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休み明け

 「ん〜、よく寝たぁ」


 休み明けの朝が来て、俺はカーテンを勢いよく開ける。まばゆい朝日が、部屋の中に差し込んできた。

 長期休みが明けるときなんて、基本的には憂鬱な気分なものだけど、今日はなんだか清々しい気分だ。


 空っぽになった皿の前で、朝ご飯を行儀よく座って待つきなこに、鰹節をあげてから俺も朝ご飯を食べ始める。


 朝一緒に登校しよう、と花野井さんを誘う勇気は流石にまだないので今まで通り1人で歩いて登校する。


 「お、猫だ」


 白の野良猫が俺の目の前を横切る。俺の方を一瞬見たものの、すぐさま車の下に隠れて、姿が見えなくなった。

 すぐいなくなってしまったのは悲しいが、朝から猫に出会えた。これはいいことがある予感。


 

 それから数分歩くともう高校に着いた。この学校までの距離の短さのお陰で、俺はいまだ遅刻をしたことがない。

 ……が、花野井さんと一緒に帰った時はこの近さを恨んだ。

 

 「んー……ねむっ」


 教室に入ると、俺はさっき気持ち良い目覚めをキメたはずなのに、再び睡魔に襲われて机に突っ伏した。



 「……もう朝礼始まりますよ、猫村くん」

 「お……ありがとう。おはよ」


 耳元でふんわりとした優しい声で囁かれて、俺は目を覚ます。


 けど、顔を上げて教室の前の時計を見ても、まだ朝礼までは時間があるようだった。


 「少し、お話ししたいなと思いまして。暇を持て余しているものですから」


 花野井さんは、ちょっといたずらそうに微笑んで言う。なんだか、イタズラ好きな子猫のような感じがした。


 「2学期は文化祭があるよね。……なんかやりたい出し物とかあったりするの?」


 出だしミスった、と思ったけど、修整に成功した。


 「そうですね……喫茶とか、楽しそうです」


 んー、としばらく考えて、花野井さんは言う。


 「たしかに。文化祭の定番のイメージだよね。……あと、なにがあるっけ。アトラクションとかかな」


 ジェットコースターとか作ったりする高校もあるらしい。どうやって作るんだろ。


 「準備から楽しめそうですね。……あ、猫村くんはDIY得意だから活躍できますね」


 花野井さんは、周囲に聞こえないように一段階トーンを落として言う。少し距離が縮まった(と思ってる)キャットタワー作りを思い出して、心が温まった。


 まだ話していたい、と思っていたところで朝礼の時間を知らせるチャイムが鳴った。

 実際、これ以上話していると「なんか距離近くないか?」と怪しまれそうなので学校ではこれだけ話せたらいい方か。

 

 朝礼のあと、始業式まで終わると、またクラスには休みのテンションを引きずった、がやがやした雰囲気が戻ってきた。

 

 「夏休み、楽しかったよなー」

 「色々行ったもんね」

 「家にいる時間よりも、外で遊んでた時間の方が長かったかも。ROUND1とか、海とか行ったから」

 「私も同じ。ほんと、楽しかったよね」


 そんな会話が聞こえてきて、皆も夏休み楽しんだんだなあ……と思う。俺、家にいる時間の方が長かったかも。

 

 俺も、思い出を振り返りながらぼーっと遠くを眺めていると、隣からなにやら紙の切れ端を小さく丸めたものが飛んできた。


 「ん、なにこれ?」


 丸まっているのを開いて、書いてあった文字を読んでみる。


 『私たちも、夏休み楽しみましたよね』

 

 と、そこには丸めた紙切れには不釣り合いなほど整った字で書いてあった。

 読み終えてすぐ隣に目を向けると、俺に向かって微笑みかけている花野井さんが視界に入った。

 俺が彼らを羨ましがっているのかと思って、元気づけようとしてくれたのかもしれない。

 

 ……花野井さんと何日か過ごせたのに、羨ましがることがあるだろうか。


 『うん。キャットタワー作りとか、昨日のこととか、大事な思い出だよ』


 俺はそう書いて紙を小さく丸めて優しく投げる。花野井さんの机の隅まで転がって、落ちる寸前でなんとか止まってくれた。


 『ふたりだけの秘密、みたいでなんだか嬉しいです』


 ひと夏の、ふたりだけの秘密を花野井さんと共有できているのは、本当に……嬉しい。

 嬉しいって言葉だけでは言い尽くせない。



 「蒼大、夏休みどうだったか?」


 しばらく余韻に浸っていると、陽翔が話しかけてきた。


 「めちゃくちゃ楽しかった。……2学期も、楽しくなるといいな」


 俺は最後に付け加えて呟く。視界の端っこで、花野井さんが微笑んだような気がした。





 



 

 



 


 


 



 



いつも読んでくださりありがとうございます!


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