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実力の予感

 主要都市から南に七キロと少し。そこにはサーザール森林と呼ばれる地帯がある。

 パタスが根城にしているのは、そのサーザール森林内部であり、かつてクイーンアラクネという大型魔物が作った地下迷宮(ダンジョン)跡地であった。


 ダンジョン自体は三年前、凄腕冒険者らによって既に解体されたが、そこをパタスが買い取ったらしい。新たに改築・補填を加え、今では立派な悪の巣窟と化している。

 近くにこんな危険建造物があれば、迷わず冒険者ギルドや騎士団らが駆逐の対象にするはずなのだが、そこはパタスの悪知恵が勝ったのだろう。土地の所有者として収まっている彼は、どれだけ内側が悪辣に作られようと、外に露見しない限り法では裁かれないと知っていた。


 故に悪の巣窟は魔城へと進化した。


 パタスが作り上げた魔城は、まさしく彼だけのものであり、彼以外のものを全て拒む絶対的領域である。頭が切れるというのは非常に厄介だ。このダンジョンを踏破していかなければ、パタスとアバストとやらに会えないのだから。


「契約書に掛かれた場所を見る限り、入口はここみたいだな」

「これ、扉、ない」

「だね」


 現在、俺たちが立っているのは契約書に提示されてあった建物の前。台形のような形をしたその建物は、白く傾斜した壁面をもっており、頑丈な石材で作られていた。

 ダンジョンの内部へ続くための建物だろうことは、なんとなく分かる。

 だが明らかに、目の前の建物には出入口として機能する扉が備え付けられていなかい。一面が白い壁だけで構成され、まるで置物のようにすら感じてしまう。どこからどう見ても欠陥設計だろ。


 建物の周囲に何かないかと思い視線を這わせてみるも、蔦や古木が茂り、その影には長い年月を経た苔や草が生い茂っているだけ。


 お手上げだ。なにも分からない。<白磁の巨腕>メンバーである斥侯のレティが見れば、なにか分かるのかもしれないけどなー。今この場にはいないし、ないものねだりをするだけ無駄だろう。それよりかは、確実に知っている奴から聞く方が早い。


「と言う事で、どう入るか早く教えてくれないかい、カネカスくん」

「早く、教えろ」

「いやいやいや! テメェらマジで言ってんのか!? 無理だって! 殺されるに決まってんだろ、ダボが!!」


 ここまで無理やり連れてきたカネカス君が、そう叫ぶ。

 最初にパタスを倒せって言ったくせに情けない奴だな。男なら決めるときは決めてほしいぜ。


「第一、そのラビィーって女のために、命を賭ける意味があるのかよ! 金持ちの令嬢だぜ? 多少、ぼられたところで喚くほどのことじゃねーだろ」


 カネカスが滔々と語れば、シャロちゃんの目つきが鋭くなる。

 友達に対し、そいつは助ける価値がないと言われれば、誰だって怒りたくもなるもんだ。いつものシャロちゃんなら、ここでカネカスを八つ裂きにしたことだろう。なのにそれをしなかったいうことは、道案内人を再起不能にしない為、寸前で思いとどまったのだと思う。


 僕はシャロちゃんの成長が垣間見えた気がして、少し嬉しいよ。ほろり。


「まぁ、実際問題お金や利権を取り返すのは難しいだろうな。アバストに渡された契約書を見たけど、これは魔法契約だ。第三者どころか、当人たちでもおいそれと解除できない……ってうちの幼馴染が言ってたことある」


 魔法契約自体、一流の魔法使いかそれ専用のアイテムを使用しなければ結べない代物だ。術者の実力によって、効力も期間も制限力も全然違う。ハナも性格や言動があれなだけで、実力は超一流だから使えるらしい。


 一度だけ、

『え、あえ、あ、魔法契約は本人同士の同意が第一条件だから……あ、私の介護してもらうためには、そ、その同意が必要ていうか。だ、大丈夫! 怪しくないよ!?』

 などと迫ってきたことがある。

 あぶねー。もう少しで俺はあいつの介護者として一生を終えるところだった。


「はぁ? ますます分からねぇ……じゃあ、何のために攻め込むんだよ、テメーは。金も利権も返ってこない。相手は裏社会でも名を馳せた化け物。そのくせ、自分の賠償金についてどうにかしようとしてる素振りがひとつも見えねー。ただの馬鹿なのか? それとも――」

