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うちがルールやさかい

 何故か俺とシャロちゃんは、謎の魔族の女(以下、魔女としよう長いから)の寛ぐ足元にて正座をさせられていた。

 何を言っているか分からないと思うが、俺も何でさせられているのか分からない。

 

 傷だらけのシャロちゃんを回復魔法で治してあげただけなのになぁ。


「困るわぁ、勝手なことされたら。注意書き見ーひんかったん?」

「あー……」

「ヒッ……」


 そう言って魔女は、ずらりと書かれた紙を見せてきた。


 読んでみれば、ここタカマガハラで禁止されている事項が書かれている。

 本番禁止、S着用義務、引き抜き禁止などなど。最後にはきっちり「あらゆる魔法禁止」とも綴られていた。


「タカマガハラではあらゆる魔法を禁ず。なのに、この場で魔法らしきものが検知されたさかい、オーナーとして飛んできたんやけど……なんか言い訳とかある?」

「いやぁ……俺が使ったのは回復魔法で悪意はないというか……流石にあの状態は見過ごせないというか……」

「へぇー、状況まではわからんけど、それが遺言ってことでええやね」

「あぁー……(察し)」

 

 二の句を継がせない反撃。

 これはどうやっても、何を言い訳にしても、こちらの言い分は受け入れられない相手だ。

 クセになってんだよね、話が通じる奴と通じない奴の線引きがさ。パーティリーダーであるジャイアンとか、まさに通じないタイプだったし。

 多分、この魔女も「うちがルールやさかい」って言うタイプなんだろうな。俺クセになってんだよね、話が(ry


「あ、あの……このひとは……わ、悪くな」

「シャロちゃんは黙っといてれるかな? いま大人の会話してるんよぉ」

「ヒッ……」


 なけなしの努力を振り絞って、シャロちゃんは目の前の魔女に立ち向かってくれた。

 若干涙目なところが非常に愛くるしく思えます。顔の腫れが取れて本当によかったね、シャロちゃん。美人度が十割増しになったよ。


 さて、そんな彼女の勇気で少しだけ頭が冷えてきたわけだが、これどうしたもんかね。

 賠償金とか支払わされるんだろうか? 俺の全財産はジャイアンに査収されたから、1銅貨も払えないよ。

 

「あの〜、一応これから俺がどうなるか聞いてもいいですか」


 俺がおどろおどろな態度でそう尋ねれば、魔女はベッドの上で足を組み直して少し考える。

 艶のある唇に人差し指をあて思考に耽る表情は、なんとも情欲を唆る妖艶さがあった。

 ゴクリ……。

 無意識に少し唾を呑んじまったぜ。恐ろしい女だ! 体型はシャロちゃんよりロリに近いくせによお!

 

「そやねぇ。手足と口を拘束して、モンスターの住処に投げ入れてみるなんてどやろ」


 まさかの賠償金を超えて、私の命を要求されました。


 え、魔法を使うのってそんな重い罪になるのでしょうか。俺の地元なんて、一番重い罰でも「一週間昼飯抜き」か「土地没収」くらいでしたけど。

 都会って怖い都会って怖い!

 今思うとジャイアン……お前すんごいまともなパーティーリーダだったんだなぁ。心の底ではちょっとバカにしてたわ、ごめんな。


「刑が重すぎませんかね……もう少し情状酌量の余地とか」

「タカマガハラではうちがルールやさかい、なんか文句ある?」

「ですよね、それ言うと思いました、ははは」


 ははは、じゃねぇ!

 

「と、とりあえず、おお落ち着きましょう。ははは話あえば、わ、分かり合えます、えーと……お、オーナーさん、でいいですか?」

「可愛らしく《スイちゃん》でええよ。というか、旦那はんこそ落ち着きはったら?」

「じゃあ、スイちゃんさん! 俺みたいな良い男を殺すなんて、勿体ないと思わんですか!?」

 

 もうどうにでもな〜れ!

 そんな投げやりの精神で俺は吹っ切れることにした。

 

 こう言う自分ルールを強いてくる奴は、ジャイアンで学習しているのだ。対処法としては非常に簡単である。きちんと俺が下であることを示し、相手にメリットになりそうなことを言って満足してもらう。それ以外に生き残る方法はねぇ!

