8.会話 神様からの贈り物の話
本日もこんばんは。
神様からの贈り物の話です。
そんな素敵な話じゃないです。
「勇者さんって“勇者”として見られた経験ってあるんですか?」
「この世の終わりみたいな質問しますね」
「普段の勇者さんを見るに、そろそろ魔王と呼ばれてもよいのではないかと思い始めました」
「魔王さんが言いますか、それ」
「実際、どうなんですか?」
「ご存じの通り、魔物とか魔族とか、そっちサイドに見られることは多いですね。私のことを勇者と言うのは、ううん……」
「どうして首をひねるんですか」
「いえ、思い当たるのがひとりしかいなくて……」
「それは誰――ハッ⁉」
「その驚き方、面白いですね。録画していいですか」
「やめてください。一応訊きますが、そのひとりってもしや」
「魔王さんですね」
「やっぱり。でも待ってください。きみを勇者にしたあれはどうなんです? 存在的にカウント外ですか?」
「神様ですか。いえ、単純に勇者だと思われていないのでカウントしていません」
「選んだ当人が、ですか」
「思ってたんと違うって愚痴こぼしてたのを聞きました」
「自分で選んどいて……」
「魔王のくせにめちゃくちゃ正論でうれしいです。やーい、聞いてるか神様」
「そういうとこですね」
「死んでも直らない性格です」
「神様にすらそんな風に思われて、勇者業やっていけるんですか?」
「選んでしまった手前、神様も打開策を考えてくれましたよ」
「他の人にすれば早いのでは……。いえ、打開策とは?」
「これです」
「ネームプレートですか」
「よく見てください」
「なになに……。『勇者』?」
「これを付けていれば一目で私が勇者だとわかる優れモノです。漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットの四種類あります」
「配慮がズレていますね」
「これを授けようと仰々しい声とともに空から放り投げられました」
「扱い雑ですね」
「私はそれまでの存在ということです」
「唐突な自虐はぼく反応しづらいです」
「すみません。でもせっかくのご厚意ですし、こうして大切に仕舞っていますよ」
「付けなきゃ意味ないですよね?」
「いやですよ。こんなちゃっちいやつ」
「神様から賜ったモノをそんなふうに言うと、バチが当たりませんか?」
「頼んでもいないモノを押し付けられるのって迷惑なんですよ。老婆心ってやつです」
「身も蓋もないですね」
「厚意があるなら勇者を辞めさせてほしいです」
「一億パーセントの本音ですね」
「私がネームプレートを大事に大事にしていたら、神様が喜んで新しいプレゼントをくれたんです」
「言い方に棘がありますね。ちなみにそれは?」
「これです」
「ちょっと待ってください。いま、どこから出しました?」
「一か月前から練習していた手品をようやく披露することができました。勇者、感激です」
「ぼくは驚愕しています。まさか口からとは。して、それは?」
「肩にかけて使うそうです。効果音はバァァァァァンです」
「なになに……。『今代の勇者』?」
「まるでパーティーをやっているかのような気分になれます」
「感情のこもっていない顔と声で言うのやめてください」
「神様曰く、これをかけていれば勇者になれること間違いなしだそうです」
「すでに勇者ですよね?」
「こんな眼鏡ももらいました」
「ダサ……。いえ、なんというか、個性的な眼鏡ですね」
「超巨大な星型に視界が遮られて前が見えません。うわっ!」
「だいじょうぶですか? そんな眼鏡、捨てておしまいなさい」
「いたた……。膝をすりむきました。神様のせいです」
「擁護できません、神様」
「血が出てきました。しかも包帯を切らしてしまったようです」
「それはいけませんね。ぼく、買ってきますよ」
「いえ、問題ありません」
「というと?」
「ちょうどいいモノが私の肩に」
お読みいただきありがとうございました。
パーティーグッズは神様が百均で買いました。
文字は神様の手書きです。
勇者「世の人間どもにこのガラクタ売り出しましょうよ」
魔王「勇者は勇者さんおひとりでしょう?」
勇者「ごっこ遊び用ですよ。まあ、ガチの私たちが一番ごっこっぽいんですけど」
魔王「は、反論できませんねぇ……」