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98.会話 幽霊の話

本日もこんばんは。

今日はジャパニーズホラー的な話の予定です。たぶん。そうなっていたらうれしいという願望です。

「いやー、すっかり暗くなってしまいましたね。今夜のお宿はもうすぐです。足元に気をつけてくださいね」

「どえらい強力な懐中電灯を手に言われても。残念ながら転びようがありません」

「暗いところでは幽霊が出ると言いますし。暗いってだけでこわいじゃないですか」

「魔王が幽霊を怖がるんですか。相変わらずつまらないひとですね」

「そういう勇者さんはおばけ平気なんですか?」

「…………」

「勇者さん? なんだかいつもより距離が近いような……。ぼくはうれしいですけど」

「うるせえんですよ。黙って道を照らしてください」

「お口が悪いですねぇ。ところで、質問の答えを聞いていませんが」

「そもそも、幽霊って死んだ人間でしょう。生前は幽霊を怖がるくせに、幽霊になったとたん驚かせる側に回るだなんて、手のひら返しもいいとこです」

「あ、いや、そうですね……? あっ、興味じゃないでしょうか? 幽霊になったし、生きているひとを驚かせてみようって」

「そうして負のループが生まれる」

「悪いことをしているわけではないような。それにしても、一歩間違えたら真っ暗闇ですよ。ほんとうに幽霊が出てきそうです」

「それもおかしな話なんですよ」

「何がですか?」

「幽霊って、どうして夜や暗い場所、じめじめしたところや不気味なところに出没するってイメージなんですか。行きたいですか? そんなとこ」

「いやですよう。幽霊が出そうですし」

「幽霊が出る場所イコール陰鬱な場所っていうのがどうにも……。もし私が死んで、出てくるなら絶対人のいない静かな森の中で昼寝とか、絶品高級レストランとか、羽毛布団完備のホテルとかですよ」

「めちゃくちゃ想像しやすい例をありがとうございます。たしかにそうですね。ぼくも死んだとして――死にませんが――出るなら勇者さんの枕元ですね」

「出てくんな」

「とはいっても、定着したイメージを変えるのは難しいですよね。勇者と魔王のイメージのように」

「身をもって感じていますからね。あと、他にも納得できないことがありまして。暗い場所はよく見えないからこうして懐中電灯なり光源なりを持つわけです。どうして見にくい場所にわざわざ幽霊は出るのでしょうか。もっと明るいところに来てくれないと、気づかない可能性だってありますよ」

「たしかにそうですね、たしかに。そもそも気づかずにスルーしちゃうかもです」

「加えて、人間は夜目が効かないのに、幽霊になったとたん夜目スキルをゲットするのかって話ですよ。あいつら見えてんのか?」

「肉体がないので何かしらのパワーで見ているのかもしれませんが」

「たいして見えてもいない状況で、人間の動きや場所を確認して位置取りをしていたらめっちゃ愉快ですよね。ライト欲しいな~って思ってたりして」

「幽霊の怖さが半減する内容ですね」

「生きていた時の感覚で木を避けて歩いたり、物音にびくっとしたり、明らかにやばそうな人間はターゲットから外したり……。ザコいな」

「お口が悪いですよ。ですが、なんだか幽霊さんへの恐怖心がなくなってしまいました。こんにゃくの方がよっぽどこわいです」

「今もせっせと驚かせる作戦を立てているんでしょうか。腹立ちますね」

「健気でいいじゃないですか」

「うわっ。ライトを下から当てるのやめてください。気味が悪いですよ」

「えへへ~。おばけ風の定番スタイルです。びっくりしました?」

「してないです。今の『うわっ』は『気持ち悪っ』の意味ですから」

「つれないですねぇ。……ところで、ずいぶん歩いたのにお宿が見えてきませんねぇ」

「看板もない分かれ道で、地元のおばあさんからこの道だと教えて頂いたんでしたっけ」

「そうですそうです。歩いて十分くらいだとおっしゃっていました」

「もう三十分くらい歩いてません?」

「おかしいですねぇ。あんまり暗いので、道に迷っちゃったんでしょうか」

「手に持っているばか強懐中電灯はお飾りですか」

「あっ、何か見えますよ。やっと着いたようです。お宿です~」

「……あれが? どう見ても廃屋ですけど」

「ありゃ? お、おかしいですね……? 今日付けで廃業したんでしょうか」

「これ、廃墟になってからかなり経っているようですけど」

「で、ですが、おばあさんはたしかに道案内をしてくださいましたよ?」

「その人、こんななんにもない田舎の夜に、ひとりで何してたんですかね」

「おうちに帰るところだったんだと思いますけど……。ああ、そういえば、懐中電灯を持っていなかったのでお貸しようと思ったんですけど、断られちゃいましたね」

「いくら見知った場所でも、こうも暗いのに光源なしって……。ちなみに、なんて言って断られたんですか?」

「えーっと、たしか、『持てないから』と」

「へえ……」

「おばあさんでしたし、握力が弱くなっているんでしょうねぇ」

「……そんなセオリー通りの展開は求めてないんだけどなぁ」

お読みいただきありがとうございました。

夏なのでもっとホラーチックな話を書いていきたい所存。


魔王「いつかの洋館を思い出しますねぇ」

勇者「あれ、となると、今日の宿は……」

魔王「野宿……ですね」

勇者「それが一番ホラー……」

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