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一緒に登校

 文化祭が終わってから初めての学校。

 最近、月曜日でもそこまで気分が沈むことなく朝を迎えられる。これは……確実に花野井さんのおかげだな。


 俺はすくっと立ち上がると、朝のルーティンになっている、きなこの飲み水を替えるのとカリカリを皿に盛るのを終えた。


 余は満足にゃ、とでも言い出しそうな可愛らしい表情で、きなこは朝食を食べている。


 食べながらたまに、うみゃうみゃって言ってるように聞こえるのは俺の空耳なのだろうか。

 今度また刺し身をお腹いっぱい食べさせたい。


 俺もそろそろ朝食を取ろうと、トースターにパンをセットしたところで机の上のスマホがブルブルと振動する。


 『今日から、一緒に登校しませんか?』


 文化祭の日は、図らずも一緒に登校したけれど、花野井さんから誘ってきてくれるとは思ってもいなかった。


 込み上げてくる嬉しさを感じつつ、仲良くなりたいと思っているのに自分からはなかなか踏み出していないのをちょっぴり悔やんだ。


 『誘ってくれてありがとう。何時に家出たらいい?』


 もちろん返事は丸、いや、二重丸。


 『そうですね……余裕を持っていきたいので、8時15分でいいですか?』

 『了解』


 こないだかわいいな、と思って買ったゆる〜い猫のスタンプを添える。花野井さん、こういう絵柄はたぶん好きだろうな。


 『スタンプ、可愛いですね』


 そう返事が来たのを見て、笑顔になるのを感じながら、焼き立ての食パンにかじりついた。




 「おはよう」


 ちょっと余裕を持って、予定の5分前には家を出る。俺とちょうど同じタイミングで、花野井さんは家から出てきた。


 「おはようございます、猫村くん」

 

 花野井さんは、とんとんと靴のかかとを合わせると、俺の方に小走りでやってきて挨拶する。

 そして、「タイミング、まったく同じでしたね」と続けて微笑む。

 爽やかな朝の風が、さらさらと花野井さんの長く美しい髪を揺らした。


 「行こっか」

 「はい、行きましょう」


 花野井さんが頷いて、胸についている可愛らしいリボンがひらっとはためいた。


 

 「あ、野良猫ちゃんです」


 花野井さんが指差したさきには、お互いのことを舐めて毛づくろいをしあっている2匹の猫がいた。


 1匹は、真っ白な体に、宝石のような碧い目をしている。もう1匹は、きなこがもっと大柄になったような見た目だ。


 こちらに目をやることもなく、2匹はじゃれ合い続けている。

 その様子を、微笑ましいなと思って眺める。


 俺たちはしばらくしてから、再び歩き始めた。

 

 「学校に行く時に猫ちゃんを見られるなんて……猫村くんと登校して、さっそくいいことがひとつありました」

 「俺のおかげなの?」

 「はい。……猫村くんって、猫を引き付ける特殊能力を持ってるんじゃないですか?」


 クロも見つけたし、たしかにそうなのか……?

 俺はんー……と首を傾げて考える。


 「冗談ですけど、もし持っているなら私にもその力をください」

 

 花野井さんは、くすっと楽しそうに笑って言う。


 「分かった。ちゃんと伝えられるように、コツ掴んでおかないとな」 

 「よろしくお願いしますね」


 話しながら登校していると、いつもよりも早く学校にたどり着いたように感じた。ゆっくり歩いてきたのに。


 「誰もいませんね」

 「ほんとだ、なんだか得した気分」


 俺たちのクラスに電気が付いていないのを確認して、鍵を借りに行く。

 まだ、朝礼までは20分ぐらいあるから当然か。


 「朝から、いいことがふたつもありました」


 俺がドアを開けると、花野井さんは、教室に一歩踏み出して俺の方を振り向く。


 「え、ふたつ?」

 

 さっきはひとつ、って言ってたはずだよな、と思って俺は聞き返す。


 「猫ちゃんと出会えたのもそうですが……まず、猫村くんと一緒に登校できたのも、いいことだったなと思いまして」


 少し恥ずかしそうに、自分の服の袖を握りながら花野井さんは言う。


 「そう言ってくれるのは嬉しいな。……もし良ければ、明日からも一緒に行かない?」

 「もちろんです」


 明日からも一緒に登校しようと誘えただけ、俺は成長したかもしれない。


 まだまだ話したいな、と思っているところに、誰かが階段を上がってやってきた音がする。


 「……もう少し、続いてほしかったです」


 教室に近づいてくる足音が大きくなってきて、花野井さんは少し寂しそうにこぼす。


 俺たちの次に、教室に入ってきたのは氷室さんだった。

 ふたりが仲良さそうに話し始めたのを見て、俺は安心して小テストの勉強を始めた。







 

 





 

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