80.会話 誕生日の話
本日もこんばんは。
自分の誕生日より推しの誕生日を盛大に祝うそこのあなたに読んでほしいSSです。
推しの誕生日が公式発表されていない悲しき天目による誕生日SS、どうぞご覧ください。
「勇者さん、お誕生日を教えてください」
「どうしたんですか。部屋に入るなり突然土下座して意図のわからない質問なんて」
「お誕生日ですよ。一年に一度の特別な日! その人が生れ落ちた記念すべき日! お祝いにごちそう食べてケーキ食べてプレゼントを渡して楽しく過ごす日です」
「ごちそう? ケーキ? 詳しく」
「そこから? あ、あのですね、つまり、ぼくは勇者さんのお誕生日を知って盛大にお祝いしたいと思ったのですよ」
「生まれた日ですか。魔王さんなら察していそうですが、私は自分の誕生日を知りません。誕生日を祝ったことも自覚したこともないので。ですので、教えたくても教えられません」
「知ってました。というわけで、好きな日をお誕生日ということにしませんか?」
「私が言うのもなんですけど、そんなテキトーでいいんですか?」
「知らないだけで絶対にお誕生日はあるんです。つまり、テキトーに決めたその日がお誕生日だという可能性もゼロではありません」
「理屈は合っている……ような。ちなみになんですけど、魔王さんの誕生日はいつなんですか? 参考までに教えていただけたら」
「ぼくですか? わかりません!」
「うわあ、元気な返事。ご自分の誕生日も知らないのに、他人の誕生日を祝おうとか」
「ぼくより勇者さんのお誕生日の方が大事です」
「当然のように言わないでください。こわいです」
「お祝いしたい~! プレゼント渡したい~!」
「駄々っ子ですね。勝手に決めて勝手に祝ったらいいじゃないですか。ごちそうなら喜んで食べますよ」
「今日は勇者さんのお誕生日(セルフ設定)なのでごちそうとプレゼントをご用意しましたって言われたら引くでしょう?」
「引かれる自覚はあるんですね。引きはしますが、以前よりは魔王さん耐性がついているのでだいじょうぶですよ」
「どういう意味ですか、それ」
「引いても後ずさりする程度に済ませます」
「物理的に引いていますね。まあ話を戻しまして、こうして一緒に旅をしているのですから、生まれてきた日をお祝いしたいと思うのは自然です。良い思い出がないのなら、なおさら楽しい思い出で上書きしたいと思いませんか?」
「さっさと死にたいと考えている人の誕生日を祝うのもおかしな話ですけどね」
「口うるさく『生まれてきてくれてありがとう』と言えば死ぬ気も失せるかも、と画策しているのですが、どうでしょう?」
「たぶん無駄ですよ」
「残念です。それなら、勇者さんが生きている間に目一杯お誕生日を祝わないといけませんね」
「結局そこに行きつくんですね」
「そうなります。とは言え、突然言われても困ってしまうと思ったので、こちらで候補日をいくつか挙げてみますね。まずは勇者さんの日とも言える『勇者の日』です。魔王調べでは二つありまして、まずは四月九日。そして十一月十一日です。どちらも勇者さんの意味での勇者ではありませんが、言葉は同じということで選出しました」
「脳が混乱してきました」
「続いて勇者さんが以前好きだと言っていたトリカブトです。こちらも二つ、七月十九日と七月二十五日になります。いわゆる誕生花というやつですね」
「トリカブトが誕生花だなんて羨ましい」
「最後に八月二十九日。何の日かわかりますか?」
「さあ……。この流れでいくと私の好きなものでしょうか。焼肉?」
「さすが! 正解です。語呂合わせで焼肉になるそうです~。どうですか? 心に残る日はありましたか?」
「そうですねぇ。そもそも興味がないのでなんとも……」
「ごちそうが待っているのに?」
「誕生日じゃなくても食べようと思えば食べられるので」
「お誕生日に食べることに意味があるんですよ」
「厄介ですね。そういう魔王さんはご自分で決めたんですか? 魔王の日とか」
「それが、魔王調べでは見つからなくてですね。ぼくは甘いものが好きなので、三月十二日のスイーツの日とかどうかな~と思いまして」
「お好きにどうぞとしか」
「今日の勇者さんはノリが良くありませんね。ごちそうが絡んでいるのに……。もしかして体調が悪いのですか?」
「あ、いえ。ごめんなさい、機嫌悪そうに見えましたか。そんなつもりはなかったんですが、気分を害したのなら謝罪します」
「い、いえこちらこそ、ちょっとデリケートな話題だったかもしれないのにずけずけと……」
「魔王さんは魔王なんですから相手を気にする必要ないと思いますよ。土足で人の心や過去に踏み入って荒らしまくるくらいしないと」
「なんですかその悪行は! 人の心がないんですか!」
「魔王さんは人間ではない定期」