「んまぁ、喧嘩売る理由は一つしかないな」


 俺はカネカスの言葉を遮り言う。


 単純なのだ。どう言葉を尽くそうが、どれだけ言い訳をしようが。俺がパタスやアバストに牙を剥く理由は、たった一つしかない。


 弱者を食い物にする怒りはあるけれど、もっと根本的なモノ。

 それは俺が言ってしまった変えられない言葉。




「女との約束を果たすためだよ」




 セキュリティとして、ラビィーさんを彼女らを守るという、ただの約束を果たすのだ。


 逃げるだけでは、彼女たちの問題をなにひとつ解決できない。逃げた後も、ずるずると彼女たちの実家が蝕まれていくだけだ。

 魔法契約を破棄するのは極めて難しいけれど、幸い無効にする手段はいくつかある。

 それは新たに魔法契約を結び打ち消させること。魔法契約を上書きするのは、破棄と同じくらい難しいが、新規として別魔法契約を結び帳消しにするようにはできる。


 はぁー、まじで男がぽんぽんと安請け合いをするものじゃないな。

 愛に飢えている俺は、女の子の前だとついカッコつけたくなってしまう。紳士然とした態度が良い証拠だろう。それがまわりまわって、こういう損な立ち回りをせざるを得なくなるのだ。

 命を賭ける価値があるのか? んなもん、あるに決まってるわ。いくつになっても女の子にはモテたいだろうが! モテたことないけどね!


 俺の言葉が身に染みたのか、存外カネカスも男気があるらしい。しみったれた面で頬を掻くと、大きく腕を広げた。


「ふひひ、確かに定例会はいつもここだったから入り方は知ってる…………けどな、俺はゴメンだぜ! なーにが嬉しくて、金持ち女の尻拭いをしなくちゃならねーんだ! ばっかじゃねぇのか!?」


 見誤ってた。コイツやっぱただのクズだわ。


「ふむ、仕方ない」


 俺は建物に背を向け。少しだけ距離をとる。

 できれば、穏便に侵入したかったのだが、これしか手がないようだ。カネカスが教えてくれないのであれば、多少強引にでも、この入口と思わしき建物を攻略する必要がある。


「お、おい、ビッグマウス?」

「ボス?」

「シャロちゃん、ちょっと離れようか」


 不安げにシャロちゃんが俺を見てきたが、その言葉で安心したのだろう。こくりと頷き、俺とともに距離をとった。カネカスも慌てて俺の背後に回る。

 俺は2人の立ち位置を確認した後、その辺で適当に木の棒を拾いあげた


「あー、まぁこれくらいの長さでいいか」

「棒?」

「なにしてんだよ、ビッグマウス。木の棒なんざ拾って」

「ん? まあ指示棒みたいなもん」

 

 足を肩幅サイズまで開き、俺は木の棒を構える。

 そてい軽く振るうと同時、俺は攻撃魔法でも最も得意な魔法を唱えた。


「〈爆ぜよ(エクスプロー)〉」


 木の棒で差し呪文を紡いだ瞬間、魔力が建物に集中する。壁面には魔力の波が蠢き、そのエネルギーは徐々に建物全体を包み込むよう膨張した。


 ――刹那。


 膨れ上がった魔力が、建物の真上を中心とし圧縮される。

 手のひらサイズの球体。

 それほどまでに小さく凝縮された魔力は、圧力の極限に達したのだろう。無慈悲にもエネルギーが外側へと解放され、大きな爆発を生み出した。


 僅かに大地が震える。

 次に耳を貫くような轟音が鳴り響く。

 白い壁は破裂し、近くにあった古木たちは粉々に砕け散る。


 爆発によって放出された魔法の衝撃波は、森林全体を軽く揺れ動かせるほどの威力だ。建物があった場所からは、炎が舞い上がり、黒煙が立ち込めている。爆風によって周囲の物体は猛烈な勢いで吹き飛ばされ、建物の瓦礫が空中に舞い散った。


 残されたのはただ煙と瓦礫だけ。かつて存在した建物の面影は完全に消え去ってしまっていた。

 

 よし、久々に撃ったけど、威力はあまり落ちていないようだ。ちょっと加減を間違えたのか、小さいキノコ雲ができちゃったけど。 


「ビッグマウス……お前やっぱ化け物か?」

「やっぱって何だよ。俺は普通だぞ。うちの幼馴染はこれの数倍威力が大きいからな」

「…………人間辞めてんだろ、そいつ」


 隣で爆発を見届けたカネカスは、たちまち頭を抱え始めた。対して、シャロちゃんは目をキラキラとさせながら「ボス、すごい」とか言ってくれるのに。失敬な奴だな。

ちがう、ちがうんだぁ

幼馴染は終盤に戻ってくるんだぁ、、、笑



ということで、

ここまでお読みいただき、ありがとうございまする。

「主人公の本名って出てなくね」と思った鋭い方は、ブックマークや評価していただけると、拙僧が馬鹿になります。

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