とりま、娼館行ってくる
退廃的ストーリーはお好きで?
「お前は何もしてないだろ」
いきなり飯屋で、そんな台詞を吐かれてしまった。
告げてきたのは何を隠そう、うちのパーティリーダであるジャイアンだ。体が大きく、また人並み以上に優秀だと評判の彼は、積年の恨みを晴らすかの如く、俺に叱責を飛ばす。
「いや、俺は俺でサポートをだな」
「お前のせいで、ハナさんの足を引っ張ってるって、まだ分からないのか?」
「ハナの足を引っ張ってる………俺が?」
ハナさん、というのは俺の幼馴染である聖女の名前だ。
欠損した部位すらも治す高等治療魔法に、「お前ほんとに聖女なの?」と目を疑いたくなるほど凄まじい高威力魔法の脳筋センス。何より顔とスタイルだけは抜群に良いせいか、この主要都市でもかなり評判の冒険者として知られている、らしい。
俺から言わせてみれば、目を合わせて人と会話できないコミュ障。
休日の趣味はサボテンへの水やり。
しまいには1人でお店にも行けない、奇行の目立つやべー問題児なのだが。
それでもジャイアンとっては、ハナを特別視するにたるナニカがあるらしい。いつも、ハナさんハナさんと有頂天になって呼んでいる。
「待て待て、見解の相違だ。いつも言っているが、俺は人と喋れないハナの代わりにだな」
「もういい! いっつもお前はそう言って、ハナさんを言い訳に自分の無能を棚上げしやがる! 限界だ。今日行ったドラゴニュート討伐依頼だって、実質俺とハナさん、他の2人で倒したみたいなもんだろ!」
「まぁ、それはそうだけどよ」
がしがしと頭を掻いて、俺は麦酒を呷ることしかできなかった。
まぁ、ジャイアンの言いたいことは分からなくもないよ。
確かに俺は仕事の際、基本的にハナの面倒をみている。というか、みすぎている。あいつは人とろくに目も合わせれないし、会話も困難だから、比較的まともに話せる俺が橋渡し役を買って出ているのだ。
そのせいでついた俺のあだ名が「ただ声がでかい人」。
またの名を<ビッグマウス>。
誰がネズミだ。このあだ名つけたやつはいつか殺す。
「とにかく今日限りでお前はクビだ! これまでの迷惑料として、武器も達成報酬も全部置いて出ていけ!」
「それはあまりに急すぎだと思わないか、ジャイアン。もう少しパーティメンバー内で話し合ってだな」
「俺はリーダーだぞ。俺のパーティは、俺のルールで決める」
思わず、はぁあああああ、と長いため息をついてしまった。
前からジャイアンには嫌味を言われていたし、確かに少し、ほんの少しだけ後ろめたい気持ちもあったのだ。俺はハナの通訳としてしか仕事していないのに、こんないい思いをさせてもらって良いのかなって。
そう考えると、リーダーとしてコイツの判断は間違いじゃないような気もする。
いや、迷惑料とか言って俺の財産を査収してくることは、全く持って腹立たしいのだが。それでも、コイツからしたら喋るだけのタダ飯ぐらいを雇う必要性が皆無なのだろう。
「わかった。わかったよ。そこまで言うなら、今日で俺はクビでいい」
「わかればいいんだ。ふん」
「ハナにはよろしく言っておいてくれ」
今頃呑気に自宅でサボテンに水やりしている幼馴染聖女を想像して、少しだけ苦笑いが出る。
ここが潮時だったのだろう。
それに何時迄もハナの面倒を見ていては、あいつのためにはならないと俺も思っていた。
このジャイアンというリーダーは、ガサツではあるが良いやつだ。なんせ、俺のような無能を「役立たず」と言いながら、1年も面倒を見てくれた。何より、あのコミュ障で奇行を度々やらかすハナを、仲間として受け入れてくれた男だ。
俺からしてみれば、それだけでコイツに恩義がありすぎる。
「あ、でもここの飯代と、金貨5枚分は勘弁してくれないか?」
「は?」
「いや、あんたの意見は真っ当だと思うんだが、なにぶんいきなり文無しというのは……な? 良いだろ?」
ジャイアンはしばらく考え込んだ後、「金貨3枚分だ」と言ってくれた。
よかった。これで俺のしたいことはできるだけの金が残りそうである。
「それじゃ、俺はそろそろ行くよ。長い間、世話になったなジャイアン」
「お前みたいな無能はさっさと田舎に帰って、農業でもしてるのがお似合いだぞ」
「はは、言えてらー。実家に帰って畑でも耕すよ。育ったら食ってくれ」
「…………スイカなら、貰ってやる」
うん、やっぱコイツ根は良いやつだな。
そんなことを思いながら、俺は装備していた武器と金貨3枚をのけた全財産を置いて、はやる気持ちを抑え店を後にする。
もう少し飲んでいたい気持ちもあったが、ジャイアンとこれ以上いると俺の何かが爆発しかねないのだ。
さて、ジャイアンと別れ飯屋を後にした俺は街をふらついた。
行く宛もなく?
