728.会話 床暖房の話
本日もこんばんは。
我が家も床暖房にしたいです。
「勇者さん、また人間を辞めたんですか」
「床暖房……、おそろしい技術……」
「これでもかとだらけていますね」
「動こうとは思っていますよ。行動に移らないだけで」
「宿題をやらないこどもの言い分みたいですね」
「宿題なら床でもできます」
「ダイナミックすぎませんか」
「私には宿題がないのでセーフ」
「それ以上にとんでもない恰好ですもんね」
「とても人様には見せられません」
「自覚はあるんですか」
「もちろんです。私にも羞恥心や尊厳はありますよ」
「ぼくが見ていますが、それは」
「だって、魔王さんは人間じゃないですし」
「似たようなものだと思っていますが」
「人型で喋って服を着て食事をしますもんね」
「そして、人間への愛はとてもびっぐ……。この世界を覆っちゃったりなんかして」
「でも、床暖房の方があったかいですよ」
「ぼく、床暖房に負けるんですか」
「魔王の力なんて、現代文明の前ではてってけてーのぽっぽらぺーですよ」
「聞いたことのない表現」
「ブランケットをチラつかせていますが、私は動きませんからね」
「電源オフ」
「……………………………………………………魔王さん」
「とんでもない低音ボイスじゃないですか」
「……………………………………………………消さないでください」
「すごいですよ。声だけで魔物を消す威力を感じます」
「三秒以内につけないと、魔王さんの衣服を剥ぎ取り、頭から氷をかけて外に放り出します」
「無慈悲ですね」
「私から床暖房を奪った恨みです」
「電源オン」
「魔王さん、今日は寒いですね。あとでココアでも飲みましょうか。ブランケットもどうぞ」
「床暖房で人格が変わる勇者さん」
「気持ちが穏やかになり、体調が回復し、空は晴れ、世界は平和になります」
「ものすごい効果じゃないですか」
「勇者は人間を辞め、魔なるものはぬくもりで浄化され、花は咲き、動物が駆け回り、太陽は輝き、雲は流れ、布団はふかふかですが、魔王のことは知りません」
「ぼくへの興味が薄すぎる」
「その辺で寝てればいいです」
「飼い主のベッドを奪って寝る猫みたいですね」
「縦横五十センチ以内から出ないでください」
「体育座りをしてギリギリ」
「魔王さんがいる部分だけ床暖房ではない」
「あんまりです」
「人間に合わせているだけの人外が何を言うのやら」
「合わせ過ぎて戻し方がわからくてですね」
「なんで寄ってくるんですか」
「普通に寒いんです。ちゃんと厚着しないと凍えます」
「凍死とかするんですか?」
「死ぬほど寒いですが、死にはしません」
「それはそれでしんどいですね」
「不老不死には不老不死なりの苦労があるのですよ」
「軽率に『不老不死になりた~い』とか言っている人は考えた方がよさそうです」
「冬になると魔王城も寒くて寒くて」
「冷暖房設備の魔王城もおかしな感じですけど」
「勇者さんを待ちながら、椅子に座りながら凍える日々もありました」
「弱そう……」
「耐えきれなくなり、全フロアに床暖房を導入済みです」
「結構な金額だったんじゃないですか」
「生活の質のためには、金銭は惜しみませんよ」
「そういうわりには、全然魔王城に帰りませんね」
「ぼくには勇者さんという最高のぬくもりがあ――」
「縦横五十センチ」
「もう少し広げていただけると助かります」
「わかりました。では縦横五十三センチで」
「確かに少しですけども」
お読みいただきありがとうございました。
住み心地抜群の魔王城。
勇者「今後の宿はすべて冷暖房設備のところがいいです」
魔王「そううまくはいきませんよ」
勇者「じゃあ、せめて屋根がほしいです」
魔王「そこまで下げなくても」




