72.会話 こたつの話
本日もこんばんは。
こたつを嫌う人はこの世にいないはずです。
「寒冷地の宿ということで、全室にこたつが設置されているのはとてもよいことですが……。ひとつ問題がありまして」
「あああああああ~……。うううああああうあうううあうあ~……。最高ぉ~……」
「勇者さんが人間を辞めそうです」
「あうああうあおおおあうあおあうあうああああ~……」
「せめて理解できる言葉でしゃべってください。さすがのぼくもわかりませんよ」
「この世にはこんな素敵なものがあったんですね……。私、いま初めて世界を救いたいと思いましたよ……。食べ物以外で……」
「勇者さんにそこまで言わせるとは、やりますね、こたつ……!」
「ああ、ずっと入っていたい……。こたつから離れたくない……。結婚したい……」
「だめですーーー‼ そんなのぼくが許しません。第一、こたつと結婚ってなんですか。生き物でもありませんよ」
「愛があればいいんですよ」
「一方的な愛ですよ!」
「こたつになら私の命を捧げてもいい……」
「もーー‼ そんなこと言ってると、こたつは没収しますからね」
「やはりあなたは悪の根源……。倒すべき悪者! 私からこたつを引き離すなど、許されざる暴挙!」
「感じたことのない殺気が……。え、あの、ちょっと勇者さん……?」
「死ぬがいいです!」
「こわい⁉ 過去に類を見ない研ぎ澄まされた戦闘を見せないでくださいよう。愛しのこたつが見ていますよ?」
「愛する物のために私は戦う」
「めちゃくちゃキメ顔ですが、恰好がつかないですね。発音は同じなのに……」
「こたつを発明した人を愛することにします。改めて、愛する者のために――」
「許さーーーん‼ そんなどこの馬の骨ともわからない人が相手なんて、ぼくが許しません!」
「魔王さんは私の父親ですか」
「ちゃぶ台返ししましょうか!」
「しなくていいです」
「発明者を愛するなら、こたつを愛してくれたほうがマシです。妥協です」
「第一、魔王さんに関係ない気がしますが」
「うっ……。それはその……。ぼくにも譲れない思いというものがありますし……」
「なんだかまとまりがないですね。こたつに入ってのんびりしましょうか」
「まとまりがあったことなんてないような……。平和が一番ですね」
「この宿を家にしたいです。毎日こたつと一緒に過ごしたい……」
「チェックアウトまでの短い恋ですね。今のうちに満喫しておいてください」
「布団はふかふか……。じんわりあったかい温度……。眠くなってきました……」
「こたつで寝ちゃだめですよ。風邪を引きますからね」
「そんな……。ひどいことを言いますね」
「ぼくはいいことを言ったつもりでしたが」
「風邪引いてもいいからこたつで寝たいぃ……」
「だめです。そうだ勇者さん、みかん食べますか?」
「食べます」
「勢いが……。こたつとみかんは相性がいいんです。どうですか?」
「おいしいです。剥くのがめんどうですけど」
「そこはがんばってくださいね。じゃーん、見てください。お花の形ですよ」
「へえ、器用ですね。みかんの皮で作るなんて」
「慎重に剥くのがポイントです。勇者さんもやってみてください」
「……ふむ、こんな感じですか?」
「わあ~、上手ですね……って、上手ですね⁉ なんですかそれ」
「龍です」
「ときおり見せる謎の才能なんなんですか。捨てるのがもったいないレベルですよ」
「捨てますけどね」
「ああ~……。おっと、すみません。足が当たってしまいました」
「いえ、小さいこたつですからね。ふたり入れば狭くもなります」
「見えない分、足の置き場に迷いますね。動かした時に当たってしまうとびくっとしてしまいます」
「構いませんよ。こたつは愛を持って応えてくれます」
「リアクションがしづらいです」
「えいっ」
「ひゃあ⁉ な、なんですか」
「見えないのでいつ攻撃が飛んでくるかわからないと思いまして」
「もう! いたずらしないでくださいよう。倍返しです、とりゃあ!」
「おお、いいキックですね。お次はこうです。そぉい」
「うわわっ! なかなかやりますね! えーいっ! わっ!」
「ふふ、なにしてるんです。そこはこたつの足ですよ」
「え? いまやり返しましたよね? だからぼく、驚いたんですけど……」
「え、いや、私には当たっていませんけど……?」
「……じゃ、じゃあぼくを蹴ったのは誰です……か……?」
「…………」
「…………」
「……ちょっと寒くなってきましたね。温度を上げましょうか」
「そ、そうしましょうか。……えっ」
「……どうしました」
「このこたつ、電源ついていないんですけど……」
「蹴りあいの時に手が当たったんですよ、きっと」
「というか、そもそもコードがないんですよ……」
「…………」
「…………」
「……今日はもう寝るとしましょうか」
「……そうしましょうか」
「こたつは部屋の隅にずらしましょう」
「そうしましょう。あの、勇者さん。今夜はやけに冷えるので、一緒のお布団で寝てもいいですか……?」
「……まあ、はい、いいですよ」
「……許可が出た」
「何か言いました?」
「いえ! で、ではおやすみなさい~!」
「おやすみなさい。……ちょっと、近づきです。足を絡めるな」
「えっ、ぼくそんなことしてないですよ?」
「嘘言わないでください。現に今も足の感触が……」
「…………」
「…………」
「もっとくっついて寝ましょうか?」
「……そうしてください」
「魔王ぱぅわぁーで結界とか張っておきます?」
「……お願いします」
「あの、大剣握りしめて寝るのはどうかと」
「文句あるなら斬りますよ」
「物騒ですね……。では、そろそろ寝るとしましょう」
「そうしましょう」
「おやすみなさい、勇者さん」
「おやすみなさい、魔王さん」
「…………」
「……なにも考えないことにしよ」
お読みいただきありがとうございました。
最近暑い日が続きますね。涼しくなったらうれしいです。
勇者「……こたつに罪はない」
魔王「その向けている剣はなんですか?」
勇者「……素振りです」
魔王「ずいぶん殺意高めの素振りですね」




