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コイツ同郷なんだってさ

「お兄さん、分かってる? うち本番は禁止なの。こういうことされると困るんだよねぇ」

「で、ででもお金払ったし……」

「そういう問題じゃないの。相手の娼婦も嫌がってたでしょ。自由恋愛の範疇なら文句言わないけど、無理矢理ってのは良くないねぇ」


 タカマガハラのセキュリティになって早数日が経過した頃。今日も今日とて、マナーの悪い客を俺は取り締まっていた。


 ほんとこういう輩が後を経たないこと経たないこと。お前らは黒くてテカテカした虫か。そうツッコみを入れたくなるほど毎日湧いてくる。一匹見たら千匹いると思え、という母の教えはあながち嘘じゃなかった。


「大体さ、お金で初めて捧げるって恥ずかしくないの? 好きな子と初めて捧げた方がいいよ?」

「ボスも、初めてをここ、しようとした」

「シャロちゃんは黙ってなさい」


 最近、ちょっとでしゃばってくるようになってきたシャロちゃんの頭を撫でながら、黙らせる。自己肯定感が高まりだしたのは素直に喜ばしいが、時と場合で成長を感じさせてほしい。

 ほら見て。余計なこと言うから目の前の客も、「お前童貞かよ」って蔑んだものになってるよ。あーヤダヤダ。これだからモテない男は困る。本当にいい男っていうのは、鞘なんて不必要なほど美しい名剣を持ってるかどうかなんだよ。決して、どこの城も攻め落とせなかったとかじゃねぇから。俺はこれが誇りってだけだから。


「ってか、セキュリティさんも本番目的でここに来てたんじゃないですか……」

「その時は娼館のルール知らなかったの。コース次第ではどんなダンジョンも潜れると思ってたんだよ」


 実際、このタカマガハラ内では自由恋愛はOKというルールが設けられている。恋愛の範疇なら、客といい雰囲気になって、そのままジャングル探索でも洞窟探検でもしてくれればいい、というのがスイちゃんの考えだ。それは本番ではなく、本当にただ男女が好き勝手愛し合っているだけだから。

 ただ、今回みたいに娼婦が嫌がっているのに、無理やり金握らせて果たすというのは見逃せない。


「ほら、分かったらもう帰りな。一ヶ月は出禁ね」

「い、いい一ヶ月も!?」

「こっちは、一生出禁でも、いい」


 シャロちゃんがいつも通り、後ろに背負っている大剣をちらつかせ、暗に断れば切り捨てると告げる。

 それ一生この世から出禁になるパターンだけどね、まごう事なき地獄の片道切符だよ。


 客もシャロちゃんのヤバさは重々承知したのか、丸出しのケツを必死に振りながら逃げ帰っていった。


「ふぅ〜、これで今日何人捌いたんだろ」

「8人」

「多いなぁ……」


 セキュリティの忙しさをしみじみ感じていると、さっきの客が入っていた部屋から、1人のすらっとした娼婦が身を出す。

 肩には、ここ最近タカマガハラでよく見るようになった小型魔物が乗っていた。


 小型魔物――その名も<アラート>。

 スイちゃんが使役している鼠のようななりをした魔物だ。セキュリティの仕事補助を目的に、物理的に監視の目を増やすため、最近投入された。このタカマガハラ内で何か問題が起きれば、アラートが仲間内で伝達し、最終的には俺へ知らせてくれる仕組みだ。

 なんで鼠なのって聞いたら、スイちゃん「なんでやろなぁ」と笑っていた。絶対にビッグマウスというあだ名を揶揄ってる。可愛いから許すけどさっ。

  

「君がアラート使った人? 大丈夫だった?」 

「あ、セキュリティさん……ありがとうございました」

「いやいや、これが仕事だから気にしないで」


 うーん……物腰も柔らかく、かなり美人な子だ。やはりタカマガハラ。レベルが高い女の子がたくさんいる。

 うっすらと紫がかった白髪のストレートヘアに、モフってしまいたくなる縦長の耳。女性の中でも高身長に入るだろう、すらりと伸びた体躯は、健康的でありまた上品さを感じ取れてしまう。

 胸元にある小さく結ばれたリボンは、大人びた彼女とは対照的に、可愛らしさというギャップを与えていた。


「ボス。鼻伸びてる」

「伸びてないよ。聳り立つ可能性はあるけど」

「? どういう意味?」

「シャロちゃんにはまだ早いです」


 見た目まだ若そうなシャロちゃん相手に、下世話な話題を盛り上げるわけにもいかない。

 しかも、最近の彼女はバイオレンスで時々忘れかけるが、男に暴力を振られボロ雑巾のように扱われていた過去がある。トラウマを刺激するような真似は、極力避けた方が彼女のためだろう。


「え、シャロって――………………もしかして貴女、シャロルちゃん?」

「?」


 突然、何かを言い出した娼婦に対し俺は小首をかしげる。

 シャロル? シャロちゃんの別名みたいなものだろうか。


「なんで、私の、名前?」

「覚えてない? 私よ、ツキノよ。ほら、ラビット谷にある屋敷の!」

「ラビット谷…………あっ。もしかして、お嬢?」


 うん? うーん?

 全く話が見えてこないのですが、どうやら2人は知り合いのようですね。

一章の折返し? くらいてすぜっ!

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