表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/40

第21話 リゼの事情②

 同時に山城がサプレッサー付きの拳銃を金髪の後ろにいた二人に連射した。くぐもった音が四度鳴る。


 突然のことに金髪の横にいた四人目の男は固まったままだ。阿含が金髪の首に食い込んだナタを離し男を見ると、ようやく何か言おうと口を開いた。ジーンズの前に差し込まれた拳銃を握ろうとしている。


 その時には阿含は突進していた。右手で男の首を、左手で男の右手首を抑えると、勢いのまま二メートルほど後ろの大きな木に男を叩きつけた。


 堅い樹皮で後頭部を強打されて男が目を回す。そのまま何度も樹皮に男の頭を打ち付けた。


 鈍い音があたりに響く。


 阿含が手を離すと、男は膝から崩れ落ち、土下座をするように前倒しになった。


 その後頭部に山城が拳銃を一発撃ち込む。


「やれやれ、雑魚で良かったよ。阿含、怪我は?」


 阿含は金髪の死体に戻り、首からマチェットを引き抜いた。金髪の服で刃を拭うと鞘に戻す。


「大丈夫。こいつら大したことない割に報連相だけしっかりしてたけど、鳴子代わりに置いてたんかね」


 山城が自分の作った死体を簡単に調べ、武器や端末など金目の物を探る。


「かもな。おーい、リゼちゃん」


「は、はい」


 リゼが青い顔をして二人を見る。


「死体は俺と阿含で隠すから、悪いんだけどまわりちょっと見ておいてくれる? 多分ないと思うけど、こいつらの仲間が来るかもしれないし」


「分かりました」


 リゼはおぼつかない足取りでテーブルの方へ向かった。


 阿含も山城と同様に死体のポケットを漁る。


「何かリゼ顔色悪かったな」


 死体の両足を掴んで道路脇の藪まで引きずりながら阿含はリゼの後ろ姿を見ていた。


「そりゃ目の前でドンパチが起きたからねえ。女の子には刺激が強いでしょ」


「でも、前に山小屋で祖仁屋殺したときは割と大丈夫そうだったぜ」


 一通り物色したが、今殺した男たちが下っ端だからなのか、銃はボロボロで換金は難しそうだった。一方でサブマシンガンや拳銃に込められた九ミリ弾は新品に見えた。チグハグだな。そう思いながら阿含は弾を懐にしまった。


 山城が二人目を運び終えて言った。


「山小屋のときはあれだな、自分も殺されそうになってたからじゃないかな。今回は向こうがやる気になる前に一方的にだったしねえ」


「どうだろ。そういや今日は起き抜けからちょっとテンション低く見えたけど」


「おーよく見てんじゃん」


 山城が手を止めてニヤつきながら阿含に言った。阿含はぶすっと横を向く。


「うっせえ」


 二人はリゼの方に歩いていく。


「リゼ、行けるな」


 リゼは一瞬阿含を睨んだようだったが、瞬きをするうちに表情を変え、頷いた。


「はい、大丈夫です。お願いします」


 山城が言う。


「それじゃあ周囲に充分気をつけながら、楽しいハイキングの続きといこうじゃないの」


 まだ朝の八時を回ったところである。長い一日になりそうだ。阿含は思った。




 五日前、三人は静岡農協本部にいた。受付には農協部長の中森が座っている。白色の蛍光灯が黄ばんだ壁を無機質に照らす。ラジオからは在インド日系人二世の歌手の歌が流れる。農教職員が手作りした木の椅子に腰掛け、トアが持ってきた湯呑をお礼を言って受け取ると、リゼは話し出した。


「静岡県北部の村まで、私を護衛していただきたいのです。そこにどうしてもインタビューしたい方がいまして。というのも、私が静岡に来たのは、その方がこの近隣にいるとの情報を得たことがそもそものきっかけでして」


 受け取ったお茶の熱さに眉をしかめながら阿含が聞く。


「インタビューって誰に? 村ってどこさ?」


「はい。場所は静岡県北西部の天ヶ峰村。インタビュー相手は、厄災が起こった際に内閣総理大臣を務めていた、大塩健太郎その人です」


 しばらく、誰も口を開かなかった。先日とは違うデザインの白いスーツを着た中森がため息の後に口を開いた。


「大塩健太郎だなんて、随分懐かしい名前だねえ。わたしがまだピチピチだった頃の人だよ。確かに若くして首相になったなんて言われてたけど、それでも今生きてりゃ八十か九十だろ。本当に本人なのかね」


 トアは部長の若い頃なんて想像つかないっすね、と言おうと思ったが、場にそぐわないジョークだと思って言葉を飲み込み、近くの椅子に座った。


「ばあさんがピチピチだって。水着とか着てたのかな」


 空気を読まず阿含が言った。山城がすぐに反応する。


「ばっかお前、足立の爺さんと大恋愛の果てに静岡市中を巻き込む大抗争が起こったんだぜ」


「おだまり。ホチキスで口を縫い合わせるよ」


 中森が馬鹿な拡張職員たちをじろりと見た。


「大塩健太郎が生きている、という情報はHBの有料サイトから得たもので、非常に確度が高いです。それに、父の会社にも情報の精査を依頼しましたが、間違いないとのことでした」


 阿含が言う。


「父の会社?」


「エジプトのシンクタンクです」


 中森が茶を飲んだ。


「分かった。とりあえず大塩首相が生きて長野県近くのド田舎にいるとしよう。そしてお嬢ちゃんはそこに行って話を聞きたいわけだ」


「厄災の当事者であり生き証人です。大塩さんのインタビューを中心に厄災で何が起きたのか、そして農協の皆さんを取材させて頂いたエピソードとともにこの国の現在を切り取り、前後編のドキュメンタリーにしたいと考えています。これは、絶対にヒットしますよ」


「いい意気込みだよ。そういう上昇志向は嫌いじゃない。ただ、場所が問題でね」


 中森はタバコを取り出した。足立のじいさんと同じ銘柄だな、阿含は思った。


「天ヶ峰村は、盗賊の一味が根城にしているんだよ。賊の規模は三十人程度で、まあ大規模ってほどじゃないんだけど、首領の“三本腕(さんぼんかいな)”さんぼんかいなって男がかなりの武闘派でね。近隣の村を荒らしたりキャラバン襲ったりやりたい放題らしい」


「それでは……大塩健太郎へのインタビューは難しい、ということですか」


「そう、難しいんだ……ただ、難しいだけでできないってわけじゃない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