74.会話 魔王のポシェットの話
本日もこんばんは。
魔王さんの数少ない荷物の話です。この話を書く上で色々調べましたが、知らぬ間にポシェットが進化していて感動しました。
「ずっと気になってたんですけど、そのポシェットはどういう構造なんですか」
「どう……と言われましても、ふつうのポシェットですよ。かわいいでしょう?」
「笑顔を向けられましても、今しがたポシェットからバーベキューセットが出てきたのを目の当たりにしてしまったので簡単に頷けません。質量保存の法則ってご存じですか」
「難しいことをおっしゃいますねぇ。よいしょっと」
「椅子も出てきた……。まあ、魔王さんは魔王なので、深く考えないことにします」
「実はぼく、某猫型ロボットに憧れた時代がありまして」
「アウトにならないよう発言してくださいね」
「わかってますよ。それでですね、彼が持っているポケットが便利だなぁと思ったわけです。同じものだとアウトですし、それならかわいいものにしようと手作りしました」
「手作りなんですね、それ」
「よく見ると猫耳がついているんですよ。ワンポイントおしゃれです」
「ポシェットのせいか、ちょっと幼く見えますよね。その点はどうお考えですか」
「ぼくのかわいさをより引き出すナイスな点だと思っています!」
「満面の笑みでのご回答ありがとうございます。素直な魔王さんに私からひとつアドバイスを。そういうのはご自分で言うことではありませんよ」
「本心ですもん」
「アウトポイントが着実に貯まっていきますね。そのうち景品がもらえますよ」
「わあ~……、うれしくないです」
「それはそうと、中がどうなっているのか気になります。自然界にたてつくポシェットですからね。さすがに興味が湧きます」
「これだけ旅をしてきたのに質問するのが遅くないですか?」
「これまでは見て見ぬふりをしてきましたが、さすがに看過できなくなりまして」
「ですが、そんなにおかしなものじゃないですよ。ちょっといろんなものが入るだけです。旅をするうえで必要なものは多いですからね。入って困るものではありませんし」
「大きな旅行鞄を持っているのが馬鹿らしくなるほど入っていますよね。ちなみになんですが、生き物も可能ですか?」
「まさかポシェットの中に入って移動しようとか考えていませんよね?」
「よくお分かりで」
「運動しないと体に悪いですよ。それに、生き物はおすすめしません」
「なにか問題が?」
「昔、興味本位で魔族がふたり、勝手に入ったことがあるんです」
「ほう。それで?」
「しばらく経ったあと、ひとり出てきました。ばらばらになって」
「ばらばら」
「もうひとりは、いつまで経っても出てきませんでした。今も」
「今も」
「ですので、入るのはやめた方がいいですよ。ばらばらになっちゃいますから」
「そのようですね。ご忠告感謝します。ちなみに、死んでいればだいじょうぶですか?」
「食べ物はよく入れているので平気かと。ほら」
「生肉を取り出すのやめてもらっていいですか。冷蔵機能まであるんですか、それ」
「単純に魔法をかけているだけですよ。そこまで便利なものがあるならほしいです」
「魔王さんなら作れそうですけどね。あ、お菓子あります? 小腹がすきました」
「どうぞ。キャンディーとクッキーとチョコレートとドーナツとアイスと――」
「鎮まれ鎮まれ。そんなに出さなくていいです」
「ポシェットの力を見せる時かと思いまして」
「どうせなら魔王としての力を見せてほしいです。忘れそうになるので」
「つまり、勇者さん用のポシェットを作れということですね」
「百点満点で違います」
「そんな。ぼ、ぼくお裁縫得意ですよ。要望があればなんなりと言ってください」
「ポシェットはいらないので旅行鞄の中を四次元空間にしてほしいです」
「ぼくはその旅行鞄好きですよ? 旅人って感じがします」
「ポシェットはおつかいって感じがします。旅をなめているようです」
「そんなことはありません。生活必需品からキャンプ用品、食べ物、本、お人形、パーティーグッズ、最終処分品など盛りだくさんです」
「ゴミは捨てた方がいいですよ」
「いつか使うかもしれないじゃないですかぁ!」
「物が捨てられないタイプですか。モテませんよ」
「置く場所がないならまだしも、ポシェットに入るなら問題ないですよう」
「構造は知りませんけど、必要な時に取り出せなかったら意味ないですよ」
「だいじょうぶです! 思い浮かべて手を入れれば、だいたい出てきますから」
「あ、飲み物ありますか? ドーナツ食べたら喉が渇きました」
「はいはい、ただいま~。えーっと、お水お水……。あれ~? どこですかねぇ」
「出てこないんですか。やっぱりゴミが多いんですよ」
「用途が限られている物と言ってください。待ってくださいね、すぐ見つけますから」
「小さいポシェットをごそごそと、傍から見たらおかしな光景です」
「あ、見つけましたよ! はい、お水で――へぁ」
「……腕ですね、これ」
「…………そっ」
「仕舞うな仕舞うな」
「はい、次こそお水ですよ~」
「受け取りたくない……」
お読みいただきありがとうございました。
出てきたアレが結局どうなったのか。それは魔王さんのみが知る。
勇者「こんなに水を飲みたくないと思ったのは初めてです」
魔王「ご安心を。新品未開封ですよ」
勇者「そういう問題じゃない」
魔王「て、てへぺろ」




