落とし前はつけてもらわねばな。

 足取りは掴めているのか?」


「ははっ、獣人を連れた冒険者はフーランジュへと向かったようですトリルバ子爵様」


「わが領地を害し、我をコケにした罪払ってもらうぞ冒険者……」


「名前は、アーシュ・サカキと言うそうです」



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