716.会話 千歳飴の話
本日もこんばんは。
千歳飴の味がわからないが、食べる年齢ではない天目。
「勇者さん、飴はいかがですか?」
「いいですね。いただきまうわなっがなにこれなっがなにこれ」
「なんですか?」
「それはこちらのセリフです。なんですか、この長い飴は」
「千歳飴です」
「説明が足りない」
「勇者さんがいつまでも健康で長生きできるようにお願いした飴ですよ」
「だから長いんですか」
「七五三祝いで食べるものでして、勇者さんにぴったりかと」
「シチゴサン……が何か知りませんが、ほんとうにぴったりですか?」
「はい。勇者さんも七歳になりましたからね」
「こんなにわかりやすい嘘もなかなかないですよ」
「大きくなりましたねぇ」
「魔王さんと出会ったのは、十何歳かですけど」
「勇者さんが三歳の時も千歳飴を食べましたね」
「知らない記憶が捏造されていく」
「勇者さんが五歳の時も……ええと、どうしようかな」
「捏造力が足りないようですね」
「勇者さんには及びませんでした」
「さらっと流しましたけど、飴で長生きとは欲張りですね」
「飴は練ったり伸ばしたりして作りますから、そこからきているのでしょう」
「入っていた袋も賑やかな見た目をしています」
「勇者さんの七歳を祝っているのですよ」
「粘りますね」
「ぼくも飴のように生きようと思いまして」
「あんまり聞いたことのない比喩」
「そして、いつか粘り勝ちをし、勇者さんと末永くはっぴーらいふを」
「負けられない戦いがここにあったりなかったり」
「長生きしちゃってくださいね」
「それは聞けないお願いですね」
「えっ、その飴を食べてしまったというのに?」
「なんですか? まさか、普通の飴じゃないなんてこと……」
「めっちゃ普通の飴ですよ」
「驚かせないでください」
「飴を食べてくれたので、てっきり千年くらいは生きてくれるのかと」
「人外かも」
「千歳飴を食べるこどもたちも、千年、千五百年と長生きしてほしいですね」
「さすがの千歳飴もびっくり」
「秘められたポテンシャルというわけです」
「こども時代にみんなが食べるなら、平均寿命は飛躍的に伸びるでしょうね」
「人生千年時代も近いでしょう」
「魔王さんの物差しで測らないでほしい」
「住宅ローンは五百年、固定金利で」
「それだけ長いなら、変動でもいいような」
「魔王城の建て替えも定期的に行いますよ」
「ちゃんとやっていたんですね」
「定期的に勇者に壊されるので、強制建て替えです」
「歴代の先輩たちがお世話になりました」
「ぼくにとっては五歳みたいなものなので、千歳飴をプレゼントしたこともあります」
「どうなりました?」
「怒られました」
「でしょうね」
「ですが、照れた勇者さんもいましたよ」
「どの辺が照れポイントなんですか」
「『そんなに若く見える? うそぉ、めっちゃうれしい』って」
「思考が停止しているかも」
「この反応ならいけると思い、手を差し出したのですが」
「どうなりました?」
「通常通り、勇者と魔王の戦いが始まりました」
「いつもお疲れ様です」
「千歳飴は食べてくれました」
「食べたんだ。律儀ですね」
「『若返った気がする!』と言っていましたよ」
「長生きを願う飴でしたよね」
「寿命が延びた結果、人生におけるその時点の年齢が若齢とみなされたのでしょう」
「屁理屈ってやつですね」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さん(7歳)(嘘)。
勇者「若返った気がする勇者はどうなったんですか?」
魔王「若者のような力を発揮していましたよ」
勇者「私も若返ろうかな」
魔王「赤ちゃんになるんですか?」




