史上最強の聖女
本日あと2話投稿予定
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猿が一匹走っていた。
どこへ行こうなど考えてはいなかった。
頭が沸騰し、血が湧き立ち、体毛全てが総毛立つ。
速く。疾く、早く。捷く。とにかく夙く、
己の全てを振り絞ってでも、パタスは走っていた。
あのまま真っ向勝負を続けていれば、自分は負けていた。
あの男はそう考えていなかったかもしれないが、あれがそう思えば、そうなってしまうのが現実だった。
勝負が長引けば長引くほど、パタスは完膚なきまでに敗北を突きつけられる。
故に逃亡していた。
命のストック4体だけ現場に残し、本体であるパタスは秘密の抜け道から逃げ出していた。
勝てるはずもない。真魔法が使えるとわかった瞬間、パタスの敗北は決定的となったのだ。
歯向かうのは愚か者のすること。
魔族の眷属でしかないパタスに、真魔法は毒でしかないのだから。
大丈夫。まだ大丈夫。
勝負には勝てないが、殺し合いを制することはできないが、パタスにはまだストックが16,774体分もある。
あのセキュリティを殺すために寝込みを襲おう。あと16,773回は失敗できる。
糞を垂れ流しているところを襲おう。まだ16,773回は殺されてもいい。
食事をしている時。セックスしている時。微睡んでいる時。風呂に入っている時。いつだって構わない。
人間は隙だらけだ。隙を窺ってさえいれば、いつかは殺せるはず。
「ウキキ、俺様ともあろうものが…………」
及び腰、逃げ腰、なんとでも言えばいい。
笑いたければ笑い飛ばせばいい。
自分の目的が達成できるのならば、どれだけ蔑まれようと、どれだけ恨まれようと、どれだけ嘲笑われようと、パタスは何度でも自分を奮い立たせる。
そう、全ては彼女のために。
己に力を分け与えてくれた、寂しさを漂わす主人のために……。
「え、あっ……ま、魔物?」
「人間、かj
走っていたパタスの目の前に、女が1人立っていた。
この森林で、しかも軽装備で彷徨いているなど、自殺願望者か何かに違いない。
だが、都合の良いことだ。
ちょうど、ストックを消費して腹が減っていた。女を食べる趣味はないが、今は選り好みをしている場合ではない。
何せ、ずっと待ち望んでいた殺すべき相手が、ようやく見つかったのだから。
――恨むなら、自分の浅はかさを恨めよ、娘。
パタスは全力を出す。
栄養を欲し、女を食らうためだけに、自然と全力を出してしまう。
それはビッグマウスと戦った時とは比にはならない速さ。残像すらも残さない神速で顎を開き、腕を広げ、猿という己が形状すらも忘れて襲いかかった。
なのに。
「が、はっ」
次の瞬間には体がボトボトと崩れていた。
何が起こったのか知覚する暇すらなかった。16,774もあったはずのストックは底をつき、血生臭い匂いが鼻腔を通った。
――何が、何が何が何が何が……何が起こった?
思考はやけにクリアに働く。まるでギロチンで断頭された死刑囚のように、体は死んだはずなのに意識だけがはっきりとしている。
妙な寒気さが喉元を通り、頭を通過すれば、ありえないはずの快楽が脳内で弾けた。
「え、あ、す、すみません!」
襲ったはずの女は、血に染まった視界の中で謝っている。
その光景を最後に、パタスは意識を閉じたのだった。
もうすぐ終わります
あと少しお付き合いくだされ




