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99.会話 缶詰の話

本日もこんばんは。

缶詰ってちょっと高価ですよね。何代なんでしょうか。

「おおっ、こんなところに缶詰がありますよ。ちょっと泥まみれですが、開いていなければ問題ありません。いかがですか、勇者さん?」

「食べ物ですか? いただきます。……食べられないのですが」

「そりゃあ、開けないと中身と会えませんよ」

「開け口がないです」

「缶切りが必要なタイプですねぇ。まあ、だいじょうぶですよ。まずは水できれいにし、爪でささっと。はい、どうぞ」

「爪で開くもんなんですか。どれどれ……」

「だめですよ。指をケガしますから、触らないでください。あ、蓋も危険ですからね」

「はーい……。これは、肉でしょうか」

「焼き鳥って書いてありますね。こちらは魚で、これは果物ですよ」

「便利なものがあるんですね。これさえあればいつでもナイスなおかずにありつけます」

「缶詰は保存食や携帯食として利用されることが多いですので、旅人であるぼくたちにはうってつけですね。まあ、毎日お宿に泊まるんですけど」

「保存食ということは、長持ちするんですね。では、これに食べ物を入れて持ち運べば完璧では……?」

「閃いた顔をしているところ申し訳ないのですが、一度開けた缶は使えませんよ」

「ちっ……。それなら魔王さんの指を詰めるしかないですね」

「どうしてそっちの『詰め』を知っていて缶詰を知らないんですか」

「缶に指を詰めていたところ、長期にわたる保存が効くとわかり応用によって生まれたのが食べ物の缶詰でしょう?」

「当然のように言っていますが、違いますよ。どこで仕入れたんですかその知識」

「その辺の道で」

「捨てなさい」

「でも、たとえばの話、魔物との戦いで腕とか足が取れたとして」

「たとえばの話が物騒ですね」

「取れた四肢を缶詰に詰めて処置ができる場所まで移動するというのは、かなり現実的で有効なのではないでしょうか」

「言いたい事はわかりますが、そう都合よく製缶機はありませんよ。あったとしても、魔物に見守られて缶をプレスする光景、見たいですか?」

「いっそ魔物をプレスした方がはやいですね」

「また脳筋の考えた方を……って、なんでぼくを見ているんですか」

「魔王さんをプレスしたら、ぺらっぺらの魔王さんになるんですか?」

「なんでちょっと薄ら笑いを浮かべて訊くんです。こわいですよ」

「ちょうど缶詰を食べ終わって、中身がなくてさみしいと缶が言っています」

「無機物と会話できる能力がおありなんですね。しっかり耳を傾けてあげてください」

「ちょっくら片腕もいでもいいですか?」

「いいと思いますか?」

「中身を失った缶をかわいそうだと思う心はないんですか」

「その中身をおいしく食べたのはどこの誰でしょうか」

「とってもおいしかったです。白米がほしいですね」

「焼き鳥と白米は最高のマッチング――じゃなくて、蓋をぼくの腕に当てるのやめてくださいよう。地味にギザギザして絶対痛いやつ。せめて切れ味をよくしてくださいよ」

「じゃあ剣で」

「それならまだ――じゃなくて。斬るな! もぐな! ひねるな! 痛い!」

「やかましいですね。仕方ありません。指でガマンしてあげます」

「それくらいなら――じゃない。最初に無理難題を言ったあとに少し簡単なお願いをすると通りやすくなるアレを利用してぼくの指を切断しようとしないでください」

「いいじゃないですか。全部で二十本もあるんですよ。一本くらいなんですか」

「指の一本は大きいですよね? ね? あれ、ぼくがおかしいの?」

「今なら焼き鳥が漬かっていたタレもついてきますよ」

「そんなオプションみたいに言われても」

「ああ、すみません。魔王さんは果物のシロップの方がいいですよね。甘くて」

「そうですね――じゃなくて、鉄分とシロップが混ざったもの食べたいですか?」

「死にはしないと思いますけど。もしかして、魔王さんの血は毒性があったりします? 魔王っぽくていいと思いますけどね」

「え、いや、そんなことはないと思いますけど……。というか、血は気持ち悪いですよ」

「血が流れていない方が化物っぽいですよ。はあ、なかなか魔王さんが指をくれないので飽きてきました。石でも入れましょうか」

「ぼくが悪いんですか、これ? ぼく?」

「あれ、ひとつ開いていない缶がありますね。食べ忘れたみたいです。魔王さん、なにやらペンで文字が書かれているのですが、なんでしょうか」

「えーっと、『キケン』ですね。警告のようです。もしかして、缶詰に紛れさせた罠の可能性もあります。これは開けずに捨てた方が――」

「でもこれ、魚のマークですよね。魚の缶詰ってことですよ」

「ですから、普通の缶詰に見せかけたキケンな物って意味で――」

「食べ物を前に引き下がれません。剣でこじ開けます。おらぁ」

「ちょっと勇者さ――うぎゃああぁわあぁぁあぁぁあぃあぁぁいあぁい⁉」

「なんですかこの臭い……。おえ、吐きそう。中身は魚っぽいのに、この私ですら食べるのを躊躇う臭いです。なるほど、これが『キケン』の意味ですか。うっ……おえっ」

お読みいただきありがとうございました。

缶切りってまだ使いますよね。ちょっと不安になってきました。


勇者「この臭い、腐っているのでは……」

魔王「いえ、これが正常なんですぅ……。た、食べますか?」

勇者「食べ物なら食べられる……。食べ物なら食べられる……。うっ」

魔王「そこまで命を削らなくても……」

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