717.会話 髪艶のいい魔王の話
本日もこんばんは。
魔王さんのボケ頻度が上がってきた気がします。
「勇者さん、勇者さん」
「なんですか」
「ふふふ、ふぁさぁ……、ふわぁ……、さらぁ……」
「ああ、斬りやすそうな首ですね」
「違います。いいですか、もう一度。ふぉふぁ……、へぁあ……、ほへぁ……」
「余計にわからなくなりました」
「今日のぼくは、髪艶がとてもいいのです」
「だからなんですか」
「褒めてくださってもよいのですよ」
「なんで私が」
「勇者さんに褒められると、どうなると思いますか?」
「くだらない気配がしますが、一応、訊いてあげます。どうなるんですか」
「ぼくがうれしい!」
「訊いたことを深く後悔しています」
「そんなこと言わないでくださいよう」
「髪艶がいいからなんだというのです」
「より神々しくないですか?」
「魔王が神々しくなってどうしたいのやら」
「人々を救う力が増すのですよ」
「見た目も影響すると?」
「なんかこう、うわぁって、ほあぁぁみたいな、ああぁ……的なあれですよ」
「姿を見ただけで安心したり、救われる気持ちになったり、人々に安寧をもたらすと」
「すごい。ぼくの言いたいことを的確に表現してくれた」
「合っていたようですね」
「ぼくの気持ちを理解できる勇者さんというわけですね。相思相――」
「変化魔法が使えるのに、なんで髪だけ違う日があるのですか」
「ふっふっふ……、実はですね、美容院に行って!」
「はい」
「きたわけではないのですけど」
「そうですか」
「起きたらやけに髪艶がよくて、うれしいなぁって」
「よかったですね」
「勇者さんの反応が塩すぎる」
「とても喜ばしいと思っています」
「なんだろう、この気持ちを感じない棒読みは」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。うれし……いです、はい」
「まあ、確かにいつもより艶がある気がします。きれいですね」
「あっ、ありがと、ありがとうございます! もう一回お願いします!」
「ご遠慮させていただきます」
「そんな塩対応勇者さんにはこちら。ヘアオイル~」
「未来から来た猫型ロボットみたいな言い方しないでください」
「勇者さんの髪もとぅるとぅるにしちゃいましょうね」
「別に結構ですよ」
「ぼくがうれしい!」
「そうですか。まあ、お好きにどうぞ」
「ですが、以前より髪質がよくなっています。ぼくのご飯のおかげでしょうか?」
「栄養状態はいいと思います」
「というか、ヘアオイルを使わずともきれいな髪ですね」
「そうですか?」
「これが若さの力……? いや、ぼくだって見た目だけなら少女……」
「ご自分で言っているじゃないですか。見た目だけならって」
「勇者さんの的確な指摘がぼくの心をえぐる」
「何もしていないのに、急に髪艶がいい日があるって、若いというよりむしろ」
「や、やめてください。それ以上は心臓がきゅっとなります」
「不老不死なのに髪艶とか若さとかを気にするんですか?」
「逆に、不老不死だから気にしているのですよ」
「どういう意味でしょう」
「何も変化がない存在なので、髪艶でも気にしていないとつまらないのです」
「毎日変化魔法でいろんな姿になるというのは」
「この姿が長すぎて、もう落ち着いちゃいました」
「髪艶はともかく、不老なのに若さって意味不明ですよ」
「勇者さんといると、しっかり指摘されるので考えざるを得なくなりますね」
「よく考えてください。なぜ髪艶がいいのか。昨日、何があったのか」
「……夕飯に揚げ物を作りました」
「髪艶の理由がわかりましたね」
お読みいただきありがとうございました。
両者ともにボケ兼ツッコミ。
勇者「ボケたふりしていると、その内ほんとうに認知症になりますよ」
魔王「認知症の魔王って弱そうですね」
勇者「私のこと、わかりますか?」
魔王「ぼくの娘です」




