734.会話 ジャンプの話
本日もこんばんは。
2025年も最後までくだらないSSです。
「年越しの瞬間にジャンプをすると、次の瞬間は年明けなのですよ」
「急に立ち上がったと思ったら、なんですか急に」
「年越しの世界から年明けの世界にジャンプするのです」
「そうですか」
「一緒にやりましょう、勇者さん!」
「おひとりでどうぞ」
「そう言わずに。世界の境界線を飛び越えるすてきな瞬間を共に!」
「夜なのにお元気ですね」
「ぼくは魔王ですからね。夜の方が力がえいやーっておりゃーっとなるのです」
「あ、質問いいですか」
「もちろんです」
「年越しの世界でジャンプをしたまま、どこにも着地しないとどうなるのですか?」
「質問を質問で返して申し訳ないのですが、どういう意味ですか」
「着地しない限り、世界のどこにも存在しないことになりませんか」
「あ、えーっと、そうかもしれませんね……?」
「つまり、謎空間に浮遊し、来年を拒むことができるのです」
「勇者さん、浮遊できるんですか」
「できないので、魔王さんにこう、えいっと持ってもらってね」
「こどもの飛行機ごっこじゃないんですから」
「これで、私はどこの世界にも存在しないイレギュラーとなるのです」
「どこにもいないなら、勇者さんはどうなるのですか」
「なんか不思議なあれになる」
「語彙力が全然ない」
「昼寝の神にでもなろうかな」
「ぼくと対をなす勇者がいないと、世界がおかしくなっちゃいますよ」
「もう既にだいぶ変ですよ」
「それはそう」
「魔王さんも一緒にフライアウェイ」
「ぼくまでいなくなったら、世界は完全にどうかしてしまいます」
「魔王さんがそれを言うのですか」
「この世界にはたくさんの人間が生き、これからも生まれていくのです。そして、かつて多くの勇者さんがいて、きみがいる世界ですから、大切にしたいのですよ」
「ご立派ですね」
「勇者さんがテキトーすぎるだけです」
「年越しの瞬間にジャンプしようと言う魔王のくせに」
「楽しいことはやってなんぼですから」
「世界のどこかの宿の一室で、勇者と魔王が年越しジャンプって」
「動画も回しましょうか?」
「撮ってどうするんですか」
「ふとした時に見返して、こんなこともありましたねぇと話すのです」
「ジャンプした途端、画面から消える一人の少女。彼女の行方は未だにわかっていない……」
「ホラー映画を始めないでください」
「私をさがさないで」
「小説タイトル風勇者さん」
「引きこもっていたいので、見つけないでください」
「明日は雪合戦しましょうね、勇者さん!」
「えー、昼寝一択です」
「お昼寝して、雪合戦して、お昼寝して、雪合戦すればいいのです」
「もうちょっと遊びのレパートリーを増やしてください」
「雪の中身はなんだろな」
「魔王さんの右腕」
「なんでそういうことを」
「左腕がいいですか?」
「そうじゃなくてですね。もっと穏やかな会話で年越しを」
「勇者と魔王がいるのに、穏やかになるわけすやぁ……」
「見事な入眠。ぼくでなきゃ見逃していましたよ」
「もうすぐ零時です。はやく寝ましょう」
「せめてジャンプだけでも」
「気持ちだけ飛んでおきます」
「せーのってやりたいんですよう」
「わかったから引っ張らないでください」
「ほらほら勇者さん、元気よく。いきますよ。さん、にっ、いち、せーのっ!」
「ジャーンプ……ああああぁ」
「だ、だいじょうぶですか、勇者さん」
「眠いあまり、足がもつれました。ごめんなさい」
「あ、いえいえ。ぼくは年明け早々、合法的に勇者さんとハグができてうれし――」
「夜なので静かにしてください」
「すみません、つい」
「とはいえ、これで私たちも年明け世界の住人です。残念ですね」
「仕方ないので、今年もこの世界で生きていきましょうか」
「そうですね。ということで、今年もよろしくお願いします、魔王さん」
「こちらこそです、勇者さん」
「…………あの?」
「はい、なんでしょう」
「年明けの挨拶とやらも済んだので、離していただけると助かります」
「まあまあ、そう言わずに」
「離してください」
「もうちょっとだけ」
「離せ」
「わあん、年明け勇者さんが冷たいです」
「私はいつもこうですよ」
「心機一転、少しデレたりしちゃったりなんかして?」
「やかましいですね」
「ぼくはいつでも歓迎ですよ」
「私はいつでも遠慮します」
「世界の境界線を越えた者同士、手を取り合って身を寄せ合ってね、ほら」
「なにが『ね、ほら』ですか。嫌です」
「共にジャンプした仲じゃないですか」
「かなり強引でしたけど」
「色々言いながらも受け入れてくれる勇者さんもすてきです」
「色々言いながらも自分の欲には素直な魔王さんはだいぶ厄介ですよ」
「えっ、なんですか急に。ぼくのこと褒めちゃって」
「まったくもう、ほんとに元気なひとですね」
「すごく褒めてくれますね。うれしいです」
「魔王さんはずっとこんな感じですね」
「何年経っても変わりません」
「来年も?」
「はい。再来年も、その先もずっと」
「……え、厄介すぎるな」
「今の、ちょっとロマンチックなはずだったんですけどね」
お読みいただきありがとうございました。
ロマンチックのロの字もない。
勇者「年明けジャンプで思ったのですが」
魔王「なんでしょう?」
勇者「あけましておめでトウッ!ってことですか?」
魔王「勇者さんがかなり眠いってことはわかりました」
みなさま、2025年も勇者さんたちの物語をお読みいただきありがとうございました。
来年も相変わらずの内容で進んでいきますので、お付き合いいただければ幸いです。
よいお年をお迎えくださいませ。




