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第15話 メラ

「アーシュ君、バリスさんの依頼を受けたのね」


 ミキナはメラを一瞥すると興味なさげにアーシュと話し始める。決して問題のある人間でもないミキナでも奴隷、獣人への対応はこんなもんなのだ。


「ええ、これからは一緒に依頼をこなす形になっていきますね」


「大変ね」


「人出が増えるのはありがたいですよ」


「ふぅん」


「と、いうことでこちらの依頼を」


「……普通なら止めるんだけど、アーシュ君なら大丈夫なんでしょうね」


「危険度はきちんと測っています」


「解ったわ、死なないでね」


 アーシュはオーク討伐を受ける。オークは力が強く、そして社会を形成する。集団になると数も増えるのでオークの発見報告が増えるとその近くに村がある可能性があるのでその調査と可能であれば村の殲滅までが依頼内容だ。

 

「村の殲滅まで行えば……中級昇級の可能性が高い、リスクを獲ってでも受けたい。

 それに今回はメラがいるからな、一人でやるよりは賞賛が高い」


「アーシュ様はオーク相手にソロで勝つ、ということですよね」


「ああ、問題ない。メラはどうだ?」


「……一対一であれば、問題ないかと、複数相手では自信はありません」


「だったら二人で背を合わせれば問題ないな」


「……そうですね」


 今まで人と肩を並べて戦ったことなど無い、常に敵の中に放り込まれてきたメラにとって想像したこともない戦い方だが、アーシュと並び戦う姿を想像すると負ける気がしなかった。


 アーシュがメラを連れて歩くようになっても、町の人達はメラに対して一切の興味も持たない。ああ、獣人奴隷を荷物持ちとしてでも雇ったのか、肉壁として使うのだろう。程度の認識しかしない。アーシュに対して非常に好意的な善人と言って良いような間柄の人でも皆そうなのだ。アーシュはその事実に毎回心に小さなトゲが刺さるような痛みを感じていく。


「やっぱり、この世界では当たり前のことだもんな」


「アーシュ様……」


 そんな主人が静かに傷ついていく様はメラにとって哀しく、辛く、そして自身への怒りを覚えた。自分の存在が主人に嫌な思いをさせてしまうことが耐え難かった。


「アーシュ様私をお連れになることが不快であれば離れておりますが」


「ああ、顔に出てたか。すまん。大丈夫だ、慣れていかないとな」


「それは……」


 これ以上言ってもアーシュを困らせるだけなこともメラは解っていたので、それ以上主人の決定に口を挟むことはしなかった。


「いや、アーシュ様、流石にこれは……」


「良いのですか? 本当に?」


 アーシュの次の行動はメラとその店の店主を大いに困惑させた。


「大切な人から引き受けた以上、出来ることはやっておきたい。

 私は完璧主義なので」


「なるほど……そういうことであれば、まぁ、うちとしてはお買い上げいただけば……まぁ、いいか」


「アーシュ様、このようなものはいただけません、どうか……」


「だめだ。メラには役に立ってもらわなければいけない」


「……はい……」


 アーシュはメラに武器と防具を用意した。奴隷がつけるような型落ちのボロではなく、それなりの冒険者が身につける上等な品を提示した。それ以外にも奴隷に与えるようなものがないような個人の冒険者が持つあらゆる道具もすべて用意した。


「そもそも、せっかく連れて行くならなにか起きたときのリカバリーに良いものをもたせた方が良いし、良い装備で長く活かしたほうが良いと思うんだよな」


「そこにお金をかけるより新しいのを買えばいいと言うのが普通の考え方かと」


「一緒に冒険して色々と理解したりしてコミニュケーションやコンビネーションが取れる相手を失うなんてメリットがあまりにも低すぎる。別にこれはそれほど逸脱した考えじゃなくないか?」


「普通の人はそう考えないかと……」


「そうかぁ、ま、いいだろ、俺は普通じゃないってのは教えたし、諦めろ変な主人にあたったんだ。これからもこういうことは起きるが、慣れろ」


「……わかりました。…………変ではなく最高の主人です」


 メラはとうとう根負けした。そして最後の言葉は主人には聞こえないようにそっと呟いた。


「ん? なんか言ったか?」


「なんでもありません」


 メラの耳と尻尾は期限が良さそうにパタパタと動いていた。


 そんなアーシュでもいくつかの場ではどうしても社会のルールに従うしかなかった。食事の場や酒の場で奴隷が同席すること、格式の高い店に奴隷が入ることはどうしても無理だと諦めることになった。そんな時、アーシュはこの世界で異物であることを思い知らされた。


 結果、アーシュは食事を宿の部屋で自作し、それをメラといっしょに食べることになった。メラは料理というものをやらせてもらったことがないために、変わることが出来なかった。主人が手ずから作った物を食べさせてもらえる、それどころか同じテーブルでの食事を命令され、それだけで頭が再びパンクしそうになった。「諦めろ」また主人からは温かい言葉をいただいた。そして、食事は今まで食べたことがないほどに美味しかった。その後酒の相手を求められ、主人と食後の語らいの時間を与えられた。


「なぁメラ、世界にとって異物が、世界のルールを変えるのって、おかしなことなのかな?」


「お答えするのが難しいです」


「京一という人がいてさ、その人も俺と同じ考え方をしていたんだけど、あまりにもこの世界の常識が変わらないことで散々悩んでいてさ、たとえば人殺しが禁止された国で人殺しを当たり前だって考える人間が常識をひっくり返したら大変な事が起こるよな。だけど、逆だったら良いことって考えがちだけど、それも個人の意見なんじゃないか? みたいな、極端な例だけど……」


「人が多く死なないほうが良いと感じること自体が、自分勝手な考えじゃないのか……変わった考え方をなさる人ですね……」


「……メラ、獣人や亜人は、この世界の仕組みから救われたいと思ってるよな?」


「はい」


「そうか、それが聞けてよかった」


「ありがとうございます」


 メラの瞳からは大粒の涙がこぼれていた。


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