19.よく無事に戻って来られた、アルファエイト-戻ってまいりました-
全43話予定です
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司令室では基地司令と参謀がその人物を待ち受けていた。
「よく無事に戻って来られた、アルファエイト」
そう言って司令が、アルファエイトと呼ばれたその人物の肩を叩く。
「戻ってまいりました」
司令の言葉にそう言って返すその人物は、まさにトリシャが就いていた潜入任務の最後の生き残りである。彼はトリシャに敵基地の情報と、自分が追われている事実を告げたあと姿をくらましていたのだ。
アルファエイトは事の顛末を話し始めた。
それによると、暗号通信を送ったあと無線機を破壊して、基地とは真逆の方向へ向かって逃走していたらしい。何度か追手に見つかりそうになりながらも無事に逃げおおせたという事のようだ。
逃げている間、アルファエイトもただ単に逃げていた訳ではない。情報を収集しつつ逃亡生活を送っていたのだ。彼が逃げていた方角、それは共和国の領地である。その道中、共和国の国境線を越えたところで偶然敵の部隊を見つけた。やはり潜入部隊がいたようだ。
アルファエイトは敵国の言語は分からないので、どんな内容をどのように話していたのかまでは分からなかったようだが、明らかに偵察と思われる部隊が迎えの隊と合流するところを見つけた。そしてその部隊は撤収していったという。
そのあと、野草や木の実、農作物を食べ、川の水を飲み、さまよいながら合流を目指して大きく迂回しながら基地の方面に向かったという。もちろん追手を警戒しての行動だ、時間はかかったらしいが、その時点でアルカテイル基地をぐるっと回るような軌跡を描きながら移動した事になる。そして正面ゲートからかなり離れたところを移動中にトレーラーを見つけたというのだ。
「トレーラー?」
司令が質問すると、
「ええ、四台停まっていました。それぞれに」
レイドライバーらしきものが乗っていた、というのだ。
「という事は四体いたという事か?」
もっともな質問だ。
だが、
「いえ、二台は恐らくダミーかと。確かに二台のトレーラーにはシートで覆われていたので詳しくは分かりませんが、うつ伏せになったであろうレイドライバーが乗っていましたが、もう二台はそれらしくは作られていたものの砲身の形が他の二台とは明らかに違っていました。砲身の作りも雑な感じがしたので恐らくは。それに」
砲撃は前述の二台のトレーラーから行われたというのだ。
「砲撃の瞬間も見ていたのか?」
「はい、シートに覆われてはいましたが、ライフルをコッキングしていたのでレイドライバーで間違いないかと」
彼の話によると、二台のトレーラから合計八発の銃弾が飛んだあと直ぐにトレーラーのエンジンがかかり移動を始めたそうだ。そして自分の前からいなくなったらしい。
だがここで追尾をあきらめては折角の情報に足りないと判断した彼は、そのタイヤの跡を追っていったそうだ。
丸二日歩いて着いた先は、アルカテイル市の二つ隣りのグランビア市だった。そこにトレーラーが確かに停まっていたのだ。
アルファエイトはそこでしばらく様子見をしていたそうだ。彼は基地に近づけるギリギリまで接近した。すると四体のレイドライバーを視認することが出来たそうだ。そのあとは格納庫にしまわれて出てこなかったそうだ。
そうこうしていると基地の方で動きがあった。それは彼がいる方向とは逆、つまり帝国領の方から車両や戦闘機が訪れるようになった、というものだ。それはまるで補給のような感じだったという。
「もう少し見ていたかったのですが、手持ちの食料と水の残を鑑みここが潮時と思い、アルカテイル市の方向に向かって歩んでいたら、友軍の車両が基地に入っていくのを見まして。陥落出来たのだろうと思い今に至った次第であります」
アルファエイト、彼はとても運がいい。周りにいた人間は口々に彼の事を[運のいい男]と呼んでいた。実際、生還はほぼ絶望視されていたこの状況から逆転してあまつさえ情報を手に入れて戻ったのだから。
「という事は、やはり敵はこの基地を奪還しに来る可能性が高い、という事になるのかな」
司令が参謀に聞くと、
「その可能性が高い事は予想されていました。アルファエイトの情報とも符合します。近々大規模攻勢があるのではないか、と考えられますが」
との返答が返って来る。では、
「いつ頃になると予想するかね?」
と聞けば、
「陸上部隊と航空部隊だけでしたら、あと一、二週間の間に攻勢が行われるのではないか、と思われます。ですが敵もレイドライバーの有用性は分かっていると思われます。ですが、もしレイドライバーの補充が来るようでも同程度かと」
と来る。
司令が[うーん]と唸っているところに、
「それなんですが、もう一つ情報がありまして。先の基地を偵察していた時、レイドライバーを搬入したものなのか別のものかは分かりませんが、トレーラーが内地の方角へ空荷で走ってくのを見つけました」
と報告する。
それはつまり、
「増援のレイドライバーの手配か」
「何台行ったのだ?」
当然それが気になる。その質問にアルファエイトは、
「二台、向かいました」
補充元にもトレーラーはあるのだろうが、わざわざトレーラーを出したという事は、
「補充を当てにした配備がなされている?」
誰に言うでもなく司令が話す。
「おそらくそれが妥当な線か、と。とすればやはり一から二週間のうちに何かしらのアクションがあると考えてよろしいかと」
参謀がその言葉を受けて発言する。
「カズ大尉はいつごろ戻ってくると?」
「予定では四日後になるとの事ですが」
「移動時間を含めると一週間か、ギリギリだな。急がせる訳には……いかんか。彼には今の情報を渡しておくように。それと、ゼロワンとワンワンのパイロットを呼んでくれ。アルファエイトは下がってよい、ご苦労だった」
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