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第25話 増えた仲間と日常

 ヤドはみるみる回復し街での生活が可能だと判断できるほどになった。

 アーシュたちは小屋を後にしてもとの宿に追加料金を払って3人での拠点とした。正式に宿をアーシュの奴隷として以前の呪符を使った簡易契約から紋を使用した本契約にした、これは冒険者登録に必要だからだ。

 それからは毎日街のお使いのような仕事をこなす日々が続いた。

 ヤドは回復しただけでなく、アーシュたちと共に生活をすることによって本来のドワーフ種族の特性である屈強な肉体も手に入れていく。


「本気でいいぞ!」


「は、はい……」


「それでは、レディーゴー!!」


「ふんぬっ!! ぬぐぐぐぐぐっ……」


 顔を真赤にしてアーシュがヤドの腕を倒そうとするが、そのたくましい腕は全く動かない。


「す、すみません御主人様!」


 バーンと一気にアーシュの腕がテーブルに倒されてしまう。


「……負けた……」


「すみませんすみませんすみません」


「いいのよヤド、アーシュ様が本気でやれって言ったんだから」


「よし、でもこれではっきりした。ヤド、武器を見に行くぞ」


「武器ですか?」


「今までの戦闘訓練で鍛えたことを実践で示してもらう!」


「は、はい!」


 それから3人で武具屋に向かう。フーランジュの街は鉱山都市、とうぜん鍛冶の最先端の街である。何店もの名店が軒を並べている。

 鍛冶屋+武具屋が基本になっていて、個人の注文武具もあるし、汎用生産品もある。鍛冶屋では多くのドワーフの奴隷が過酷な職場で使いつくされているという現実もある。

 京一の本で教えられた店はドワーフにある程度まともな生活環境を与えているお陰で室の高い武具を提供している隠れた名店を知っている。目立たない場所にあるし、店の対応をドワーフにさせるので、そういう点で利用客は絞られている。


「おお、アーシュさんこんにちは」


「デイ、今日はこの子の武器を探してるんだ」


「なんと、同族ではないですか……って、ヤドか? 見違えたな」


「な、なんで知ってるんですか?」


「いや、一度ゲルフさんの店に納品があって、あまりに、その酷くて、目に焼き付いててな……アーシュさんに拾われたのか、良かったな」


「はい、本当に」


「わかったぜアーシュさん、前に言ってた重量級だな」


「ああ、ゴーレム対策にな」


「……やっぱ、俺達にはこれだよな」


 店番のデイが持ってきたのは巨大な戦槌、無骨だが、いい面構えをしている。


「いいな、俺が気に入ったよ」


「はは、アーシュさんならそう言うと思ったよ。ただ、持ってみますか?」


「ああ……って、重っ……くっ、なかなか、難しく」


「正直人間のバランスだと扱いづらいですよね、ただ、俺達は」


 デイはヤドに戦鎚を手渡す。ヤドはそれを受け取るとブンブンと振り回す。自然に腕の力で扱うんじゃなく、重量を利用して扱う方法がまるで血に刻まれているかのように手慣れている。背の低さが下半身の安定を産んで戦鎚の超重量にも身体を持っていかれないドワーフの体格的特性ともバッチリ噛み合う。


「決まりだな。いくらだ」


「差し上げますよ」


「いや、それはだめだろ」


「いや、本当にそれは売り物にはならないんですよ、これを扱えるほど大事にされているドワーフなんて、いませんから」


 この工房である程度の生活を確保されているドワーフをして、ヤドの状態は勇ましき戦士だったドワーフの姿を想起させ、彼の目をうるませるのだった。


「……よし、だったら鎧一式も全て買う。これは譲れない」


「アーシュさん、あんた……いや、それならこっちも商売させてもらう」


「旦那様、こ、こんな武器だけじゃなく鎧なんて、わちし、奴隷ですよ?

 ドワーフだし……どうしてここまで」


「……そうだな、夜にでもたまには街の外で話すか」


 デイはドワーフ用の物で無くても全て作り直すと言ってくれたので、アーシュは気持ちよくフルプレートの鎧を一式購入した。デイの腕でドワーフが扱うのにちょうどいいサイズに作り直すのに2週間ほどかかる、それからが本格的な遺跡探索の開始となる。それ以外にもアーシュは補助的な武具やメラの武具を購入し店を後にした。


「夜の材料と酒を買うぞ」


 ヤドはついにダンジョンで使い潰される最後の晩餐かと緊張していた。

 奴隷に与えられるにはあまりも分不相応な立派な武具を揃えてもらい、そして酒まで振るわれる。10歳から酒を飲むほどの酒好きのドワーフだが、今の世の中で酒を飲めるドワーフはめったにいない。魂に刻まれている欲求が酒を求めるが、それを得るのは死ぬ間際と伝え聞いている。


「大丈夫よヤド、私も遺跡に入る時は人間の冒険者と変わらない、いえ、もっと良いものを身に着けているの。詳しい話は今晩だけど、あなたはこれからも大切な私達の家族みたいなものよ。アーシュ様を信じて」


「は、はい」


「荷を頼む」


 アーシュは人前で二人に話しかけるときには堅物になる。


「はい!」


 その言葉遣いもそとでヤドやメラに嫌な思いをさせないための気遣いであることをメラから聞いてから、ヤドはアーシュを心の底から信じようとしていた。死ぬほどの目にあったヤドの枯れていた心に、アーシュは水を注ぎ続け、ついに花が開こうとしていた。


 アーシュ一行は買い物を済ませ、宿に外泊の言伝をして街を出る。

 山道を歩いて山林へと侵入する。周囲のいくつかの山林地帯では薬草や狩猟なども行われるが、あまり人の手ははいっていない。アーシュたちは採取系の依頼も積極的に受けるために周囲の山林は庭のようなものだ。何箇所か小屋を設置するのに適した水場も近いところも当たりがついている。


「よし、ここにしよう」


 実はアーシュもメラもまだヤドに収納の話などはしていない。

 眼の前に突然現れた小屋にヤドは目をまん丸くして絶句した。


「私もこうでした?」


 メラは驚いた宿を見て主人に問う。


「こうだったよ」


「わちしの目がおかしくなったんですか……なに、何が起きたんですか……?」


「アーシュ様の収納魔道具。凄いでしょ、家が入るし、しかも、まだまだこんなもんじゃあないのよ」


「というわけでヤド、君には俺の共犯者になってもらう」


「きょう、はんしゃ……?」


「俺の夢について話すんだけど、まずは料理を作って食べながらにしようか」


「き、気になって集中ができなそうです」


「そこは頑張ってくれ」


「頑張りましょうねヤド」


 ヤドは混乱していた。メラといっしょに料理を作っていたが、頭の中はずっとぐちゃぐちゃだった。


 



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