赤いランドセル
『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
キーワードは『ランドセル』。
単品でも楽しんでもらえると思いますが、拙作のアフターストーリーにもなっています。
気付いていただけたら嬉しいです。
「……えっと、確かこのあたりに……。あ、あったあった」
俺は押入れの奥から目的のものを取り出した。
六年間使った赤いランドセル。
去年までの俺の相棒。
「わ、一年経ってないのに、結構な埃だな……」
鼻に入る埃の匂いに顔をしかめながら、用意しておいた固く絞った布で拭いていく。
小学校に上がる前、このランドセルが大っ嫌いだった。
近所のお姉さんのお下がりというのも気に入らなかったけど、何よりこの色だ。
赤は女の子用で可愛い色。
そう思っていたから。
『は? なにいってるんだよ。あかってかっこいいだろ? レスキューファイターのリーダーのレッドファイアーだってあかじゃん!』
『……あ! そっか! そうだよな!』
幼馴染のあの一言がなかったら、俺はずっとこのランドセルの事を嫌いだったかもしれない。
当時大好きだったヒーローの色だと思ったら、途端に格好良く見えた。
我ながら単純だよな。
それからはこのランドセルは俺の相棒になった。
「よしっ、と」
拭き終わると、ランドセルはつやつやと輝いていた。
大事に使っていた甲斐もあってか、目立つ傷もない。
うん、これなら来年の四月から小学校に上がる従姉妹のサチコちゃんも、ちゃんと使えるだろう。
……何か、ちょっと寂しいな。
六年間ずっと一緒だったんだもんな。
お姉さんもこんな気持ちだったのかな。
サチコちゃんも、六年経ったらこんな気持ちになるのかな。
「ふぅ……」
これが大人になるって事なのかもしれない。
胸の奥がきゅうっとなるけど、何だか嫌な気持ちじゃない。
俺はお母さんから渡された綺麗な袋にランドセルを入れて、リボンをかけた。
「あ、叔父さん! 叔母さん! 久しぶり! サチコちゃん、こんにちは! 大きくなったね!」
お正月にやってきた叔父さん一家を、俺は笑顔で出迎えた。
「これ、ランドセル! お古で悪いけど使ってくれたら嬉しい!」
受け取ったサチコちゃんが包みを開く。
わ、すごい声。
早速背負ってみんなに見せて回ってる。
きっと大切にしてくれるだろう。
あ、叔母さんが俺の制服を褒めてくれた!
「あ、ありがとう。去年のお正月はまだ届いてなくて見せられなかったから。えへへ、どう? だいぶ似合うようになったでしょ?」
赤いランドセルと同じように、幼馴染の言葉で嫌いじゃなくなったセーラー服。
サチコちゃんが、中学生になったらそれも欲しいと叫ぶ。
「これは駄目、かな」
可愛いと言ってくれたタケルの顔を思い出し、俺はぺろっと舌を出したのだった。
読了ありがとうございます。
はい、主人公は女の子でした。
男勝りで、女の子らしくするのが嫌だった俺っ子です。
声を当ててもらったら仕込みが丸わかりな気がしてなりませんが、細けぇ事は良いんだよ!という事にします。
ちなみに拙作『親友だった幼馴染が親友ではなくなった春の日の話(https://ncode.syosetu.com/n9583hn/)』の後日談でもあります。
よろしければそちらも是非。
次回は『量子力学』で書く予定です。
よろしくお願いいたします。