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93.会話 片づけの話

本日もこんばんは。

片づけるとむしろどこに行ったかわからなくなる現象、なんでしょうね。

片づけなきゃいいんでしょうね。

そんな話です(違います)。

「うわ、なんですかこのゴミの山は」

「ゴミじゃありませんよう。ぼくのポシェットの中身の一部です。ちょっとお片づけをしようと思いまして。一旦広げてみたんです」

「これで一部って……。足の踏み場がありませんよ」

「しばらくベッドの上でごろごろしていてください。すぐに片づけますので」

「ベッドに行くまでの道がないと言っているのです。へたに足を出したら得体の知れないものを踏みそうでいやですし」

「そ、そんなに変なものは持っていませんよう。あ、そこ危ないです!」

「な、なんですか急に」

「ちょっと失礼しますねー。さっきここに、地雷マットを置いたんですよ。隣には簡易爆弾詰め合わせセットも」

「変なものあるじゃないですか」

「魔物退治に使えるかと思いまして」

「それ、私のセリフですよね?」

「これは勇者さんとやろうと思っている花火セット、これも勇者さんとやろうと思っているチョコレートフォンデュの機械、これも勇者さんとやろうと思っている折り紙、これも勇者さ――」

「まるで枕詞のようですね。いちいちつけなくていいですよ」

「枕詞なんてよく知っていますねぇ。お勉強している成果ですか?」

「特に意味のない言葉と聞きました。つまり『勇者とやる』ことに意味はないのです」

「なんてこと言うんですか! それは一説でしょう。ぼくにとっては大いに大いに大いに意味がですね……聞いてます?」

「はやめに片づけてくださいね。眠くなってきました」

「勇者さんも旅行鞄のお片づけしたらどうですか? 一緒にお片づけしましょう」

「お断りします。たいして中身ないので」

「旅をしているわりに軽装備なのもどうかと思いますけど」

「だって、私が必要だと思った物はぜんぶ魔王さんが持っているんですもん。わざわざ私が持っている理由がないんですよ」

「きみの荷物が少ないから心配であれこれ買ってしまうんですよう。仮にも旅人なら相応の旅支度とか、旅の必需品というものをですね」

「このばかでかぬいぐるみは必需品ですか?」

「そ、それは……。必需品です……。おそらく」

「破けたタオルは必需品ですか?」

「包帯に使えると思って……」

「全身大ケガを十回くらい負っても余りそうな包帯と救急道具がこちらにあるのに?」

「あるに越したことはないかと……」

「袋に入れられた袋の山は必需品ですか?」

「ゴミ袋とか、包装用とか、ちょっとした入れ物とかに使えると……」

「これは……なんだ。タグですか? 商品についていたやつ。どう見てもゴミですよね」

「タグにはロゴとか名前とか書いてあるので、思い出になると思いまして……」

「いらないものは捨てて行かないと、ポシェットの中が混沌と化しますよ」

「あはは~……。時すでに遅しかと。てへ」

「前みたいに必要な時に必要な物が出てこなくなります。なかなか捨てられないのなら、とりあえずぜんぶ捨てればいいんですよ」

「極論が過ぎません?」

「まっさらなの状態から必要な物を買いそろえていけばいいのです。効率がいいですよ」

「えと、ナチュラルに勇者さんからもらったものも一度捨てろとおっしゃっています?」

「いらなきゃ捨てれば――うえっ。な、なんですか。なんで泣いているんです」

「ゆうっ、勇者さんからもらったものを捨て、うぐっ、捨てるくらいなら、ぐすっ、ぼくはこの物たちと死んだ方がマシですぅぅぅぅぅ~。うわぁぁぁぁぁぁん!」

「いや、必要なら取っておけばいいんです。な、なにも泣かなくたって……」

「ぐすん、ひぐっ、うぐ、うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん……」

「え、これ、私が悪いんですかね……?」

「勇者さんとの思い出ぇぇぇぇぇぇぇええええんんんん……」

「あー……、あの、私も手伝うので、ほんとうにいらないものだけ捨てましょうか……」

「てつ、えぐっ、手伝ってくれるんですかぁ……? ゆうっ、勇者さんが……?」

「大事なもの、旅に必要なもの、使う可能性が高いもの、たぶんゴミ……といった具合に、分けて整頓するんですよ。そうすれば、捨てていいものが明確になるでしょう?」

「頭いいですねぇ……ぐすん……。これは大事なもの、これはいらない、これはっと」

「ギャン泣きしたわりに判断がはやいですね。ちゃんとわかってるじゃないですか」

「大事なものはまだ少ないので、箱がちょっとさみしいです」

「写真、ワンピース、貝殻のネックレス、キーホルダー……って、これ私があげたものばかりじゃないですか」

「そうですよ。ぼくにとっての大事なものは、すべてきみとの思い出の品ですから。勇者さんとの思い出があれば、他人にとってはいらないものでも、ぼくにとっては宝物です」

「……そうですか。幸せな頭ですね」

「はいっ。幸せです」

「でも、最終処分品パーティーグッズは捨てた方がいいかと。思い出補正があっても」

「うっ……。わ、わかりましたよう……。ですが、最後にお別れ会を――」

「やらんでいい」

お読みいただきありがとうございました。

魔王さんのポシェットは「触らぬ神に祟りなし」です。


勇者「ゴミ袋いくつですか、これ」

魔王「氷山の一角です」

勇者「しばらく片づけしたくないです……」

魔王「しばらく……ということは、時間が経てばやってくれるのでしょうか……おっと、小声小声」

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