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幕間 白磁の巨腕

 ――なんでだよ!! どうなってんだよ!?


 あの無能を解雇してから、初めてのクエスト。

 内容はいつもの俺たちなら達成できるだろう、ギガントオークの討伐だった。


 なのに、何故だ。

 何故ここまで苦戦しなければいけないっ!?


 ギガントオークは皮膚硬度が高いのが特徴的な魔獣(モンスター)だ。樹皮のような外殻は、並の剣では逆にへし折られてしまうほど硬いので知られている。

 それを差し引いたとしても、俺の剣とハナさんの高威力な魔法があれば、楽に倒せる相手だ。そのはずなんだ……!


「ハナさん……――!!」


 今日は目に見えて彼女の動きが悪い。

 先走った行動が多く、パーティー内での連携を度外視したことを度々起こしている。


 必要のない場面での回復。

 仲間と射線が被っているのに放たれる高威力魔砲。

 最悪なのは、声をかけた途端、彼女自身がその場でフリーズを起こしてしまうことだった。


 今はギガントオーク一体を討伐すればいいから、なんとかなっているが。もし仮にこれが、数十を相手取るような乱戦だった場合、彼女の行動はどれもパーティー壊滅に直結するミスばかりだ。

 いくら調子が悪いとはいえ、いつものハナさんなら、ここまでやらかすことなどない。


 流石にリーダーとして、何か言わなければいけない状況である。


前衛交代(スイッチ)!」


 俺はギガントオークに一太刀浴びせた後、奴の顔面を蹴って後方に控えているハナさんの横に移動した。

 その間は、他2人のパーティーメンバーが前衛に切り替わる。


「ハナさん、一体どうしたんだ……? もう少し俺の指示を聞いてくれっ。嫌なところがあれば、指摘してくれても良いから」

「あっ、す、すみま……」

「いや、謝らなくて良いんだ。大丈夫。俺は貴方を信頼しているから、なにか事情はあるんだろ」

「…………」


 またフリーズした。

 目も合わせてくれないし、ずっと俯いている。

 少し肩が震えていることに、俺は気がついた。


 自分のミスを責めているのだろう。別にそこまで思い詰めなくても良いのに。誰にだって調子の悪い時とか、良い時がある。しかも、ハナさんはあれだ。女性しか来ないと言われている「女の子の日」というやつが被ってしまっていると思う。

 苦しい時に仕事をさせるのは、俺としても心苦しい。

 けれど、流石にギガントオークはハナさん抜きで勝つには、少々面倒な相手なのだ。ここで離脱してもらうという選択は、あまり取れない。


「とりあえず、ハナさんは治癒魔法を掛けるのに専念してくれ。貴方なら触れずに癒すことができるはずだ」

「えっ、あ、む」

「頼んだぞ!」


 俺はそういって駆け出した。

 心配することなど何もない。体は羽のように軽く、魔力も満ち満ちている。後ろに彼女が控えているという、ただそれだけの事実で俺は、自身が何倍も強くなれたような気がしていた。


 前衛に出ていた2人と再び入れ替わり、俺はギガントオークの頭部に<聖女の剣>を叩きつける。

 あの無能が持っていた、宝物。本来の担い手として、俺ほどふさわしい者はこの世にいないことだろう。

 それを証明するかの如く、キィィィンと剣からは、鉱石とかち合った時のような金切り音が轟いた。


「うぉら!!」


 ギガントオークの額を少しだけ斬り裂く。そのまま距離を取るため足蹴りを鼻に放った。水薬で強化されている俺の蹴りは、オーガすら膝をつく程の殺傷力だ。それをノーガードで顔面に喰らったのだから、例え相手が頑丈なギガントオークといえど、流石に怯むはず。


 そう思っていた――奴の金色に光る瞳に睨まれるまでは。


「GuBoooooooo!!」

「なにぃ!?」

 

 怯むことなく振りあげられる剛腕。それに樹木が幾重も纏わりつき、一瞬で槍のような形状に変化した。


 ――まずいっ。

 

 そう思った時にはすでに遅い。

 鋭利に尖った樹の槍が、俺の腹部を貫かんと放たれる。

 避けようにも、今の俺は攻撃をした直後であり、回避行動に移せない。完全に仕留めたと思った後からの攻撃。防ぐ手段はなし。咄嗟に歯を食いしばり、俺は今から襲いかかる痛みに堪えるため、身を強張らせた。


 ――大丈夫だ、傷を負っても俺にはハナさんがっ!!


 その思いが脳裏で駆けたと同時、全身に激痛が走る。

 俺は感じたことのない痛みに、そのまま意識を手放すことしかできなかった。



 





「ここは……」


 気がつけば、見知らぬ天井だった。いや、天蓋と言った方が良いかもしれない。屋内というより、ただ洞窟のような場所で俺は寝かされていたらしい。

 腹を摩ってみる。ギガントオークに貫かれた部分は、とりあえず塞がりつつあるのが分かった。

 こんな芸当ができるのは、間違いなく彼女しかいない。


「起きたか、リーダー」

「レティ……居たのか」

「当たり前だろ。流石にパーティーリーダーを放って逃げねぇって」


 けらけらとそう剽軽に笑うのは、白磁の巨腕のパーティメンバーでもある斥候の森人(エルフ)だった。


「おい待て……逃げるって言ったか?」

「あ? あぁ……ジャイアンは途中で意識切れたもんな。私たちは負けたんだよ、ジャイアントオークに。依頼は失敗だ」

「何を言って――――」


 俺は言葉を詰まらせる。

 確かにジャイアントオークは面倒な相手だ。だが、俺たちのパーティで負けるほどの敵ではない。

 パーティーリーダーである俺が敗れたとしても、それが揺るがない事実だった。

 だって、このパーティーにはあのハナさんがいるのだから。彼女1人いれば、どんな相手にも負けるはずがない。


「ハナさんは……おい、ハナさんはどうしてるんだ!!」

「あんま叫ぶなよ、男がみっともない。傷口開くぞ。ハナちゃんなら、そこら辺で新鮮な空気でも吸ってもらってるから、かなり調子悪いみたいだったしな」

「っ、無事……なのか」

「当たり前。抜けてるところあるけど、あの子だけは絶対になんも起きないって」


 レティは心なしか呆れているような目で俺を見た。

 良かった、彼女は無事なのか。

 だか、そこで疑問が生じる。ハナさんが無事なのであれば、なぜ俺はここで寝ている? 


「……どうしてだ?」

「あぁ?」

「どうして、俺のパーティは失敗したんだ?」


 そう尋ねると、レティは大げさに肩を竦めた。

 まるで俺を馬鹿にするように。

 

「はぁ、そりゃお前あれしかないだろ」

「?」

「このパーティにとって……いやハナちゃんにとって大切なビッグくんを、お前が追い出したからだろ」

「っ!!?」


 俺はレティが何を言っているか、その意味を正しく理解できなかった。

やったぁぁぁぁ!

GWだぁぁぁぁぁぁぁ!

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