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史上最強の聖女

本日あと2話投稿予定

2/4

 猿が一匹走っていた。

 どこへ行こうなど考えてはいなかった。

 

 頭が沸騰し、血が湧き立ち、体毛全てが総毛立つ。


 速く。疾く、早く。捷く。とにかく夙く、

 己の全てを振り絞ってでも、パタスは走っていた。


 あのまま真っ向勝負を続けていれば、自分は負けていた。

 あの男はそう考えていなかったかもしれないが、あれがそう思えば、そうなってしまうのが現実だった。

 勝負が長引けば長引くほど、パタスは完膚なきまでに敗北を突きつけられる。


 故に逃亡していた。

 命のストック4体だけ現場に残し、本体であるパタスは秘密の抜け道から逃げ出していた。


 勝てるはずもない。真魔法が使えるとわかった瞬間、パタスの敗北は決定的となったのだ。

 歯向かうのは愚か者のすること。

 魔族の眷属でしかないパタスに、真魔法は毒でしかないのだから。


 大丈夫。まだ大丈夫。

 勝負には勝てないが、殺し合いを制することはできないが、パタスにはまだストックが16,774体分もある。


 あのセキュリティを殺すために寝込みを襲おう。あと16,773回は失敗できる。

 糞を垂れ流しているところを襲おう。まだ16,773回は殺されてもいい。

 食事をしている時。セックスしている時。微睡んでいる時。風呂に入っている時。いつだって構わない。

 人間は隙だらけだ。隙を窺ってさえいれば、いつかは殺せるはず。

 

「ウキキ、俺様ともあろうものが…………」


 及び腰、逃げ腰、なんとでも言えばいい。

 笑いたければ笑い飛ばせばいい。

 自分の目的が達成できるのならば、どれだけ蔑まれようと、どれだけ恨まれようと、どれだけ嘲笑われようと、パタスは何度でも自分を奮い立たせる。


 そう、全ては彼女のために。

 己に力を分け与えてくれた、寂しさを漂わす主人のために……。


「え、あっ……ま、魔物?」

「人間、かj


 走っていたパタスの目の前に、女が1人立っていた。

 この森林で、しかも軽装備で彷徨いているなど、自殺願望者か何かに違いない。


 だが、都合の良いことだ。

 ちょうど、ストックを消費して腹が減っていた。女を食べる趣味はないが、今は選り好みをしている場合ではない。

 何せ、ずっと待ち望んでいた殺すべき相手が、ようやく見つかったのだから。

 

 ――恨むなら、自分の浅はかさを恨めよ、娘。


 パタスは全力を出す。

 栄養を欲し、女を食らうためだけに、自然と全力を出してしまう。

 それはビッグマウスと戦った時とは比にはならない速さ。残像すらも残さない神速で顎を開き、腕を広げ、猿という己が形状すらも忘れて襲いかかった。


 なのに。


「が、はっ」


 次の瞬間には体がボトボトと崩れていた。

 何が起こったのか知覚する暇すらなかった。16,774もあったはずのストックは底をつき、血生臭い匂いが鼻腔を通った。


 ――何が、何が何が何が何が……何が起こった?


 思考はやけにクリアに働く。まるでギロチンで断頭された死刑囚のように、体は死んだはずなのに意識だけがはっきりとしている。

 妙な寒気さが喉元を通り、頭を通過すれば、ありえないはずの快楽が脳内で弾けた。


「え、あ、す、すみません!」


 襲ったはずの女は、血に染まった視界の中で謝っている。

 その光景を最後に、パタスは意識を閉じたのだった。

もうすぐ終わります

あと少しお付き合いくだされ

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