95.会話 転生の話
本日もこんばんは。
一度や二度は転生してみたいですね。
転生ブームなので乗っかってみました。
「勇者さんは転生したら何になりたいですか?」
「唐突な質問ですね。死にたい気持ちがあるならお手伝いしますよ」
「大剣しまってくださいね。最近、転生ブームでしょう? 自分がそうなったら何になるのかなぁと考えましてね。場合によっては、なりたいものに転生できるかもしれません」
「何になりたいか……。なりたくないものならパッと思いつくんですけどね」
「それは何――って、ぼく、思い当たるものがあるのですが……」
「たぶん合っていますよ」
「人間ですか?」
「人間です。二度と人間にはなりたくないです。そもそも新たな命をもって生まれてきたくないです。零歩譲って生まれてくるとして、道端の隅の端っこの奥に生える雑草がいいです。それか石ころとか土とか」
「ちょっとツッコミどころが多すぎるんですけど、ついに一歩も譲らなくなりましたね。そんなこと言わないでくださいよう。ぼくはまた勇者さんと出会いたいですよ」
「断固拒否」
「一切の躊躇いがないですね。清々しいです」
「生まれ変わって魔王さんに出会うってことは、つまりまた勇者になれってことですよ。いやに決まってるじゃないですか。二度とやりませんよこんなブラック業」
「今の勇者さんはずいぶんぐーたらしていると思いますけどねぇ」
「うるせえんですよ。そういう魔王さんは、何に転生したいんですか。そもそも、不老不死なので願望になるでしょうけど」
「ぼくですかぁ?」
「なんですか、そのアホ顔は。ご自分から始めた会話でしょう」
「えへへ、考えたことなかったもので。そうですねぇ、転生するなら……。あ、記憶ありですか? 記憶なし?」
「どっちでもいい……。じゃあ、記憶ありで」
「人間になりたいですね! ふつーの人間に転生して、勇者さんと姉妹とか憧れます。家族じゃなくても、幼馴染とか、おうちが隣とか、一緒の学校のお友達とか。クラスメイトとかいうやつです」
「前世で殺し合った仲で……? 正気ですか」
「勇者と魔王ですから殺し合うのは当然っちゃ当然ですし、ぼくは勇者さんと仲良くしたいと思っていますよ。現に、いまとっても仲良しでしょう?」
「別に……?」
「想いがすれ違って心がつらい……。心がすり減ってなくなりそうです……」
「はあ、そのまま消えればいいんじゃないですかね」
「あまりに辛辣すぎません? 悲しくて死んじゃいますよう」
「ていうか、魔王さんは転生しなくても自由に姿を変えられるからいいじゃないですか」
「ぼくの言葉、届いてます?」
「姉妹になりたいなら、それっぽく変化してみてください。カラーチェンジでいいので」
「黒髪赤目の美少女に、ですか? 朝飯前です。とうっ!」
「おー。色が変わるだけでもずいぶん雰囲気違いますね。不気味で仕方ありません」
「この姿で勇者さんの隣にいれば、まるで双子ですね。うれしいです」
「記憶ありの状態ですし、願望のままですよ。おめでとうございます」
「お祝いの気持ちが全く感じられない……。せめてこっち見て……」
「それにしたって黒髪赤目とか最悪な色合いですね。くそったれが」
「カラーチェンジしたぼくを見ることで、客観的に己の配色を観察することになって機嫌がすこぶる悪くなった勇者さん」
「説明しなくていいです。はやく石ころになりたい」
「花崗岩ですか? それとも石灰岩? 砂岩もいいですよ」
「え、いや種類はどうでも……。真面目に考えなくていいですよ。来世の私なんて私じゃありませんし、魔王さんには関係のないことですから」
「大理石はどうでしょう。あ、宝石なんかもすてきです」
「聞いてるか、おい」
「ぼくはどんな勇者さんでも仲良くしたいですが、石と人間だとお話できませんよ。やっぱり人間同士が最高の転生先だと思いませんか?」
「思いませ――」
「不老不死でも、来世への憧れはあるんですよ。勇者さんと出会ってからより強くなりましたが、来世で家族になれると決まっているわけではありません」
「そうですね。当然だと思います」
「つまりですよ、ぼくと勇者さんが一緒にいられる今世を大事にするのがイチバンということです。今世ばんざ~~いっ!」
「自然現象でもいいな……。雨とか雲とか、ちょっとオシャレに虹とか」
「自然現象の擬人化の話でもしています?」
「ダイヤモンドダストもいいですね」
「灰色に輝く髪、薄い金色の瞳、透き通るような白い肌を想像します。かわいい!」
「雲海とか」
「白くなめらかな布を身にまとい、穏やかな笑みを浮かべている……。かわいい!」
「生まれ変わったら地震になって世界をぶっ壊したいですね」
「唐突な破壊者が生まれましたね」
「それに、なんでもかんでも擬人化すればいいってもんじゃないですよ」
「台風のような発言ですね」
お読みいただきありがとうございました。
一応言っておくと、勇者さんたちの世界はいわゆる異世界にあたるファンタジーワールドです。きっと転生のひとつやふたつあるかと思われます。
勇者「猫もいいですね。ただ寝て食べて遊ぶだけの生活……」
魔王「今とやっていること変わりませんよ?」
勇者「つまり私は猫です」
魔王「曇りなき眼で言われても」