30.えっ!?-そっ、捕虜だよ-
全43話予定です
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そういう事なのだ。
他の隊員が見ている。機械化部隊の人間も見ている。そんな状態でクラウディアはどの選択肢もとれないでいるのだ。
「パイロットも、この機体も帝国にとって重要なのは分かるよ。だからこうして話し合いをしようとしているんだ。あ、そうそう忘れないでね、この無線は無指向性のオープンチャネルで呼びかけてるから。呼称含めて他の[誰かさんたち]に聞かれてるかもしれないから、そのつもりで」
敵に投降を呼びかけるときは確かにオープンチャネル、つまり敵味方識別なく使える共通の周波数で話すのが一般的だ。だが、それは同時に複数人に聞かれるという意味を持つ。無線機さえあれば拾える、国際法で決まっている周波数だからだ。
そしてカズはこの、今発している無線の指向性を指定していない。つまり全方位に向けて送信しているのだ。
「貴殿は……鬼畜だな。誰が聞いているか分からないこの状況を作って、私にどれか選べというのか」
やっとクラウディアが応える。
「それが指揮官としての責任だからね。オレは貴殿がどの選択肢を選んでもいいと思っているし、どの選択肢も取りうるものだと思っている。もちろんそれに伴った副作用も、ね」
カズの言う通り、どれを取っても副作用がある。だからしばらく黙ったまま、カズの問いに返答出来なかったのだろう。
「万が一誰かに聞かれていたとして、仮にパイロット一名を選択したら、そちらは人道的に配慮したという事実が残り、こちらは味方を切り捨てたという事実が残る。パイロット二名を選択したら帝国の秘密を持ち帰られる、という訳か」
そう言ってからまたしばらくの無言。
皆が見てる、そんな中の無言。
それを破ったのは、
「確かにこの選択は鬼畜だよね。そう言われても仕方ないと思う。そこでだ、パイロット一名の救出を認める代わりにこちらに一名、くれない?」
[えっ!?]
多分その場に居合わせた皆がそう思った事だろう。それは皆が、クラウディアが想定した最悪の答えとも違う、だがある意味最悪の答えでもあるのだ。
「そ、それは捕虜として差し出せ、と?」
明らかに動揺した声でクラウディアが聞く。
すると、
「そっ、捕虜だよ。だから言ってるじゃん[ジュネーヴ条約に従って捕虜の人権を保障する]って。ウチではパイロットの扱いは機密事項になってる。当然、貴国だって同じだろう。これも普通なら飲めない話なのは分かる。だから、時間をあげるよ。一時休戦にしないかい? もし決められないならその間に本国なり上官なりに指示を仰ぐといい。なんなら、この時間を使って負傷した機械化部隊の隊員たちの救助にあたってもいい。その代わり、戦闘は無しだ、守れる?」
カズの声はいつもと違ってどこか嬉しそうだ。
――これは、いけるな。
「上空では戦闘が継続しているのだぞ?」
当然の質問が返って来る。
「もちろん撤収してもらう、し、こちらも撤退する。その際の空爆も無し。本当にこの戦場を[停戦]しようと言っているんだ。それも含めて聞いてみてよ」
カズの声はやはり嬉しそうに聞こえる。
「で、では機体の回収は……」
というクラウディアに対して、
「それは許さないよ、理由は分かるよね。新しいのを作ってくださいな」
即座に返す。
「し、しばらくの時間をくれ。流石にこの私だけでは決められない」
動揺しているクラウディアに、
「だから停戦しよって。まずは今だけ、いい?」
誰も引き金を引かない。それだけこの状況は緊迫しているのだ。
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