史上最凶の魔女
ちょっと遅れはしましたが3話目
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「な、なんだったんだろう……」
私の足元には猿の姿をした、人? 人なのかな? よく分からないけど生命体が寝転んでいる。
さっき、私が間違えて殺してしまった生命体だ。今は治癒魔法でとりあえず治療をしてあげた。
それにしても吃驚したなぁ……。
い、いきなり襲ってきたんだし、これって正当防衛だよね!?
だって、すごい早い動きで私に腕を広げて迫ってきたんだし!?
も、もしかして、痴漢魔だったりするのかな!?
だったら、撃退して正解だったのかも……いや、殺したのはやりすぎだと思うけど、でも、咄嗟の手加減て難しいから……。
彼なら死んだりしないんだけどなぁ、なんて私は思う。
いや、まぁ、彼に同じことされたとしても、私は多分反撃しないと思うけど……うん、多分しない。頭がおかしくなったのかなって心配くらいはしてあげるけど。
「え、あ、そうだ。こんなことしてる暇じゃなかった」
そう、そうだった。
さっきこの森に入った時、彼の雰囲気を察知したのだった。
まさか本当にこの森にいるとは思わなかったけど、彼から会いにきたのかな?
そんな訳ないっていうのは分かってる。
だって、彼だ。基本的に私を尊重してくれるけど、時には崖から突き落とすような彼だ。「甘えていいのは誕生日だけな」とか平気で言って、パーティー入党面接の時に私を放置した彼だ。なんなら部屋を借りに不動産へ行った時、「俺飲みに行くから、内見1人で行けよ」とか言ってきた彼だ。シェアハウスすると思ってたら、まさか別々の住居借りてた時も驚いた……。
そんな彼が私なんかのために会いに来てくれる?
んー……いくら考えても想像できない。なんなら、ちょっと泣きそうになった。
でも、少しだけ。本当に少しだけ期待してもいいかな?
期待するのは自由……だもんね。うん。悪いことじゃないんだし。
「あ、こっちから匂い」
クンクンと鼻をフルに使い、私は彼のいる方角をさらに調べる。
大きく魔法でも使ったのかな? かなり匂いが濃いような気がする。
それにこの獣の匂い……もしかしてダンジョンの中にでもいる? また無魔動物を襲っているのだろうか?
「えっと……」
とりあえず、この殺してしまった人……いや猿? みたいな生命体に謝罪のため頭を下げておく。
ここで放置することをどうかお許しください。私は聖女だけど、あまり模範的な教徒ではないのです。すみません。親の育て方が悪かったということで、目を瞑ってください。
そうして踵を返せば、ふわりと花のような、いや若干アルコールが混じった匂いが漂ったのがわかった。
「あぁあ、すんごいやられっぷりやねぇ、エテ公」
「ひぎっ!?」
日傘を差した少女。額にツノがあることから、間違いない。この少女は魔族である。
そんな魔族の少女を前に、私は喉をキュッと閉めて、変な声を漏らしてしまう。
もう見ることはないと思っていた存在が私の横を通って、そのままお猿さんの側で膝を折った。
「え、あ、あああああああああの、こ、これはですね! え、ええええと」
「気にせんでええよ。今回はあんたはん悪ぅないから」
「こ、今回、は?」
はて、なにか引っかかる言い方をされた気がするが、とりあえず許してくれるみたい。
よかった。見返りとして、接客業なんてしろとか言われたら、私がちで死んじゃうところだった!
「いつまでそこおるん? はよどっか行ってくれんかなぁ」
「え、えぇ? す、すすみません」
「……」
(む、無視!?)
少女魔族――長いから魔女でいいや――は、謝罪を受け取ることもせず、さっさと私から視線を外した。
私は他人と目を合わせられないから、最初っから斜め下45度を向いているんですけどね、はい。
ついでに、前髪で絶対防壁も築いています、えへへ。
――と、いけない。あまりに酷い無視をされたから、また自分の世界に入り込むところだった。
魔女の子も私には早く消えてほしいみたいだし、お言葉に甘えて彼に会いに行こうかな……。
えっと、本当にごめんなさい、お猿の人。名前も知らないけど、今度会えたらお詫びします………………彼も引き連れて!!
私は内心でお詫びの気持ちを述べると、そのまま一礼だけして、彼の匂いを辿るべく走るのだった。
■
少しして。
「あ、そうそう。旦那はんのことで一つだけ言っておかなあかんことがあんねやけど…………て」
スイレンが振り返ると、そこに聖女の姿はなく。
あるのはただ木枯らしに吹かれて舞う木の葉のみだった。
「はぁ、今更消えるんや。ほんま鬱陶しいわぁ……アンタもそう思うやろ、パタスモンキー?」
呆れたように倒れ込むパタスを見れば、魔女は獰悪な笑みを浮かべる。
「ほんま、バカみたいに我武者羅に働いて。別に自由にしとったらええのになぁ……アンタがおらんでも、タカマガハラは安泰だったんよ?」
ゆっくりと、優しくパタスの頭を撫でたスイレンは、数秒の間彼の顔を眺めた。
胸の高鳴りはない。何も感じない。眺めていても、自分が変わったという自覚は芽生えない。
それを認識したスイレンは、さっと立ち上がり影を伸ばす。そしてパタスの影と交わらせれば、艶やかな舌遣いで下唇を舐めた。
「ゆっくり休みーや。滔々と蕩ける夢、見せてあげるさかい」
これは昔の話。それも一匹の猿のお話。
猿は仲間思いで、誰よりも勇敢だった。
猿は仲間を逃すため自ら人間の囮になることを決意した。
されど人間は強く、猿は容易く捕まってしまった。
最後の抵抗も虚しく殺される寸前、そこに一体の魔女が現れたそうだ。
何話ぶりだい、スイレンさん
忘れられてるよ、あなた




