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第18話 河岸での告白

 突然川辺に現れた家、家といっても木で作られた簡単なログハウス風の建築物だが、まさかそんな物が現れると思っていないメラからすれば驚きのあまり気を失うところだった。


「ど、どれほどの収納力のある……いや、もう、凄すぎる……」


「驚いた?」


「はい、産まれてこの方、一番の驚きでした」


「だよな、俺も始めは驚いたよ!」


 アーシュはここ最近メラの前では年相応な話し方顕著になっていた。そのせいでアーシュ・サカキとして話している時に変な敬語みたいになることが悩みの一つになっていた。彼にとって、メラは心許せる初めての存在、大切な友人に変化していた。


「さて、魚でも釣るか」


「釣り……ですか、食材はあるのでは?」


「そこは、あれだよ、浪漫?」


「よくわかりませんが」


「まあ良いじゃないか、ホイ、これでエサはそこら辺の虫で」


「わかりました。アーシュ様の食事のためにも頑張ります」


「負けないぜ」


 それから二人はしばらく釣りを楽しんだ。釣果としてはアーシュ5匹、メラ12匹と圧倒的だった。


「……ま、まぁ。猫人の狩りへの適性は非常に高いって本にも書いてあったから」


「恐縮であります」


 それからはアーシュがメラに魚のおろし方と塩での処理を教えながら一緒に調理を楽しんだ。


「メラは酒飲むの?」


「いえ、飲んだことはありません」


「飲んでみる?」


「お付き合いいたします」


「おれもそこまで好きな方じゃないけど、京一はかなり研究したらしくてね。

 で、京一の酒は美味しいんだよ」


 アーシュが取り出したのは美しいガラス瓶に輝く琥珀色の液体。

 

「フルーツで作るワインとはまた違ったブランデーって言うらしい」


「複雑な香りがしますね……いただきます」


「濃いからきつかったら水で薄めてもいいぞ」


 メラはほんの少し口にする。果実の香りと木の香り、それにまろやかなアルコール感、この世界に存在する酒よりも遥かに洗練された味わいにメラは驚いた。今までの主人が飲んでいたワインとは香りがあまりにも異なる。そして、初めて飲むメラにとって、この液体は味わい深く美味しいと感じた。


「美味しい、のだと思います。すみません、はじめてなもので……喉が温かい……」


「おお、メラも結構飲めるんだね。獣人は感覚が鋭いからきつすぎるっていわれることもあったって本には書かれていたけど」


「大丈夫みたいです、すごいですね、残り香も変化して余韻も感じます。

 お腹の底が温まる感じもあって、とてもいいですね」


 メラの耳がピコピコと動いて、尻尾もゆらゆらと機嫌良さそうに揺れているのをみてアーシュも笑みがこぼれた。それから二人で魚や干し肉、それとオーク肉などと酒を楽しんだ。そして、アーシュの秘密の話になる。


「とりあえず、京一が残してくれた遺産。それを見せたいんだけど、一応家の中にしようか、見られたらまずい」


「かしこまりました」


 火の始末をして家の中に入る。机と椅子、それにベッドとても簡易的な部屋だ。

 中央の明かりをつけると部屋の隅々まで明るくなる。照明型の魔道具であることがわかる。木窓を閉めれば外からは完全に遮断される。


「ちょっとまってて、顔洗ってくる。楽しくて飲みすぎた……」


「……私も行きます」


 メラも身体が温かく、少しぽーっとしていたので、二人で川のよく冷えた水で顔を洗って意識をしゃっきりとさせる。


「京一は異世界人、この世界とは別の世界から呼ばれたらしい。

 それからこの世界のルールに馴染めず獣人たちと隠れ暮らしていたんだが、人間たちは獣人が反映しているのを許さず、京一を逃がして皆……

 それから京一は世界を変えるためにこの国を調べて回ったらしい。

 京一には異世界転移した時にいろいろな力を与えられていて、それを使って冒険者として遺跡探索などをして太古の時代に存在した魔法という力を探し求めていた。

 結果としていくつもの遺跡で多くの魔道具、装具を手に入れてそれを残してくれた。彼の知識を本にまとめて、この世界に疑問を持つものに受け継がれるように……。そして、収納の指輪に納められていた魔道具、装具がこれらだ」


 部屋の壁に武具が並べられる。机の上に魔道具。どれもメラが見たことがあるような一般に出回るようなものとは比べ物にならないものだとわかる。


「俺が使い方をちゃんと理解しているのはこの無形の金属、持つ人間の意志に合わせて変形する金属の塊、これと京一の獣医師という動物を癒やす知識技術でとても信じられないような治療が可能になる。あと普段俺が使ってる不壊こわれずの剣、一見普通の剣だけど滅茶苦茶頑丈だし、鞘に入れとくと勝手に研がれた状態に戻る。鎧の下に来ているこの布は普遍の服でかなりの高温でも低温でも快適に活動できる。目立たないのはこれくらいで、あとは見ての通り、派手でとても使えない。あ、そうだ、認識阻害の指輪も普段使ってた。夜にはこの姿で獣人奴隷とかの支援をしてたりする」


 アーシュは黒衣の姿に変わると、認識阻害で160程の小男の姿になる。

 メラはもう、驚くことを諦めていた。


「……ふぅ、とんでもない秘密だらけですねアーシュ様は」


「持て余してるけどな」


「それはそうでしょう、これは、おいそれと見せていい品は一つとしてない。

 それに、その黒衣の姿での奴隷の支援というのは?」


「昼に見かけた危険な怪我や病気の治療とか、食事を融通したり、ま、見える範囲で偽善行為をしてる自己満だと解っているけど、今は力がないからその程度しか……」


「アーシュ様のような主人を持てて、私は心の底から幸せです……」


「これからはメラにもその活動を手伝ってもらいたいし、少しづつ獣人や亜人の間にこの黒衣の姿、リョウマの存在を広めたいんだよね。そしていつか皆の理解を得て協力して欲しい……」


「この身命全てを使ってお手伝いいたします」


「はぁ、ちょっと一気に喋って頭が熱くなってきた。水浴びでもしてこようっと」


「お供します」


「だ、だめだって。前も言ったけど……」


「……このような秘密を共有しました。アーシュ様には身も心も私を支配していただきます」


 メラはアーシュに抱きつき、唇を重ねた。

 アーシュは驚いたが、そのまま彼女を受け入れたのであった……


 こうしてメラは身も心もとろけるような、奴隷の身分となって諦めていた甘美な時間を知ってしまうのであっ

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