39.これ、は?-トリシャがね、きみと話がしたいってさ-
全43話です
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トリシャはそのままECMをかける作業に当たらせたまま、ゼロツーからワイヤーを引いて機体から少し離れたところに送受信機を置いて、カズは整備ドックへと向かう。
そこでは開かなくなったコックピットを溶接で開ける作業がほぼ終えていた。
「ヤマニさん」
その陣頭指揮を執っていたヤマニに声をかける。
「おおカズか、ちょうど表のバラシが終わりそうなところや。どうする?」
――その[どうする?]は、オレが行くべきだろうって意味ですよね。
そん事を思いながら、
「オレが行きますよ。ハッチを外して」
イキナリ落ちないように支えていた重機がハッチを除ける。するとそこにはレイリアの姿が見えた。
「カズ……」
見れば足元に両腕が転がっている。それをカズは丁寧に取り除くと、手に持ったインカムをレイリアの頭につけた」
「これ、は?」
不思議がるレイリアに持ってきた鎮痛剤の注射を打ちながら、
「トリシャがね、きみと話がしたいってさ」
そう言ってインカムをオンにする。
「トリシャ?」
すごく不安そうな声でそう語り掛けると、
「あんた、良くやったじゃない、お疲れ様」
とトリシャが答えたあと、
「だって一対三の状況で死亡もせずに生き残ったのよ。腕の件は……ごめんなさい、どう言えばいいか分からない。ただ残念だったとしか。でも、その代償を払ってもあんたは生きてたのよ。それは誇っていい事だわ」
いつものトリシャにしては珍しい反応だ。いや、最近のトリシャならそういう言葉も出てくる、と言ったほうが正しいかも知れない。それ程にトリシャは変わった。それも本人が自覚しながら徐々に。角が取れた、と言ってもいいだろう。それだけカズに隷属したことが大きかったという事か。
トリシャは隷属する事で自分の気持ちに折り合いをつけたのだろう。
だが、そんなトリシャの変化を誰もが気付いていた。クリスは当たり前として、
「トリシャ、最近優しくなったよね。どうしてか、知りたい気はするんだけど、多分聞いちゃあいけない気もするんだ。だから聞かないよ、でも気を遣ってくれてありがとう」
レイリアは少し涙ぐんでいた。
――レイリアも変わり始めている。
カズはそう思う。昔のレイリアなら[ねぇ、教えてよ]と素直に言っているところだろう。もちろん、両腕を失ったという喪失感が支配しているのもあるだろう。だが、彼女も少しずつ大人になって行っているのだ。
しばらく[うん、うん]と話をしているのを見守ったあと、会話が途切れたので、
「そろそろいいかな?」
カズがそう言うと、
「うん、切って大丈夫だってトリシャが言ってる」
レイリアが伝言する。両腕を失った今、彼女は自分では何も操作ができないのだ。
カズはインカムを外して、一人の整備士と一緒に両脇からレイリアを抱える形でコックピットから降ろしていく。
その頃には救急セットも運ばれていた。
レイリアを座らせて傷口を確認すると、確かに焼けていた。ちょうど関節を外して前腕部のところを切断されていた。
カズは軟膏を塗布すると応急パッチを上から貼る。鎮痛剤が効いているせいか、痛がりはしない。その作業が終わるとストレッチャーに乗せて、
「とりあえず医務室にいて」
とだけ伝えて運ばせる。
「そうだ、レイリア」
「何、カズ?」
直ぐに返事が返って来る。
「この腕なんだけど、もらっていいかな?」
一見すると[何言ってるんだ]と思われかねなさそうなその言葉に、
「うん、いいよ。カズの好きにしてもらって」
これもラグなしで返って来る。
――即決だな。
それはそれでありがたい事だ。余計な詮索をされずに済む。
カズはストレッチャーを動かしている者に腕を託して[保冷バックに入れておいて]と伝えた。
全43話です




