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第22話 地下遺跡

 宿は大都市の豪勢な物ではないが、歴史を感じられる風格がある。危うい村にあるような信頼の置けない宿に比べれば十分に安心を得られる。ギルドから紹介されるだけあって奴隷にも慣れていて、他の場所に比べればいい意味で奴隷がいても気にもされない。


「ふぅ、なんだか久々だな宿も」


「すみ、あっ」


「謝るの禁止だぜ」


「はい、すみっ」


「はははは」


「……次はどうされますかアーシュ様」


「そうだね、今日は……市場で準備を買い出してこのまま宿で休もうか、ようやく街につけたし、しばらくは普通の依頼で名を売って、邪魔されない程度になったら迷宮に挑む、そんな感じで考えてる」


「わかりました」


 大都市の市場にアーシュは興味津津だ。そしてこの歴史ある都市の市場はその期待に答えてくれた。

 店舗の店構えはどこも歴史を感じさせるどっしりとした安定感、美しい商品の陳列と豊富な物資、市民が利用する市場には様々な色の天布の屋台店が大量に並んでいる。売り手の元気な声と買い物客で凄まじい活気だ。


「こんなに多くの人見たことがない」


「鉱山から出る鉱石によって街が潤っていますから、それにしても圧巻ですね」


「見たこともないものがたくさんあってもう何見ればいいかわからないね」


「アーシュ様、何名か気になる目線の人間がこちらを伺っています、あまりキョロキョロしていると狙ってくると思います」


「ああ、そうだな。少し落ち着くよ」


 二人は一見前後に並んで歩いているだけに見えるが、短距離の会話ができる魔道具を使用して会話している。こうすることで二人の距離感は普通の主人と奴隷に見える。

 こっそりと二人で市場を楽しみ、その品揃えや質の高さに驚いたりもしたり、奴隷、亜人を店内に入れてもらえない普通の対応にため息を付いたりしながら二人はこれからの生活に必要なものをカモフラージュも含め揃えていく。

 食事は部屋で二人でゆったりとすることになる。部屋の中であれば文句を言う奴らもいない、彼らにとって一番環境のいい場所となる。


「いやー、買いすぎたな」


「買われてましたね」


「ま、しばらくしたら夜の方でも必要になるから一部はしまっておくとして、見たこともないような料理もたくさんあって、飲み物もすごい種類あったな」


「お金が集まるところには物が集まるのですね。武具はどうでした?」


「やっぱり凄いね、鍛冶の技術も歴史があるのもそうだけど、最先端の技術が集まっていた。しばらく稼いで怪しまれないようになったらいくつか買いたい物は目をつけたよ」


「では明日から頑張らないといけませんね!」


「ああ、また時間はかかるだろうけど、やっていこう。とりあえず、今日は食べて休んで明日に備えよう」


「はい、それではいただきます」


 家畜の肉を様々な香草とスパイスで漬け込んでじっくりと弱火で焼き上げた噛むと肉がほろっと崩れるような食感と口の中に広がる芳醇な油と香り、少し強めの塩加減は酒を進めてしまう。

 根菜を中心に優しい塩気で野菜本来の旨味を引き出しているスープは体に染み渡る。

 パンも種類が多く、様々な練り込まれた物で特色を出していたり、切れ込みに肉や野菜、チーズなどを挟み込むことで一つの料理へと進化している。

 甘みを抑えたスッキリとした酒から、酒精の強いコク深い味わいの物、定番のワインやエール、ウイスキーやブランデー、果実酒、物珍しさに買い集めたものを少しづつ味見をしていく。

 腹も満たされ程よい酔いが二人を幸せな空気と気分に包み込む。


「いや、もう食べられない……」


「私も、食べすぎてしまいました」


「そろそろ湯を用意するか」


「もう準備しております、アーシュ様上着をお脱ぎください」


「いやいや、自分でやるから大丈夫だって」


「だめです、これはやらせていただきたいのです!」


「……メラ、今日はちゃんと休むからね」


「も、もちろんわかっております! ささ、脱いで脱いで」


「こういうときは強引なんだよなぁ……」


 詳細は記さないが、メラの策略にアーシュは逆らうことが出来なかった。


 翌日からフーランジュでのアーシュの冒険者としての日々が始まる。

 風穴の遺跡が存在するこの街を拠点とする冒険者の目的はほぼ遺跡なために、それ以外日常生活向けの依頼が貯まる一方だ。特に人口も多いために仕事は山積み、もちろんそちらをこなして日銭生活をしている冒険者もいるが、そういった冒険者は基本的にあまり能力も高くなく、仕事の質も低い……

 アーシュはそういった人たちの仕事を完全には奪わない程度に積極的に依頼を消化していく。

 数ヶ月もすれば溜まりに溜まった依頼はすっかり一新し、冒険者ギルドの市民への評価も変化する。メラもアーシュの奴隷であると認識され顔なじみの場所では冷遇されなくなってくる。


「よし、足場は出来たな。明日は遺跡に潜ってみよう」


「ようやくですね」


 そして夜の活動も広めている。今ではリョウマという存在が奴隷や亜人の間で少しは聞かれるくらいには広まっている。あまりに露骨にアーシュの活動と被せないために数ヶ月ずらして活動を開始している。


 こうしてアーシュは風穴の地下大遺跡へと挑戦する。

 古代のドワーフの国家跡と言われる遺跡は巨大な街と中央の城部分に分かれている。城の地下にはさらにダンジョンが広がっている。

 城下町の敵は魔物とドワーフが生んだゴーレム達。

 城に入るとより強力なゴーレムが守っている。なぜか魔物を攻撃しないゴーレム、協力をしているわけでもないので、不可侵の別勢力なのだろう。

 ダンジョンにはより多くの魔物が巣食っている。

 この三段構えのせいでダンジョンの調査は進んでいない。

 時代は長いのに未だに美味しいダンジョンとして残り続けている。


「俺達の目標は城にある古代図書館。京一が調べた浅層の先が目的地になる」


「わかりました」


「魔物の情報は頭に入ってるか?」


「問題ありません」


「では、行こうか!」


「はい!!」


 遺跡へと続く巨大な門がゴゴゴゴと音をたてゆっくりと開いていく……






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