いいや、違うね。行く宛ならきちんとある。いきなりパーティを追い出されたとしても、俺はずっとやりたいことがあったのだ。
ここで問題です。
顔よし。スタイルもよし。ただ性格に難がありすぎる幼馴染聖女と、ずっと一緒にいた俺のシタイこととは何でしょう。
正解者には、今の俺の全財産である金貨3枚をプレゼント! なんて大判振る舞いをするわけもなく。
まぁ、ちょっと考えれば誰でも分かることだとは思う。
ヒントは俺が彼女いない歴=年齢だということだろうか。もはやこれはヒントではなく、答えのような気がするが、そこは気にしたら負けだと思う。
ハナがいたおかげかどうなのか、俺には今まで浮ついた話というものが無かった。「これワンチャン行けんじゃね?」と思った女の子はいたさ。本当だよ? 嘘ついたって得なんて無いんだから。
でも何でか知らないけど、ピンク色だった雰囲気が、次会うときにはダークな雰囲気に変わてるの。おかしいよね。俺なんか変なことしたっけ?
まじでこの世は恐ろしいと思ったね。世の男どもは、こんなバイオレンスルートを回避しながら結婚に至るのかと戦慄したのは記憶に新しい。おかげで、ジャイアン以外のパーティメンバーとは、ちょっと顔合わせづらい。
だから俺は恋だの、愛だのというものはもう諦めている。
俺に結婚は無理だ。当然、彼女も多分作れないだろう。
だから、ずっと縋りたかったものがある。
愛が無理ならば、彼女が作れないならば、金で買ってしまえばいいのだと俺は気がついたのだ。
ジャイアン率いる冒険者パーティにいたときは、素行不良とか言われたくないし、ハナや他女メンバーの目もあったから行くことは叶わなかった。でも今は違う。そう今の俺は自由の身。体一つでどこへでも飛んでいけるサンダーバードのような存在。
俺は今から神へと至る。
「たのもうっ!!」
ここが俺の桃源郷。
この都市最大にして最高級と名高い娼館。 <タカマガハラ>の門扉を開いたのだった。
■
私には幼馴染がいる。
物心ついた時から、ずっと一緒に育った大事な幼馴染が。
彼は底なしに優しく明るい人だった。
彼は底なしに温かい人だった。
昔から自発的に行動に移せない私の手を引っ張っては、いろんなところに連れて行ってくれた。
私は彼と冒険するのが好きだった。未知の土地へ赴き、知らないモンスターと四苦八苦しながら戦えば、胸がすく思いだった。
でも今日、私は彼に甘えすぎていたのだと自覚した。させられてしまった。
「………………え? な、なんで…………?」
「だから、あの喋るだけの無能はクビにした。これからはハナさんと俺たちで、もっと高みを目指すんだ」
「……ど、どうして……そんな酷いこ、と……」
私にしては珍しく言葉がすらすらと出ていると思う。
それだけ、目の前にいるリーダーの言葉が信じられなかった。
さっきまで家でメルちゃん(サボテン)を眺めていたのだが、唐突に家にやってきたリーダーが、あまりに荒唐無稽なことを言い出したから。
信じられない。
信じたくない。
この人は何を言っているのだろう?
理解したくないのに理解してしまう。嫌でも頭がフル回転してしまう。
身が焼けるような感覚に陥って、しまいには心臓が破裂しそうなほど拍動を刻む。
気がつけば私は、その場で泣き崩れてしまっていた。
はっじめまして。はっじめまして。
本当にはっじめまして?
ここまでお読みいただき、ありがとうございまする。
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