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凱旋

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本日は終わり

「あ、ボス」

「おー、シャロちゃーん」


 俺は崩壊した地下迷宮の瓦礫の山を登っていると、まだ無事な上あたりから、ひょっこりとシャロちゃんが顔を出した。

 

 よかった、俺の攻撃に巻き込まれてはいなかったらしい。想定よりも大分威力が高かったから、内心ヒヤヒヤしていたんだ。


「ボス、パタス、倒せた?」

「うん。倒せたっていうか、なんか途中で消えたんだよね。シャロちゃんの方は?」

「そのこと、だけど、アバストは」


 とそこまで言ったシャロちゃんを見て、俺は固まってしまった。


 さっきまで上の方にシャロちゃんが居たから見えなかったが、彼女は今かなりの血塗れ状態。色んなところを斬られたのか、柔らかい柔肌にはいくつもの切り傷が見える。


 しかも、服がところどころ消し飛んでおり、見えてはいけない箇所まで見えそうで……。

 

「…………って、めっちゃ傷だらけじゃないか! しかも服まで半ば剥ぎ取られて! 大丈夫だったの!?」

「え? あー、ううううううん」


 俺がシャロちゃんの肩を掴み、ぐいぐいと揺らすものだから、彼女は細かなビブラートをきかせ返事をした。


「おち、落ち着いて、ボス。アバスト、倒した。でも、もういない」

「え? そうなの?」

「うん。私も、服は血がべとべと、だったから、自分で、破いた、だけ」

 

 シャロちゃんは俺に抱き着き、服が破けた箇所を隠す。


 ん、まぁ本人がそう言うのならそうなのだろう。

 アバストに変な乱暴でもされたのかと心配したが、杞憂で終わってくれて何よりだ。

 

 しっかし、うまく逃げおおせたのか?

 ちっ、ラビィーさんの魔法契約のためにも、アバストだけはとっ捕まえておきたかったのにな。


「ボス。治すより先に、撫でて?」

「え、あ、うーん。まぁ、シャロちゃんがそう言うなら治すの後回しにするけど」


 さっさとシャロちゃんの傷を治してあげようとおもったら、いきなりそう強請られた。

 まぁ強請られたなら仕方ない。俺個人としては、早く痛みを和らげてあげたいけど、本人の希望だし。


 俺はシルクのように滑らかなシャロちゃんの頭を撫でてあげる。その度に彼女は「んっ」と小さく甘い声を漏らすのだ。

 うーん、煽情的かつ蠱惑的だ。


「おーい、おーい……」


 俺とシャロちゃんだけの世界に入っていると、ふと声が聞こえた。

 まじで聞きたくなかった声。今更思い出させられた。


「そろそろ助けてくれぇ」

「……何してんだ、カネカス」

「かく、れんぼ?」

「ぶち殺すぞ、このキチガイセキュリティ夫婦が! テメーらが見捨てたんだろうが!」


 気が乗らないまま振り返れば、そこには案の定カネカスが埋まっていた。土煙色を被ったような頭を見る限り、なんとか上手く衝撃だけは逃れられたらしい。

 ただあと一歩というところで、外に逃げられなかったのだろう。

 

 鈍臭いやつだ。パタスの部下も含め、生き埋めになった奴はお前だけだぞ。


「はぁ、わかった。ちょっと手荒だけど助けてやる。えーと、〈上がれ(アップ)〉」

「うぉっ!!」


 俺は適当に木の棒を振り上げ、引っ張り上げる。

 汚い声を出しながらも、カネカスは地面に着地した。


「げほげほ、こんな助け方があるなら最初からっ――――ヒィ!!?」


 なにやら文句を言おうとして俺を見上げたら、いきなりの奇声かよ。

 正直、こいつもかなりの変人だな。


「どうしたんだよ、カネカス。ゴブリンが全財産失った時みたいな顔して」

「あ、あぁ、うし、うし……ろ」

「後ろ?」


 俺がそう言い、とりあえず後ろに何かいないか確認しようと振り返った。 

 するとそこには。


「……」

「……え、ハナ?」


 かなり久しぶりな気がする幼馴染み聖女が、俺たちを高台から見下ろしていたのだった。

 具体的には、俺と撫でられてるシャロちゃんを見下ろしているようだった。


「……うあぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 久しぶりに会った幼馴染みに向けて、ハナは産声を放った。




 ■

 



「…………ココハドコワタシハダレ」

「ここは主要都市で、お前は〈白磁の巨腕〉のエース聖女、ハナ・ラーストリア・ナーサリーだ」

「…………」


 丁寧に状況の子細を伝えてやったというのに、こいつ無視しやがった。


 あの後、俺たちはさっさと森林から退去し、夜が濃くなる前に主要都市へ帰ってきていた。ハナにビビったカネカスは生まれたての子鹿のような歩調で、一人どっかにいってしまったため、今は俺とシャロちゃん、そしてハナだけで街道を歩いている。


「にしても久しぶりだな、ハナ。みんな元気にしてるか? あと、お前ちょっと太ったろ」

「っ⁉︎」

「やめろ。その威力はわりと真面目に洒落にならん」


 冗談半分、割りとガチ半分。

 俺が誂うようにハナの顎肉を指さして笑ったら、ハナが聖杖を構えようとしてきた。

 お前のわざを直で受けて立っていられる生命体は、この世にいないんだぞ。


 俺が苦笑いを浮かべてやると、腕をくいくいとシャロちゃんが引っ張る。


「ボス、この人が?」

「あーうん。俺の幼馴染のハナ。ファーストネームで呼ぶと、泣きながら踊り出すくらいには喜ぶぞ」

「そう、なの?」

「え、あ、はい。で、でも、流石に泣きはしないと思います……」 


 照れ照れ、えへえへ、と頭をかいてシャロちゃんに挨拶するハナ。

 

