9.それに、聞いてた?-はい、マスター。ちゃんと聞いておりましたよ-
全43話予定です
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「前に言わなかったっけ? 人間ってのは刺激がなくなると人格崩壊を起こすんだ。それは実験で実証済みだよ。だからその刺激を研究したんだ。その結果が」
カズはそう言うとレイドライバーに繋がれたタブレットを操作する。
「なんで梨の味がするの!? 確かに味がする」
「じゃあこれは?」
「あっ、いやっ、それは堪忍してください」
急にしおらしい声になる。
「今のは?」
と問うトリシャに、
「ちょっとゼロツーの[躰]にいたずらをね。そっか、言ってなかったね。今は、ほとんどの触覚、ほとんどの味覚、ほとんどの嗅覚、脳に入る信号のほとんどをエミュレート出来るようになったんだ。だから栄養以外にちゃんとした[食事]だって摂る事が出来るし、快楽だって味わうことが出来る。やろうと思えば」
「すみません、マスター。それ以上は言わないでください」
声のトーンが上がる。
「まぁ、そういう事。実証済みなんだ、一通りね」
その一通りの中にはもちろん苦痛だって入っている。だからちよっと勝気なところのあるゼロツーでも、こちらがチラリと脅しを見せれば途端にしおらしくなるのだ。それがクスリを使わない[調律]の成果でもある。
「じゃあ二人でしばらく話をしていて。次にクリスの番だ」
カズはクリスと共に彼女の機体であるゼロスリーに向かう。そこでもコックピットが開かれタブレットが接続されている。
「いよいよだね」
「はい、ご主人様。あ、その……プライベート回線の時ご主人様の事は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
クリスがもじもじしながら聞いてくる。彼女にとってカズはそれほどに寄るべき存在なのだろう。
「今まで通りでいいよ。クリスやトリシャの関係はサブプロセッサーには伝えてあるんだ」
「え!?」
それはそんな反応になるだろう。今までの事を、クローズド環境とはいえ第三者に知られているなんて。
「もちろん、公言はしないしさせないよ。まず、レイリアたちにはサブプロセッサーの存在は秘匿しなきゃならない。まぁ、いっそ[こちら側]に引き込んでもいいんだけど、それはちよっと、ね」
――レイリアだけはそのままでいて欲しい。
カズの願いはやはりレイリアがチトセと似ているせいなのか。こちら側についた二人には悪いが、レイリアには黒い部分は見せたくないというのが本音なのだ。
「もちろん、経緯は話してないよ。ただ、トリシャもクリスもオレの事をご主人様と呼ぶことがある、とだけ。そう、その代わりではないけどアイシャたちやさっきのゼロツー、それに、聞いてた?」
唐突にカズがレイドライバーに向かって話しかけると、
「はい、マスター。ちゃんと聞いておりましたよ」
スピーカーから声がする。ゼロツーもそうだがゼロスリーも合成音声なのだ。そしてこの時代の合成音声はほぼ人と区別がつかないほどよくできている。
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