83.会話 料理の話その➁
本日もこんばんは。
今回はあの勇者さんが料理をするそうです。こわいですね。
料理の話その①は24話です。読んでいなくても大丈夫です。
「どどどどどどうしたんですか、包丁なんて持ってお野菜持ってまな板の前で」
「動揺の仕方がおもしろいですね。見たまんまですよ。料理をしようかと」
「勇者さんがお料理! 勇者さんがお料理⁉」
「二度も言わんでよろしい。そこまで驚きますか」
「だ、だってサラダを作るのにも毒草を入れるような勇者さんなんですもん。ふだん料理はぼくの担当ですし、興味がないのかと思ってました」
「料理経験はありませんからね。やり方も知りませんし」
「よくその状態で料理しようと思いましたね。何を作るんですか?」
「カレーです。夏野菜とやらが大量にありますので全部ぶち込もうかと」
「カレーなら簡単にできますし、初めて料理する人にはいいかもですね。ぼくがいない時でも困らないよう、今回は手を出さず見守ることにします。がんばってください!」
「それではまず、野菜を切ります」
「うんうん。……ん? ちょっ、ちょっと待ってください。なんですかその持ち方!」
「なにって、野菜を切ると言っているでしょう」
「包丁の持ち方が完全に斬首する持ち方なんですよ。狂気ですよ」
「斬れりゃなんでもいいでしょう」
「漢字違いますよ。いいですか、包丁を持つときはこうして手を――ひゃぁぁあぁ!」
「おっと、手が滑りました」
「ぼくの……ぼくの首を狙っていた……絶対に……」
「すみません。料理に緊張しているようでして」
「真顔で言わないでください。せめてそれっぽく表情を動かしてほしい……」
「剣を握る感覚と違うので力加減がわかりません。骨を断つくらいでいいですか?」
「いいと思いますか?」
「魔王の圧を感じる……。なるほど、正解ということですね。せいやっ!」
「間違っているから圧をかけたんですよ。振り上げるな。危ないでしょう」
「振り上げないと力が入りませんよ。濡れたパンのごとく」
「あちらは専門の方に任せるとして、ぼくは勇者さん専門として指導しなくては……。いいですか、まな板に野菜を置き、包丁を持っていない手で抑え、包丁は――」
「そぉい」
「ちょっと、なにするんですかぁ!」
「ナチュラルに背後を取って来たので然るべき行動を取ったまでです」
「ち、違いますよ。よこしまな感情ではなく、こうした方がわかりやすいと思って」
「よこしまな感情が全くないと?」
「…………」
「こっち向け、おら。刺すぞ?」
「ほ、包丁の使い方間違ってますよ……」
「今回に限っては合っています。……って、この期に及んで振りほどけない。力が強い。この煩悩魔王め」
「えー、ではこのまま料理をお教えいたしますね。まず、手を猫さんにしてください」
「こうですか」
「爪を立てないでくださいねー。そしてぼくの手に刺さないでくださいねー」
「強制的に丸められた……。あ、包丁もびくともしない」
「次に、包丁を手前から奥に向けて動かし切っていきますよー」
「……ワタシ、ナニモシテナイ。ホウチョウ、カッテニウゴク」
「はい、お野菜が切れました。さすが勇者さんです」
「職権乱用を目の当たりにした気分です」
「お野菜が切れたところで、完成したカレーがこちらに」
「はい?」
「……ぼくも今日の夕飯はカレーにしようと思って、仕込んでおいたんですよ」
「やらせの意味じゃないですよね?」
「純粋な仕込みです」
「似合わない形容詞がついていますね」
「ともあれ、勇者さんにお料理はまだ早いと思いますよ。ぼくを刺しちゃうだけならまだしも、勇者さんご自身がケガをしたら大変です」
「魔王さんを刺すのは許容範囲なんですね」
「今後、料理をしたい時は早めに教えてくださいね。ばっちりと対策をしてきっちりとお教えいたします」
「そんなに意気込むものでもありませんけどね。しばらくは結構です。魔王さんの煩悩が煩わしいので」
「ぼ、煩悩なんてありませんよ。ちょっと早いですが、お外で夕飯にしましょう」
「逃げた。やれやれ、慣れないことをするもんじゃないですね。……まあ、試しに包丁を持ってみたら魔王さんの気配がし、咄嗟に野菜を掴んだことがバレなくてよかったです。同じ刃物なのに、剣とは違うことが気になったとか口が裂けても言えませんね」
「勇者さーん、冷めちゃいますよ~?」
「今行きます。あ、サラダがありませんね」
「ほんとですね。すぐ作りま――って、ちょっと」
「この辺の草を……そぉい」
「またワイルドな方法を」
「いやだなぁ、魔王さん。前回とは違いますよ。ちゃんと草刈り鎌を使っています」
「いやそれ包丁。戻してきなさい」
お読みいただきありがとうございました。
料理の話のはずなのに、勇者さんが料理をしていない?その通りです。すみません。その③をご期待ください。
勇者「ドレッシングいります?」
魔王「おい死くなるドレッシングじゃなければいただきます」
勇者「私の愛がこもったドレッシングなのに」
魔王「毒の間違いじゃなくて?」




