733.会話 凍った水道の話
本日もこんばんは。
凍った水道の絶望感はなかなか。
「日々、魔なるものと戦う勇者は危険と隣り合わせ。心が休まるのはわずかな時だけ。貴重な休息の時間は、疲れた体と心を労わる大事なもの。しかし、今日はピンチが訪れていた……」
「ナレーションありがとうございます、魔王さん。そんなことしているなら手伝え」
「すみません、つい出来心で」
「この凍った外付きの水道をどうにかしないと、私は干からびたミイラになりますよ」
「それならだいじょうぶです。今は冬ですので、ミイラになるのはだいぶ先ですよ!」
「ありがとうございます。うるさいです」
「すみません、つい」
「遭難者用に小屋があったのはいいものの、唯一の生命線である水道が凍っているとは」
「寒いですからね。極寒ですからね。超強力寒波到来ですからね」
「三回も言わんでいいです」
「しかしながら、見事に凍っています。どうしましょうか」
「魔王さんの体温で融かすしかなさそうです」
「えっ、ぼくも寒さは感じる……」
「私が干からびはしないミイラになってもいいんですか」
「あ、ちゃんと訂正している」
「あと、普通に喉が渇きました。お水が飲みたいです」
「任せてください。ぼくの魔王ぱぅわぁーで水道を破壊しますから」
「壊すな」
「次の町まで行けたらいいのですが、この吹雪の中を儚い命の勇者さんは厳しいです」
「仕方ありません。水は我慢して、吹雪が止むまで小屋の中で待機しましょう」
「そうしましょうか。手に持っている大剣をおろしてね」
「なんのことですか?」
「めちゃくちゃ普通に水道を破壊しようとしているので驚きました」
「違います。私は水道付近の地盤を破壊しようと思って」
「ぼくより悪化していませんか」
「水も飲めて、お風呂にもなって、一石二鳥ですよ」
「かなり喉が渇いていることはわかりました」
「そうだ。火薬を使って温めればいいんです」
「勇者さん、ぼくの目にはダイナマイトが見えるのですが」
「カチコチの水道が相手なのです。火力は強い方がいいでしょう」
「爆発なんですよね、それ」
「即効性があります」
「水道と地盤もろとも吹き飛びますよ」
「湧き水との遭遇ってことですか」
「勇者さんの未知すぎる思考回路によってね」
「すばらしいですね。いざ、着火を」
「落ち着いてください。ぼくたちも巻き込まれますよ」
「寒いのでちょうどいいかと」
「勇者さんの選択肢がすべてダイナミックになってしまっている」
「魔王さんも寒いでしょう?」
「さりげなくマッチを渡さないでください」
「これであなたも着火マン」
「今日の勇者さん、なんかやかましいですね?」
「はやくあたたかいスープを飲んで、あたたかい布団に入って、あたたかいトカゲと遊んで、あたたかい雪だるまと踊って、あたたかいアホ毛を引っこ抜きたいです」
「これはいけない、もう病院レベルです」
「私、いまなんて言いました?」
「これであなたも着火マン」
「そのあとです」
「魔王さんとひとつのベッドで身体を寄せ合って眠りたいとおっしゃいました」
「私の発言が捏造されていく」
「寒さで凍えるふたつの身体。寄せ合うことで伝わる体温でまどろみに落ち、吹雪をもろともせず優しい夢の中へ。ぬくもりを感じたまま閉じたまぶたは、暗い夜に溶けていく……」
「知らない物語ですね」
「これから始まる物語のナレーションです」
「始まってたまるか」
「怒ることで身体をあたためる技ですよ」
「呆れているだけです」
「呆れて水道が使えればいいんですけどねぇ」
「相変わらずきれいな固まり具合です。何をしても解決する気配はありません。やれやれ……、水だけなら諦めたのに、なんでこんなあほなことを……」
「小屋に入る鍵を水道の口に差し込んじゃったんですかね。あと、今あほって言いましたね」
「寒くておかしくなっちゃったんでしょうか」
「ああ、勇者さんみたいに?」
「そうですね。私みたいに。……って、やかましいわ」
お読みいただきありがとうございました。
わかりにくくてすみません。この水道は家屋の外についているタイプのものです。
勇者「というか、干からびる前に凍死ですよ」
魔王「ぼくと身を寄せ合って夜を過ごしましょう!」
勇者「正直、ツッコんでいる場合ではない寒さです」
魔王「まじで命の危機を感じますね」