 だが今こいつが言ったことは普通に嘘である。

 初めてパーティーメンバーのレティに「ハナちゃん」と呼ばれた時、泣きながら舞っていた。しかも中央広場の噴水前で。

 あのときは痛かったなぁー…………周りの視線ってやつが。


「え、えと、君の隣にいるのは……?」

「あー、この娘は俺の部下兼新しい仲間のシャロちゃん。可愛いだろ?」

「ボスの、可愛い担当、シャロ。よろしく」

「……ヒギィ」


 シャロちゃんが思いっきり俺の腕に抱きつくと、またハナは奇声をあげた。

 んー、まだ人とのコミュニケーションに難ありってところなのか。俺がいなくなったあと、まじでパーティメンバーとうまくやれてんのか、怪しく思えてきた。


 俺が下顎を擦りながら思案していると、次はハナから腕をくいくいと引っ張られる。 


「え、えっと……君はその、〈白磁の巨腕〉には、もう戻らないつもり?」

「? まぁそうだな。ていうか、戻るも何もジャイアンにクビにされたんだぞ、俺。聞いてないの? それに今はやるべきこともあるから、戻るつもりもない」


 ここははっきりさせておいたほうが良いだろ。

 追放された後、俺は田舎に帰ろうかなって考えてたくらいだ。たしかに白磁の巨腕がどうなるか、少しは興味あるが、戻りたいとは思わない。


 なにより、背負うものが増えてしまったしな。

 シャロちゃんといい、ラビィーさんといい、何気にタカマガハラに知り合いが増えすぎた。今彼女たちをほっぽりだすなんて、俺には考えられん。


「ボス、一生、一緒」

「うん? まぁ、タカマガハラが潰れない限りは一緒だろうね」

「…………ヒ」「鳴かせねぇよ?」


 俺はハナの唇に指をあてて黙らせる。

 これ以上、通行人の奇異の目は耐えられんのだ。 


「ぷはっ! な、なら私もタカマガハラで働きたい……!」


 俺の指を外したハナは、唐突にそう意味不明なことを言い出した。


 この人と会話を苦手としてる娘が……娼館に……?

 知らない男と…………一夜を過ごす…………?

 …………なんかモヤッとすんな。


「いや、お前のゴミコミュ力では無理だろ。娼婦なんて客と話してなんぼだからな。てか、なんで働きたいわけ? 冒険者デビューできたから、一生チヤホヤされて生きていくって息巻いてたじゃん」

「そ、それは……」


 どこか言葉に詰まった様子のハナの視線は、俺の顔斜め下から、シャロちゃんの方へと向かった。

 

「フッ」

「〜〜〜ね、ねとっ!?」


 なんで鼻で笑うんだい、シャロちゃん。

 いや、まぁこの奇行が愛くるしく思えるときもあるけど、笑うのはよくないよ。笑うのは。


「とりあえず、俺タカマガハラに戻らないとだから、もう行くわ。ちょっとゴタゴタしてて、今上手いことタカマガハラ回ってないからよ」

「え、ちょっと待っ……!」


 ハナには悪いが、これ以上のんびりもしてられない。

 早くパタスをとっちめたことを連絡して、娼婦たちを安心させてあげたいのだ。

 この時間帯なら変態客も押し寄せているだろうから、そいつらやボーイにもパタスが負けたことを広めればいいだろう。


 アバストに騙されていた子達も、シャロちゃんが殺してしまったせいで、魔法契約がどうなったのかの説明がいるし……。

 一応、奴が受け取りできない場合、全てパタスに相続とのことだったが、そのパタスも何故か消えてしまった現状、だれも受取人がおらず、勝手に破棄されているとは思うけど。


 とりあえず、後処理でやることがいっぱいある。本当はカネカスにも手伝わせるつもりだったんだけどな。


「ちょ、ちょっと待って――!」

「ぐぅえ」


 俺がシャロちゃんを連れてタカマガハラへ行こうとした時。ハナが後ろから俺の服をつかんだせいで、襟首がおもいっきり締まる。

 こいつ、俺を殺す気か!?

 

「え、あ、ごめんなさい」

「ごほっごほっ、いや良い。もう慣れたから……ごほ、で、どうしたんだよ」


 俺はハナの方に振り返る。

 いきなり呼び止める時、こうして首を絞められ続けたから流石に注意する気も失せてきた。

 なんなら、街を歩くときとか良く体の一部は締められてたし。

 

「こ、今夜! 家に来て!」

「? そんだけ? 別にいいけど」

「ボス、わたしも――」

「ひ、1人で来て!!」

「…………いや、1人で行くけど。ごめんシャロちゃん。今夜は1人で寝てて」

「…………え、今夜は?」

「…………仕方ない、わかった」

「あ、ああっ、ね、ねとっ――」


 なんかハナがバグりだしたし、今は置いていくか。普段ならその奇行っぷりを拝んでやるんだが、今はまじで忙しいからな。

 多分、こいつの用事も家に行ったら分かるんだろうし。


「さて、凱旋しますか、シャロちゃん」

「む……サー、ボス」


 どことなく不機嫌になってるシャロちゃんを引き連れて、俺たちは堂々たる様でタカマガハラへ歩く。


 いやー、今日はよく働いた。

 主要都市の街灯が普段より明るく見えるぜ。

ここまで読んでくださった皆様

ありがとうございます。


あとエピローグで一章終わる予定です。

大体の世界観やキャラ感は掴めてきたんではないでしょうか。

最後までお付き合いくださいませ。

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