97.会話 ハグの話
本日もこんばんは。
今日は脳内にアメリカンを住まわせて書きました。アメリカンなノリでお読みください。
「うわっ。なんですか、急に抱きついてきて。不意打ちで仕留める気ですか?」
「違いますよう。今日はハグの日だと聞きまして、合法的にハグしてもいいのでは? と思ったので勇者さんに抱きつきにきました。って、痛ぁぁ⁉」
「剥ぐの日とは、また物騒で危険な日があるものです。普段はのほほんアホ顔かましていますが、やはりあなたは魔王……。人間の皮がほしいとは、いい趣味してますね」
「剥ぐの日て。ぼくだっていやですよ、皮を剝ぐのなんて。ハグですよ、ハグ。体をぎゅっと抱きしめることです。いまやっているでしょう?」
「そうですね。全然離せません。くそったれ馬鹿力」
「お口が悪いですよ。って、ちょっと、なんで剣を取り出そうとしているんです?」
「刃具の日ですよね」
「ぼくの話、聞いてました? ハグの説明までしたんですけどね。聴覚異常でしょうか」
「魔王さんの言葉のみに反応する異常です」
「ぼくの声はモスキート音かなにかなんですか。えー、こほん。気を取り直して、ハグにはとーっても素晴らしい効果があるんですよ。たとえば、信頼関係や愛情が深まったり!」
「そもそも深める信頼も愛情もないと思うのですが」
「そぉんなこと言わずにぃ。えっへへへへ~」
「え、なんですか。気持ち悪い」
「今日のぼくはそれしきのことで傷つきませんよ。なにせ、勇者さんとハグをしていますからね。幸福感を得ているさなかなのです」
「メンタル強めの魔王さんほど気味の悪いものはありません」
「ぜ~んぜん効きませんね。加えて、ハグを三十秒することでストレスが減るという噂も。ぼくのストレスも消え去りました。特にストレスはありませんけど!」
「私はストレスが増加しています。そうそうに離れてください」
「まあまあまあまあまあまあ、そう言わずに」
「長い」
「それでですね、密着している場所が広いほど、効果が上がるそうなんです」
「え~、絶対うそ」
「うそじゃないですよ。ほらほら、どうです? 幸せな気持ちになってきませんか?」
「…………」
「ありゃ? 勇者さん?」
「心臓の音が聴こえるなぁと思って」
「ああ、近くにいますからね。ぼく、相手の心臓の音って好きですよ。安心する――」
「魔王さんって心臓あったんですね」
「ぼくをなんだと思ってたんですか?」
「魔族には謎が多いですし、不老不死だからそもそも心臓がない説もあるのかと」
「謎がひとつ解明されましたね。ぼくにもありますよ、心臓。勇者さんと同じものかはわかりませんけど」
「比べてみます?」
「心臓は比べるものじゃないですよ。せっかくハグをしているのに冷や汗が出てきます」
「耳元で呪詛を囁いて差し上げましょう」
「ハグの効果が消えてしまうじゃないですか」
「ちょうどいいですし、ここらでひとつ、手榴弾でも使いましょうか」
「なにがちょうどいいんです? あっ、こら、安全ピンを抜くな!」
「あ~……。チャンスだと思ったのに」
「心中ごっこですか。洒落にならないのでやめてくださいね」
「たかが手榴弾ごときに、ずいぶん心臓の音が速くなりましたね。びびってんですか?」
「勇者さんが死んでしまうかもと思って焦ったんですよ。ぼくはどうでもいいんです」
「千載一遇の四肢爆散チャンスが」
「もう、今日は穏やかのんびり癒しとぬくもりの幸せシチュエーションの予定だったのに、どうして物騒になるんですかぁ~……」
「勇者と魔王の時点で無理かと思われ」
「でもですね、ぼくはこうして勇者さんとハグができて幸せですよ」
「効果バツグンみたいですね」
「きみの物騒な語彙チョイスや行動もいつも通りでむしろ安心するというか」
「これからも殺意を忘れずに精進します」
「語呂合わせにちなんでハグをしましたが、できればこれから日常的に習慣的に定期的にハグをしたいなぁと思うのですが~……。チラッ」
「いやです」
「え~~ん、わかっていた反応……。こんなにハグしているから、わんちゃん絆されたりしないかなぁと思いましたが……。リラックスもしませんか? 何の効果もなし?」
「魔王さんが全然離れないので、体温が伝わってきてあたたかいとは思います」
「そうですか。そうですか~!」
「やかましいですね」
「いい効果が表れているということですね。嫌ではないですか?」
「……まあ」
「そうですか~。ところで、勇者さん。ハグによる良い効果は相手に好意を持っていないと出てこないそうですよ。つ・ま・り、勇者さんはぼくに好感を抱――ってぐるじいっ」
「こうも近いと首も絞めやすいですね。おーら、幸せか? ん?」
「より密着できるという点では幸せです――あ、待って待って力強めないで待っ」
お読みいただきありがとうございました。
アメリカンにはお帰りいただきました。
魔王「幸せで視界が霞みますぅ~」
勇者「脳がやられているようですね」
魔王「はっぴーすぎて体から力が抜けていきますよ~」
勇者「ハグの効果すごいですね」