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第23話 相性

 地下遺跡を降りて魔物との戦いは特に問題なく対応が可能だった。

 しかし、困ったのはゴーレムだった。

 

「くっ、対応法は解っているんだがっ!!」


「か、硬い!」


 首の下に描かれたאמתと刻まれた回路のאを消して死を意味するמתへと変えることで停止する……のだが、回路をあらわにするためには当然そこを守ろうとするゴーレムの妨害を突破しなければいけない。しかしゴーレムの装甲は分厚く剣で対応が難しい、特にメラはスピード重視の短剣スタイルで相性が悪い、二人で陽動をかけながらなんとか対処は出来たが、こんな戦闘が連戦するのは大変すぎるということで初めての調査はすぐに打ち切りとなった。


「いやー、対応できると思ったんだけど、想像より硬いな……」


「まるで役に立てませんでした……」


「賢いなあのゴーレム、メラの攻撃が通らないと判断すると俺に集中してたし」


「屈辱」


「装備を強化、しても付け焼き刃だなぁ……重量系の武器を扱える仲間を入れるのが一番か……仲間、ねぇ……」


 アーシュは悩んでしまう。冒険者の仲間を作るためにはメラを受け入れてもらってしかも奴隷や獣人に偏見を強く持たないという条件があるので、ほぼ不可能に近い。


「奴隷を増やしますか……?」


「うーん、そういえばペロとリーザは順調?」


「はい、ふたりともうまくやってくれています。アーシュ様がいなくなってどうなるか不安もありましたが、街の皆様も良くしてくれているそうです。商売は、大変に調子がいいみたいですよ」


「あると便利がある。をコンセプトにしてるからな、あえて高単価商品をおかずに利益も抑えめ、獣人の店を襲ってやろう! みたいな気も起きないほど生活の費用程度しか稼いでないからね」


「慧眼です。数回チンピラが絡んできて、あまりの小規模な商いで絡むのを止めたそうです」


「やっぱり多少はあるよね……ってうおっと!」


 突然アーシュが歩いている横で扉が激しく開いて中から何かがふっ飛ばされてきた。アーシュはとっさにそれを受け止めた、が、それが人の形を成していることにおどろいた。


「な、なんだ!?」


「あー、すみませんね旦那! そいつはもう用済みなんで裏にでも捨てようかとおもいましてね」


 アーシュは受け止めている塊があまりにも酷い状態であることに気がついた。


「……いらぬのなら、もらっても構わんか?」


「はい? それをですか?」


「ああ、どうせ捨てるなら、いろいろと試したいことがあってね」


 アーシュは腰にさした剣を少し抜いてにやりと笑いを作った。


「あー、なるほどなるほど、では、こちらのカードごと処分をお願いします。

 なーに、お代は結構ですんで」


 呪術の主がカードを持つことで支配できるタイプ。つまり、かなり安価な奴隷だ。


「では、もらっていこう」


 アーシュは袋を取り出しその人物を袋にいれる。そしてメラにその袋を渡す。


「急ぐぞ」


「はい」


 メラは優しく袋を抱きしめ走りだした。


「くくく、良いものを手に入れた。世話になったな」


 アーシュは銀貨を一枚指で弾いて店員に渡した。


「旦那! ありがとうございます!」


 それからメラを小走りに追っていく。


「どこで治療しますか?」


 街を出よう、宿では荷を確かめられる。


「わかりました」


 そのまま街を出て山間の道なき道を突き進んで適当に人目につかない場所を探して小屋を設置した。


「机の上に布を敷くから、その子を寝かせてくれ」


「はいっ!」


 横たわった奴隷の子の状態は、酷い、の言葉では表せないほどひどいものだった。


「くっ……何をするにもまずはこの脱水を……」


「私は何をすれば」


「湯を沸かして部屋の温度をあげよう、それからこの布をお湯で固く絞ってぬるい状態にしたら汚れている部分に被せて汚れを浮かせる、その後綺麗にしていく。外傷はどんどん俺が治療していく、ちょっと腕持っててくれ」


 枯れ木のようなガリガリの腕をメラが保持する。


「この部分を軽く押さえてくれ」


 極度の脱水のせいで駆血をしてもあまり血管が露出しないが、アーシュは迷いなく血管に京一の残してくれた留置針を血管に入れる。体内に流れる血液と同等の浸透圧に調整された生理食塩水という液体を流していく、メラは見たこともない処置をするアーシュに驚きながらも言われた仕事をこなしていく。

 

「元々は大した傷じゃなかっただろうに……」


 汚れてこびりついている服だった布をぬるま湯でふやかしてから剥がしていくと皮膚も酷い状態だった。そして、この奴隷の子が女性で小人系の亜人であることが判明した。とにかく洗浄をして壊死している皮膚を除いていく。アーシュは夢中に京一の本で学んだことを発揮していく。あまりにも壮絶な状態で逆に冷静に書かれていたとおりに手が動いた。冒険者として数多の敵を、時に人を相手に血を流して得た解剖的な見識も役に立っていた。


「この状態でよく生きていてくれた……」


「……ごめんなさい」


「どうしたメラ」


「奴隷は本来こうだった、そう、私は幸せすぎました……それが、申し訳なくて」


「……そういう気持ちにならなくて良い世界を作りたいな」


「はい……」


 二人は日が暮れても処置を続け、全ての処置が済んで一段落が着いたのは深夜だった。


「よく頑張ってくれた……」


 体中の汚れを落とし、伸び放題で固まった髪の毛は短く整え、傷を洗浄、壊死組織の除去、薬草を貼って包帯を巻いていく。少なくとも四肢の骨に以上はないが、体中の筋肉は痩せて酷い脱水状態、栄養状態は推して知るべし……回復にはかなりの時間を要することは疑いようもなかった。

 体中包帯だらけの子は初めの頃から比べると随分と呼吸が深く安定していた。

 

「名前はヤド、ドワーフだったのか……」


 ようやく処置を終えて軽食を口にしながら奴隷カードの情報を読んでいく。


「16か、若いな」


「私より5つも下なんですね」


「メラって21なんだ」


「言ってませんでしたっけ?」


「そういや俺の年齢も言ってない気が」


「確かに、おいくつなんですか?」


「えーっと、18になったのかな?」


「……18? アーシュ様、年下だったのですか!?」


「そういうことになるな」


「25くらいかと思ってました!」


「ははは、メラのほうがお姉さんだったね」


「……年下……いいですね」


 メラはアーシュの身体に絡みつくような視線で全身を見回した。


「……流石に今はダメだぞ」


「酷いです。私はそんな節操なしではありません」


「え?」


「え?」


 夜は更けていく。





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