第13話 獣人
呪術師のあまりにも強力な力を目の当たりにして、アーシュは色々な考えが甘かったと反省した。想像よりも自分自身、京一の書と遺産を持ってしても、無力。
とても世界を動かせる用な力がないことを叩きつけられてしまった。
その反動で今まで以上にアーシュ・サカキとして積極的に冒険者として活動、そしてそれを通して自身を鍛えることに注力をした。
また、夜間、闇に紛れてのリョウマとしての世直し、こちらも継続していたが、正直その活動はあまりにも小さな物で、こんな活動に意味があるのかと悩む時間が増えていく。それでも極度の飢餓から壁に生えるコケを削って食べていたような苛烈な空腹を満たし涙を流して喜ぶ獣人奴隷に出会うことなどでやる気の炎を消さずに済んでいた。同時にあまりにも酷い扱いにが火を絶やさぬ燃料となる。
「後はこれを一日に一回飲んでおけ、それで傷は腐らない」
「あ、ありがとうございます……しかし、なぜ……」
「俺は、この世界が嫌いだから、蔑まれるものを自己満足で救った気になってやり返してる気になってる、そんな下らない男だ」
「こんなに、良くしてもらったこと……初めてで……」
「すまないな、今回もたまたまだ。いつも助けてやれるわけではない」
「いえ、いいのです。ありがとうございます」
昼に見つけた傷だらけの獣人奴隷、すでに一部の傷が感染壊死をしてこれ以上放置すれば手足を落とすことになりそうだった。リョウマの姿でその奴隷の屋敷をつかみ、奴隷が押し込まれている納屋に侵入し治療、そして薬を渡す。
認識阻害によって小柄の真っ黒なマスクに仮面をつけた男に見えている。
傷口の壊死部分はデブリートメント、除去し洗浄、その後周囲の毛を利用して傷口を寄せておく、こうすれば治療を受けたことが主人にもわかりにくい、どうせさしたる興味も持っていないが……獣人は生命力が強い、これだけの傷でも適切に治療すればあっという間に治ってしまう。だからこそ放置されて使い潰されていく。本来強者である獣人も、首輪による呪術によって人間には決して逆らえない。隠れ暮らしている獣人も、呪術師に発見されれば呪術によっていとも容易く捕獲されてしまう。
「はやく魔法の情報を集めに行かなければ……」
京一の本によると魔法という存在は太古の昔に人間によって隠匿され封じられているらしく、その封印は世界の中心、世界樹のダンジョンの最下層に存在する。
しかし、そのダンジョンに入れるのは特級以上の冒険者、京一はそこまではたどり着けなかった。しかし、冒険者を引退せざるを負えなくなった後、そのダンジョンに隠された裏道が存在することを突き詰めた。そして、その鍵を手に入れ、アーシュに残していた。しかし、最下層の攻略には相応の実力を求められるし、信じられる仲間が必須。アーシュの最終目的のために超えなければいけない一つのハードルが実力なある信頼できる仲間で、京一いわく人間ではなく獣人や亜人とパーティを組むことがダンジョン攻略には不可欠だとまとめられていた。
「……亜人を奴隷として荷物持ちに使っている冒険者はいるけど、戦う主力に使っている冒険者は見たことがないな」
理由は人間が亜人を下に見ているから、それぞれの種族の本当の力を引き出すような信頼関係を築く気もないから、そう京一は記していた。過去の京一はとにかくこの世界で人間が亜人の信頼を得るのは至難の業、それでもこちらは信用してもらうまで行動し続けるしか無かった体験談が記されていた。リョウマとしての行動が、いつか実を結ぶまで、アーシュは昼と夜の活動に尽力していくことになる。
冒険者としてのアーシュ・サカキの実力や名前も順当に上がっていく、大きな実績が有れば中級昇級も間違いないと言われるようになる頃、アーシュにとって大きな岐路となる出来事が起きる。
「アーシュ君、ちょっと込み入った指名依頼なんだけど……」
「込み入った?」
「建築ギルドのバリスさんわかる?」
「ああ、いつも現場ではお世話になってる」
「バリスさんの奴隷を引き継いで欲しいっていう依頼なの?」
「いや、話が見えませんが……」
「とにかく一度話を聞いて欲しいってことで、その後断ってもらってもいいからって」
「そういうことなら話は聞きますけど……」
要領を得ない依頼だったが、話を聞かなければ始まらない。アーシュはバリス氏と幾度も面識があった。下級冒険者になってからも人気のない下働きの依頼も積極的に受けていた。鍛錬にもなるし、実はお金的にも美味しい、壮絶にきついこともあるが、それも鍛えられると前向きに依頼をこなしていた。そうこうしているとアーシュは建築ギルドの顔なじみとなって引き抜きを受けるほどだった。そしてバリス氏は一人の獣人をそばにおいていた、たぶんその獣人、メラの話なのだろうとは予想していた。
「元気そうだなアーシュ」
「お、お久しぶりですバリスさん……どうされたのですか?」
久しぶりに再開したバリスは、数ヶ月しか会っていなかったのに様子がガラリと変わっていた。以前は恰幅の良い威厳のある親方だったのが、今や骨と皮、やせ細って今にも倒れてしまいそうで心配になる。隣りにいたメラの手を借りて椅子に腰掛け、俺にも座るように促してくる。
「見ての通り、もう俺には時間がねぇ。厄介な病気になっちまってな、治療方法も無いらしい。腹の中に変なものが出来てて、それが色んな場所に……」
癌か、しかも転移している……アーシュは京一の知識からバリスに何が起きたのかをきっとこの世界の誰よりも理解した。そして、彼の死がすでに免れる方法がないことも理解した。
「そう、でしたか……」
「それでな、アーシュ、こいつ、メラの次の主人になってくれないか?」
「……そうかとは思いましたが、なぜ俺なんですか?」