 だからシャロちゃん、そろそろ泣き止んでいいんだぜ。 


「へぇ~。そんだけ大口を叩くっちゅうことは、なんや見逃してメリットがあるん?」

「勿論ありますとも。俺はこう見えて名のある冒険者パーティに所属していた経歴を持ってましてね……プラチナ冒険者の<白磁の巨腕>ってわかりますか?」

「そら知っとるよ〜。えらいこの都市では有名やさかい。なんやったけ、確かものすごい強い聖女さんが居るんやろ」

「そうです! その通り! 流石スイちゃんさん! 俺は何を隠そうそこの元メンバーで、それなりにAランク以上の魔法武具なんかを稼いでいます!」


 まぁ、金貨三枚を残してジャイアンに査収されたけどな。

 今はほぼ丸腰に近いけど、これは娼館に遊びにきたプライベートだからって信じてほしい。


「つまり、それをうちにくれるってこと?」

「いいや。流石にすべては無理です。しかし、ここでの問題を不問にしていただけるなら、元<白磁の巨腕>メンバーとして、これから先の収入をあなたに、しかも永続的に3割お支払いします! だから見逃してください! あとシャロちゃんの労働環境改善もお願いします!」


 俺が土下座をして頼み込む。

 顔を地面すれすれまで伏せたため、今はスイちゃんの表情を伺えないが、俺が話している最中、彼女は少しだけ目を皿にしていた。

 と言うことは、だ。少しだけ、ほんの少しだけかもしれないが、俺の言葉がスイちゃんの心に響いたはずなのだ。


 そこから数秒。音はなく、ただ俺は横で心配そうに服の裾を掴んでくるシャロちゃんの体温を感じながら耐えた。

 

 そして――。 

 

「ふふ、ふふふふ! あぁ、旦那はんってほんまおもろいわぁ。流石≪ビッグマウス≫って呼ばれてるだけのことはある……お口、達者やねぇ」

「え、なんで俺のあだ名なんか知って……」

「最初から気付いとったよ?」


 がばっと顔を上げれば、いつの間にかベッドから降りてきていたスイちゃんと、至近距離で、それこそあと数センチ近づけば唇が触れ合うような距離で、視線がかち合った。

 彼女の紫水晶(アメジスト)のような瞳の中に、呆けた表情をした俺が見える。

 まるで深淵へと誘われるかのように、俺は不思議とその瞳から目線を逸らせずにいた。

 

「回復魔法ねぇ……大体状況は分かったわぁ。うちも一部の客の悪そどもに難儀しとったんよ。シャロちゃんだけじゃなく、暴行くわえられる子もおれば、お酒を無理に飲まされ体を壊す子もおる。オーナーとしても、女としても、あんま快く思ってなかったんよね」

「え?」


 あれ、もしかしてこれ何かいい方向に進んでるやつ?

 俺がそう重い希望を膨らませていると、スイちゃんは合わせていた瞳を外し、妖しげな笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、こういう罰どない?」

 そう言って、スイちゃんは俺の頬を優しく撫でてきた。

「旦那はんに用心棒(セキュリティ)として働いてもらうんわ」


「へ?」

「ふふ、勿論1人じゃ可哀想やし、シャロちゃんにも娼婦やめてセキュリティの補助として働いてもらおうかなぁ〜。獣人は人族より頑丈やし、スタミナもあるからきちんと使うてあげて」


「今日から楽しくなりそうやわぁ」そんなことを曰いながら、スイちゃんは鼻歌まじりに部屋を出ていった。

 残された俺とシャロちゃんは、ゆっくりと互いの顔を見合わせて。


「えーと、なんかよく分からんけど、よろしく?」

「う……うん?」


 握手を交わすのだった。












 ■












「タカマガハラではあらゆる魔法を禁ず……ふふ、なんで使えたんやろねぇ?」


 うちは鼻歌を奏でながら、自室兼執務室兼娯楽室で、好きなワインを呷った。

 喉をきゅうと締めるような強い味わいと、ほんのり上気する感覚に酔いしれる。魔族は人間の酒を幾ら飲んでも、酔わないというのに。


「タカマガハラではうちがルール……さぁ、どう愉しもっか〜」


 ――ようやっと見つけた●●さかい、絶対に逃さんよ……旦那はん。

今更、気がついたのです。


私はこの作品のタグに追放ざまぁを付けていないことに……!

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