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幕間 ジャイアンのその後

 なぜだ。何故だ何故だ何故だ。


 あいつを追放したと告げたら、ハナさんが泣いてしまった。何を言っても聞き入れてくれないくらい号泣していた。


 あいつは貴方を言い訳に、何もしてこなかった無能だぞ!?

 なんで、あんな奴のために涙を流しているんだ!?


 最初は嬉し泣きだと思った。堪えきれない幸せからくる感涙だと思った。 

「ジャイアンさん、ありがとうございます」「ジャイアンさん、これからは私と一緒に頑張りましょう」「ジャイアンさん、貴方のことを信頼してしいます」

 そんな聞けるだけで胸がはち切れそうな言葉を言ってくれると思っていた。幸せで俺がもらい泣きしてしまうほどの甘言を聞けるのだと、本気で信じていた。


 なのに何故だ。

 ハナさんは俺を、ドブ攫いでもする底辺の人間を見るような目をした。

 瞳に光は無かったと思う。この世の終わりを告げられた人間の方が、まだ希望を持っていると思えるほど。彼女の目は薄暗く曇りきっていた。 


 ハナさんは俺に「ひどい」とだけ告げ、泣きながら家にこもった。そこからはなんとも言えない後味だけが残り、俺はただ立ち尽くすことしかできなかった。

 俺はハナさんのためを思ってやったのだ。

「ひどい」なんて言われる筋合いは、これっぽちもないはずだ。

 むしろ感謝され、その勢いで抱擁されるほど、良いことをしたと思っている。


 だが現実は無慈悲だった。

 あのビッグマウスを追い出したことで、何かが決定的に壊れるような音さえ聞こえてくる。


 行きとは違い、何倍も重くなったような体を引きずりながら、俺は借りている宿へ帰った。

 俺に落ち度はなかったと、何度も何度も確認をしながら、ようやく帰路につく。


 どっと湧き出る疲労感を無視し、俺はようやくの思いでベッドに腰を落ち着かせた。

 頭を抱え、あいつから査収した武具をちらりと目にする。

 今見ても高級な装備品だ。喋るだけしか脳のないあいつには勿体無い。そんな品々が俺の部屋に転がっている。

 ヒュドラの籠手……アマゾネスの帯……フレイムドラゴンの胸当て。

 何より…………



 ハナさんが祈りを捧げ昇華させたという「聖女の剣」。



「ふざけるな! クソ野郎!!」


 気がつけば、どうしようもない怒声と共に、俺は自慢の一振りであった魔剣を壁に投げつけていた。力いっぱいに投げつけたせいで、借りている宿の壁が傷ついてしまう。


 だが、今はそんな問題すら気にできないほど、俺は気が動転している。

 自分のやったことが真っ向から否定されてしまったように感じ、貧乏ゆすりが止まらない。


「違う、俺は間違えてない……このパーティでは俺がルールだ。俺が、俺の判断こそ正しいんだ」


 そうだ。

 そのはずだ。

 そうに決まっている。


 次第に俺の激情は、せせらぎのように穏やかさを取り戻してきた。

 ああー、俺は何を勘違いしていたんだ。そうだ。俺は正しいんだから、こんなに悩むこともなかったじゃないか。


 今日はたまたま、本当にたまたまハナさんが不機嫌だっただけ。

 女の子の日、と言うのを誰かから聞いたことがある。確か女の人限定で定期的に訪れる、メンタルがすごくぶれてしまう日。


「なんだそうだったのか……じゃあ、悪いことしたぜ」

 

 俺は自分に納得のいく答えを出せたことに満足し、その日は風呂にも入らず眠ることにした。

 明日になれば、きっとハナさんと他2人で楽しい冒険が始まるのだから。

 

 ――あぁ、こんなことならもう少しあの無能と飲んでれば良かったな。


 そうすれば、さぞかし面白い笑い話にできただろうに。

日頃の感謝をお伝えしようと思います。


……笑


嘘です、あざます!

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