「それはそうですけど、人間でなくてもお誕生日を祝いたいという感情はありますからね。気に入った日がないなら、くじ引きとかします?」
「三百六十一本のくじを作る労力はありませんよ」
「だいじょうぶですよ。すでに完成品がこちらに」
「まじか。せっかく作っていただいたので一応引きますね」
「引いていませんよね? 気持ちの方」
「引きました。七月二十三日です」
「トリカブトチャンス失敗ですね」
「狙っていたわけではないですけどね。七月って夏ですよね。私、暑いのはちょっと」
「でしたら、十二月や一月でしょうか」
「この世にない日がいいです。十三月五十一日とか」
「また無茶を言う……。困りましたね。これでは決まりません」
「決めなくていいのでは?」
「つまり、毎日がお誕生日ということですか?」
「ええ……。ポジティブ思考すぎる」
「ですが、毎日ごちそうだとぼくのお財布が悲鳴をあげるのでやっぱり一日に決めてほしいです」
「同じことをぐるぐると。そろそろ飽きてきたのでテキトーに決めてしまいましょう」
「飽きてきたって言った。ぼくは聞きましたよ。飽きてきたって」
「えーっと、あの日付はどこなんだか……。ああ、ありましたありました」
「何をお探しで?」
「五月五日です。これ、魔王さんの誕生日にいかがですか?」
「えと、理由を訊いても?」
「こどもの日」
「やっぱり。ぼくはこどもじゃありませんよう」
「では、ロリババアに敬意を表して十月十一日で」
「いろんな方面から怒られますよ。そ、それならぼくも対抗して、勇者さんのお誕生日は十月十日にしちゃいます」
「なんの日なんですか」
「萌えの日で――痛ぁっ!」
「魔王さんこそ全人類と世界から怒られればいいです。誰も怒らないなら勇者の使命として私が鉄槌を下します」
「お説教と称してぼくを殺しに来ていますね?」
「はあ、今日はいつも以上にまとまりのない会話ですねぇ。まさか誕生日でこんなにぐだぐだできるとは」
「まとまりがないのはいつものような。ですが、このまま続けても勇者さんの興味が別のものに移ってしまいますからね。現に勇者さんの体勢がひどいことに……」
「お腹すいてきました……。もう今日が誕生日でいいのでごちそう食べましょうよ」
「テキトーですねぇ。こういう時、ぼくたち以外に案を出す人がいるといいんですけど」
「私たち以外の……あ。私の誕生日を知っているであろう人、というか存在をひとつだけ知っていますよ」
「ほお、それは誰――って、ぼくも思い当たる節が……。いやな節が……」
「訊いてみます? 神様に」
「ああ~……。やっぱりあれですか。うううう……いやだ……。で、ですが勇者さんのお誕生日ぃぃ……知りた……い……!」
「死にかけのようですね。私の誕生日でワンチャン殺れるのでは」
「意味の分からない死因ですね」
「お、いいこと思いつきましたよ。私の誕生日を魔王さんの命日にするんです。一度に二つの記念をゲットできてお得ですよ」
「ナチュラルに死を誘っているぅ」
「思ったんですけど、今すぐに決めなくてもいいんじゃないですか? これからも旅をしていくんですから、何かとてもいいことがあった日を誕生日にするとか。いつの日か突然、『あー、今日が誕生日かも』と思う日が来るかもしれませんよ」
「曖昧ですねぇ」
「曖昧くらいがちょうどいいですよ。私たちの旅ってそういうものでしょう?」
「そうですね。ですが、一回でも多く勇者さんのお誕生日をお祝いしたいので、なるべく早く決めてくださいね」
「今日は一段と押しが強いですね。頭の片隅の下くらいに覚えておきます」
「かなり隅っこですねぇ。そういえば、とある物語には『なんでもない日』をお祝いする場面があるそうですよ。つまり、毎日がお誕生日というのもあながち間違いじゃないかもしれませんね」
「なるほど。では、誕生日が決定するまで毎日のなんでもなさを祝っていきましょう。ひとまずごちそうにしませんか?」
「食べたいだけですよね」
「あまりにおいしいごちそうだったら、感動して今日を誕生日にするかもしれませんよ」
「三食ごちそうにする気ですか」
「いいですね。私はどんとこいですよ。とりあえず、アレ言っておきます?」
「アレ? あ、アレですか。ですが、このぐだぐだ具合で……」
「いいんですよ。私、初めて言いますよ。では、ハッピーバーむぐぅっ」
「記念すべき一回目はなんでもなくない日にしましょう。ねっ⁉」
「押しが強い……」
お読みいただきありがとうございました。
ふたりの誕生日を祝いたいという物好きな方がいらっしゃったら教えてください。もしかしたら決めるかもです。
勇者「ごちそうが食べたくなったら誕生日と言えばいいですか?」
魔王「いいと思いますか?」
勇者「もういつでもいいじゃないですか」
魔王「公式からの情報に価値があるんです!」




