722.会話 また砂糖と塩を間違えた話
本日もこんばんは。
初回の間違いSSは第63話です。遥か昔すぎる。
「どうしました、タンスの角に小指が当たりそうになり避けたら顔面強打したような顔して」
「被害が悪化しているじゃないですか」
「だいぶ変な顔ですよ。写真に撮りたいくらいです」
「勇者さんがぼくの写真を? ぜひぜひ」
「あ、戻った。じゃあいいや」
「切ないなぁ」
「魔王さんが変な顔をしていた理由を訊いてあげてもいいですよ」
「謎の上から目線ですが、お答えしましょう。砂糖と塩を間違えて使ってしまったのです」
「おばかさんですねぇ」
「アッ、今の勇者さんの写真撮りたい!」
「それで、何を作ったんですか?」
「見事なスルー。そんなきみもすてきです。今日はすてきな勇者さんにステーキを」
「わあい」
「作ったわけではなくて」
「違うんかい」
「スコーンを作ったんです」
「あれ、以前もスコーンを作った時も砂糖と塩を間違えていましたよね」
「勇者さんがぶちまけ、入れ間違えたことでぼくまで巻き込まれた事件ですね」
「……そんなこともありましたね」
「あの時は大変でしたが、勇者さんがおいしく食べてくれました」
「しょっぱいものだと思ったからでしょうか」
「あの後、ちゃんと甘いものも作ったでしょう。忘れないでください」
「そうだっけなぁ。でも、今回は私のせいではありませんよ」
「そうなのです。すべてはぼくのせいです」
「お間抜けさんですねぇ」
「次、それ言ったら写真撮りますからね」
「新手の脅しやめてください」
「今回もまた、スコーンで間違えてしまうなんて、一体なぜでしょうか」
「スコーンの呪いかもしれませんね」
「いけませんよ、勇者さん。はやく解いてください」
「私じゃありませんよ」
「容器の中身を入れ替える呪いを使ったのでしょう」
「地味な嫌がらせですね」
「せめて、入れ替えるならみりんと料理酒にしてください」
「あんまりダメージないやつかも」
「それでも困ります。次にやったら『めっ』ですからね」
「いつの間にか、私が犯人になっていますが、違いますよ」
「では、一体誰が」
「さっき自分で『すべてぼくのせい』って」
「ぼくの知らない間に、何者かが忍び込んで入れ替えたのかもしれません」
「さっき自分で」
「侵入の痕跡はありませんが、怪盗なら証拠を残さずにできるかもしれませんね」
「さっき」
「ふうむ、鑑識を呼ぶしかないですね」
「さ」
「おのれ犯人。またしょっぱいスコーンを作らせるなんて」
「もぐもぐ。おいしいですよ」
「あー! だめですよう。きみには甘いスコーンを食べてほしいとあれほど」
「でも、捨てるのはもったいないですし」
「それはそうですが、無理に食べなくても」
「おいしいので食べているだけです。おやつではなくご飯用にぴったりですよ」
「勇者さん、きみってばなんてお優しい……」
「砂糖と塩なんて、誤差みたいなものですから」
「舌バカは一向に治りませんね」
「食べられればなんでもいい」
「ぼくが毎日おいしいご飯を作り、その考えを変えようとがんばっているのですが」
「お腹を壊さない水ってすばらしいですね」
「まだまだ時間はかかりそうです」
「間違えたことを気にする必要はありませんよ、魔王さん」
「この発言だけなら優しい勇者のようですが」
「不味くても食べますから」
「どうしても舌バカさんの発言にしかならないのですね」
「なんで間違えたのかはわかりませんが」
「ぼくももう歳ですからねぇ」
「そうですね」
「否定して」
お読みいただきありがとうございました。
なんで間違えたか自分でも理解できないことが増えていく。それが老化。悲しい。
勇者「あえて、入れ替えておくというのはどうでしょう」
魔王「間違えて使った方が正しいということですか」
勇者「あとで塩と砂糖と砂糖と塩を入れ替えておきますね」
魔王「ありがとうございます。やめてください」




