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第21話 フーランジュ

 大洞穴への長い旅路の途中に大きな街はそれほどなく、結局アーシュとメラは野宿を張ることが多くなった。野生動物や魚、木の実、キノコや果実などを集めながら進んだために結構な時間がかかってしまった。

 それでもアーシュもメラもその時間を楽しく過ごしていく。特にメラはアーシュの寵愛をその身一杯に受ける時間が増えて益々主人への敬愛の念を深めることになる。


「あれがフーランジュのあるビアル大山脈か」


 アーシュたちの眼の前に巨大な山々が連なっている。この世界でも屈指の巨大遺跡があるフーランジュ、なぜそんな大山脈の山中の風穴に発展した都市が存在したのか、その理由は山脈に近づくことで理解できた。


「こ、これが人工的に作られたのか……」


「凄まじいですね」


 巨大な穴、トンネルが山肌に作られ、まっすぐと大風穴まで続いている。ビアルトンネルと呼ばれる古代の遺跡だ。トンネル内は薄明かりで照らされ、ある程度の距離ごとに休憩所が存在しており、上下水道が魔道具によって整備されている。古代の魔法文明の凄まじさに触れることが出来る。


「普通こんな魔法文化があったのなら簡単に魔法が無くなったことを疑問に思いそうなんだけど、俺も当たり前に受け入れていたからなぁ」


「異議を唱えれば教会が黙っていません。お気をつけくださいアーシュ様、このトンネルも声がよく響きますから」


「大丈夫、ちゃんと声が届かないようにしてるから」


「それも魔道具ですか……ん? その魔道具を使うと周囲に音が漏れないのですか?」


「そうだよ、光の遮断も出来て隠密行動時に役に立つよ」


「……違うことにも役立ちますね、それ……」


「ん? なんか言った?」


「いえ、なんでも」


 その魔道具の存在を知って、メラは、我慢を止めた……


 馬の休憩時にはメラは荷台に隠れるという方法で過ごし、二人はトンネルを進んでいく。3日ほどトンネルを進むと終わりが見えてきた。


 アーシュとメラがトンネルの出口を抜けると、その光景は目を奪われるものだった。


 真っ二つに割れた風穴の岩壁は途方もない高さでそびえ立ち、まるで巨人の刃が大地を切り裂いたかのような迫力を放っている。その岩壁には無数の足場や吊り橋、エレベーター式の搬送機が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、鉱山都市フーランジュの産業を支えていた。


 大小様々な建物が、岩肌や崖の段差を巧みに利用して建てられ、精密に積み上げられたブロックのように密集している。都市の中心部には巨大な時計塔が立ち、魔道具によって一定のリズムで鐘が響き渡り、労働の時間を知らせている。


 街を覆う空気は鉱石の粉塵で僅かに霞み、その霞を突き抜けるように、あちこちで鍛冶の火が赤々と燃え上がっている。耳を澄ませば、採掘作業の音、金属が打ち合わされる鍛冶の音、さらには人々の活気あるざわめきが入り混じり、都市全体が生き物のように脈打っていた。


 市場や通りには多様な人々が行き交い、労働者、商人、職人がそれぞれの営みに勤しむ。至る所で魔道具の光が都市を彩り、夜になればその光が星空のように街を浮かび上がらせることだろう。


 フーランジュは古代魔法文明の遺産を利用しつつも、自らの力で発展を続けてきた、世界有数の鉱山都市としての誇りと生命力に溢れていた。


「これは……凄まじいな……」


「本当に、凄い……」


「止まるな止まるな! 後ろがつかえる!」


 空を見上げてぼーっと馬車を止めていたせいで怒られてしまった。

 メラには目深にフードを被らせ、街の人々からの冷たい目線から守ることにした。


「まずは冒険者ギルドで登録だな」


「アーシュ様、申し訳ないのですが装備はしまわせていただきます」


「……解った……すまんな」


「いえ、当然です」


 メラは整っているが粗末な服にわざわざ着替えて、アーシュの背後を着いて歩く。

 こうすることで、ようやく二人は周りの人間から無視してもらえる。

 メラにまともな服を着せていれば、それを揶揄する人間が必ず聞こえるように言葉をぶつけてくる。それが最高に気分を害する、アーシュもメラにそんな格好をさせるのは嫌だったが、それ以上に、言葉の暴力に晒すことのほうが嫌だった。


「しばらくこちらに滞在する」


「アーシュ・サカキ……中級、若いのに、やるのね。で、奴隷一体と」


 メラを一瞥もすること無く受付の女性は手続きをしていく。


「それじゃあ、遺跡への入場税をもらって……はい、これが2人分の入場証、絶対に無くさないでね、手続きが大変になるから」


「わかった」


「奴隷は入場証目当てでよく殺されて奪われるから、ちゃんと見ておくことをおすすめするわ」


「ご丁寧に痛み入る」


「奴隷付きなら宿は4番街になるから、ギルドを出たら右手まっすぐ、ここになるわ。この街は迷いやすいから気をつけてね」


 街の地図に宿の印もつけてくれた。


「有能な冒険者は大歓迎、この街でも溜まってる依頼たくさんこなしてね」


 冒険証に記憶されている情報からアーシュのクエスト達成量やその内容から実力はある程度知られてしまう。


「もちろんだ、俺は物好きな冒険者らしいからな」


「ふふふ、上司の機嫌を良くしてくれるもの好きなら歓迎するわ。頑張ってねアーシュさん」


「早速旅の途中で手に入れた物を換金したい」


「隣のカウンターでどうぞ」


 アーシュはそれなりの魔物の素材や動物素材を納品しさっそく評価をあげていく。

 次に二人が向かったのは馬車を扱う商人のところだった。

 馬車はここで一旦売却する。長期滞在で管理することが非常に難しいからだ。

 すでに荷は収納している。

 売値は買ったときの1/4くらいになってしまう。長旅で馬車自体も傷んでいるので仕方がない。


 それから二人は教えてもらった宿へと向かう、メラへの視線は、やはり冷たいものだった……





 


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