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第3話 海賊③

 そこでは黄緑のジャケットを着た山城がスナイパーライフルを構えている。


「てめえ!」


 海賊が慌ててMP5をそちらに向けようとする。


 発砲音とともにスナイパーライフルの銃弾が海賊の右肩に命中した。男の体は発射された銃弾のエネルギーを受けて半回転し、船の壁にぶつかって倒れた。


「がああ、畜生」


 海賊が左手で傷口を押さえる。


 阿含はすぐさま駆け出すと、勢いそのままに、海賊の腹をブーツで蹴飛ばした。


 男が悲鳴を上げて仰向けに転がる。


 すかさず漁船の床に落とされたMP5を拾い上げ、男に突きつけた。


「ま、待ってくれ。もう戦えない。投降する、投降するから。頼む、助けてくれ」


 血を流しながら男が懇願する。覆面の間から見える目には涙が浮かんでいる。


「ガキだ。ガキが家にいるんだ。見逃してくれ。何でもする。金も払おう」


「農業共同組合法第四条。山賊・海賊に協力及び相手を利することを禁ず、だ。どっちみち海賊はこの辺じゃ捕まり次第裁判抜きで死刑だろ」


 引き金を引く。弾が吐き出され、それきり男は何も言わなくなった。


「おい、大丈夫か。怪我は?」


 インカムから山城の声がする。


「おっさん頼むぜー」


 阿含は緊張感のない声を出した。


「これくらいの距離ならヘッドショット安定だろ。せっかくの狙撃銃(ウィンチェスター)が泣いてるぜ」


「ば、馬鹿言うな。どんだけそっちの船揺れてると思ってんだ。当てただけで十分すごいわ。だいたいお前が俺の場所教えたろ。急にこっち向かれて肝を冷やしたぞ」


「あのままだと弾に当たったショックで引き金引かれるかもしれなかったし。俺も色々考えてんのよ」


「まあいい。クリアリングしてこい。まだ敵がいるかもしれん。気を引き締めてな」


「あいよ」


 阿含は拾ったMP5を構えて注意深く船室に入った。狭い船室はこれまた狭い操舵室につながっている。小柄な阿含は特にかがみ込む必要もなく、操舵室に入った。


 中はひどく荒れていた。


 ガラス、飲み物、そしておびただしい量の血が床に飛び散り、男が一人壁に打ち付けられて死んでいた。胸には大型の銛が深く刺さり、銛から伸びたロープが操舵室の砕けた窓ガラスの先へと続いている。


「こりゃすげえ」


 ハイクラスの防弾チョッキ、今の日本では珍しいビンテージのジーンズ。ホルスターには大型のリボルバーが収まっている。その全てが血に染まっていた。


 ……これじゃ金にはならないな。阿含はインカムを起動した。


「おっさん、今操舵室。海賊共の頭っぽいやつ、さっき姉さんが打ち込んだ銛で磔になって死んでる。他に生存者なし」


「そうか、分かった。俺は船長に報告するから、少し待ってろ。後でボートを出してもらう」


「はいよ」


 阿含は通信を切り、嵐が通り過ぎたような船室を見渡して金目の物を探した。


 海賊船のお宝っていうと美人なねーちゃんか金銀財宝と決まってるけど、ここにはろくなもんがない。足元に転がった空の酒瓶を蹴飛ばす。


 何かつまんねーな。悪態をつきながら漁船のデッキに戻り、死体に深く食い込んだ忍者刀を苦労して回収した。


「げ、曲がってるじゃん」


 苦労して刀を鞘に収めていると、貨物船から降ろされたボートが近づき、漁船の横にピタリと止まった。


 先程捕鯨砲を撃った船員の女がボートの上から拡声器で話しかけた。


「阿含さーん、こっちに移ってください」


 阿含は助走をつけるとボートに飛び移った。ボートが大きく揺れる。


「わ、びっくりした。もうちょっと優しくしてください」


「山城のおっさんは?」


「あちこち電話してます。怪我した方が結局亡くなってしまってそれの処理とかもあったので」


「ああ、あの人死んじゃったんだ」


「はい。それで山城さんと船長が随分言い争いになって。と言っても責任問題とかではなくて、その」


「ずばり金の話でしょ」


「……はい。取り交わした契約書には、犠牲者が出た場合の補填金額について書いていないとかで。山城さんは亡くなった方と大変に親しく、その家族に送金をする約束になっているため追加の慰労金が欲しいと主張。船長がそれに抗議する形となっていました」


 大阪港で臨時に募集した初対面の男が山城と大変に親しいとは驚きだった。まあ、山城がそういう話をしたってことは、落とし所は見えている。


 契約書に書かれていない内容について船長に決定権はない。船長が現場の判断で決められることとなると……

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