表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/717

81.会話 図書館の話

本日もこんばんは。

図書館自体はわりと好きです。行くまでがめんどうです。

静かな雰囲気におそろしく似合わないおふたりのやかましくくだらない会話をどうぞ。

「ここはまたなんとも不思議な場所ですね。本? がいっぱいあります」

「図書館という施設ですよ。勇者さんは初めてみたいですね」

「見渡す限り本だらけですが、本以外の物はなにがあるんですか」

「ありません。図書館には本だけです」

「帰っていいですか?」

「今来たばっかり」

「だって読めませんし。静かなのはいいですが、人間がいるのも落ち着きません」

「絵や写真がたくさん載っている本ならきっと楽しめますよ」

「興味がなくて」

「わあああん! 出口に向かわないでくださいよう。あ、勇者さん。こ、これはどうですか? 毒草図鑑ですよ」

「なんですって? 見せてください。おお……。おいしそうな毒草がいっぱい」

「動物図鑑には肉の部位が生々しく載っていますね。これ、こども泣きません?」

「泣くどころかおいしそうだと喜ぶと思いますが」

「それは先鋭された人だけですよ」

「でもまあ、景色は圧巻ですね。この一冊一冊に数多の情報が収録されているのでしょう? ちょっと想像できません」

「こちらは小説コーナーですね。隙間なく敷き詰められた本にはありとあらゆる物語が広がっているのですよ。……これだけあれば勇者さんの物語を入れてもバレな――」

「何してるんです?」

「ひぎゃあ! い、いえ……。別に何も……」

「その手に持っている本、見せてください」

「な、なんでもないですよ。ただの物語ですよ」

「そうでしょうね。だから言っているんですよ。どんな話なのか気になって」

「よ、読めないっておっしゃっていたのに」

「表紙や挿絵はわかりますからね。それに、魔王さんに読んでもらえばわかりますから」

「……こ、これは勇者さんにはちょっと難しいかと思われます!」

「それは私が決めます。貸してください」

「だっ、だめですぅぅぅ」

「魔王さん、図書館ではお静かに、ですよ。入る時にあなたが言ったことです」

「そ、そうですね。そうでした。では、この本は置いておいて、次に行くとしましょう。れっつごー!」

「静かにの意味わかります? 辞典でも読んだらいかがでしょうか」

「あばばばば……。あ、勇者さん。これ見てください。かぐや姫さんの著書です」

「かぐや姫さんって、例の手短の意味を知らない人生波乱ガールさんですか。あのひと作家だったんですか?」

「はい。かなりの売れっ子さんですよ。特にこの『同時に貴族三人から求婚された件~私、もしかしてモテモテかも⁉~』は五百万部を達成したとかなんとか」

「数字の凄さはわかりませんが、私と馬が合わなさそうなのはわかりました。ていうか、わざわざ魔王さんが書き起こさなくても作家なら自分で書けばよかったのでは?」

「自分の話を他人が書くことで新たな視点を得たかったそうですよ」

「はあ。よくわかりません。ともあれ、すごいとやばいは紙一重ですね」

「今も月で筆を進めていることでしょう。来月新刊が出るって言ってましたし」

「読めない私は次のコーナーに。うーん、なんですかこの本。数字がたくさん……」

「勉強に関する本ですね。教科書だったり、参考書だったり。勉学をする人はこうした本を読んで知識を身につけていくんですよ。分野に特化した専門書もあります」

「『魔王を倒す十の方法』とかないんですか?」

「あったらぼくが燃やします」

「『神様をぶん殴る百の方法』は?」

「ぼくが書きましょう」

「文字が読めなくても理解できるようにしてくださいね」

「あっさりと難題を突き付けますね。ぼくの絵心をご存じでしょうに」

「ああ、呪いの絵でしたっけ」

「ま、真面目に描いたんですけどぉ……って、あの、さっきから何をしているんです?」

「気に入った背表紙を引っ張り出して後から来る魔王さんに嫌がらせを」

「直すのぼくですからね。やめてください?」

「こーんなに本がいっぱいあってどうするんでしょうか。焚き火でもするんですか?」

「本は記録ですよ。丁寧に扱えば何年も何百年も保存できます。いつか読む人に向けた存在証明とも言えるでしょう」

「だとしても、こんな数は読めませんよ。一日で何冊読めるのか知りませんけど」

「限られた時間の中で出会う本を大切にするのですよ。読んでよかったと思えるような本に出会えたら幸せですね」

「ちょっといいこと言っている風ですが、魔王さんは読もうと思えば全部読めるでしょう。あなたの時間は無限なんですから」

「さすがに飽きますよー。読書ってわりと体力がいりますからねぇ。肩もこりますし」

「読めない私に怖いものなし」

「読めるようになれば世界が広がりますよ」

「広げたくないです。狭くていいです。……あの、どこに引っ張っていくんですか」

「図書館には会話可能のフリースペースがあるんですよ。主に勉強用の」

「え、あの、ちょっと……。私は勉強とかいらな――だから力が強い!」

お読みいただきありがとうございました。

このあと勇者さんは二時間ほど字のお勉強をし――させられたとか。


勇者「勉強……いやだ……」

魔王「勇者さん、この文字はなんと読みますか?」

勇者「鬼畜」

魔王「違います」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