715.会話 タピオカの話
本日もこんばんは。
最近見なくなった四文字。
「どうぞ、勇者さん。これが最近話題のタピオカドリンクですよ」
「私の記憶では、ブームは少し前だったような」
「百年前までは最近です」
「これだから不老不死は」
「といっても、ぼくたちは初めましてですね。どんな味なのでしょうか」
「もぐもぐ。なんだか不思議な食感です。弾力がありますね」
「甘くておいしいです~」
「あれの味がします。あれです。魔王さん、あれですよ」
「なんですか?」
「気を抜くと喉に詰まり、命の危機を招く味です」
「なんですかその言い方――うっ⁉」
「ほら、きましたよ」
「の、喉にタピオカが。タピオカが、つま、詰まって!」
「毎年一月は死亡率が格段に上がるらしいですよ」
「まさか、犯人は……」
「はい、お餅です」
「く、苦しい……!」
「仕方ないですね。えいやっ」
「げほごほおおうえあういぇあうおごはっ死ぬかと思いました」
「一口飲んだ時に思ったのです。あ、魔王さんが喉に詰まらせそうって」
「言ってくださってもよかったのに」
「どうせ不老不死だからいいかなと」
「苦しいのは苦しいのですよ」
「そうなんですか」
「一ミリも心配していないお顔もすてきですね」
「お茶や水と同じくらい、一般的な飲み物になっていたらと思うと、恐ろしいです」
「死亡率の上昇が一月だけに留まりませんね」
「お餅とタピオカは改名した方がいいですよ」
「何にするんですか?」
「呼吸困難食品」
「食べたくないネーミング」
「もしくは、死亡率急上昇食品」
「誰も食べなくなりますよ」
「きっと、誰もが一度は『うっ』となった経験があると思うのですよ」
「そうして、よく噛もうと思うわけですね」
「危機感を覚えたはずなのに、まだ食べようなどと」
「お餅もタピオカもおいしいですから」
「でも、老人がタピオカドリンクを飲んでいる姿を見たことがありません」
「一大ブームが去ったせいかと」
「見たかったなぁ、タピオカドリンク片手に自撮りする老人」
「若々しいですね」
「そんな彼らを微笑ましく見守るご長寿魔王さん」
「よきかな」
「そして、また喉に詰まらせるんですね」
「ぼくだって学習します。よく噛んで噛んで噛んで噛んでいますよ」
「だいぶ怖がっていますね」
「喉に詰まった時の、心臓がきゅっとなる感覚が……」
「死なないのに」
「生きていることを実感します」
「日々魔なるものと戦っているのに、生を実感するのがお餅とタピオカですか」
「魔なるものなど、ただのノイズです。ぼくがピンチになることもありませんから」
「魔王が魔物に負けていたら、さすがの私も悲しくなりますよ」
「勇者さん、ぼくのために泣いてくれるんですか」
「魔王さんが情けなくて」
「な、泣いてくれるなら情けなくてもいいです」
「他人のフリをしてさようなら」
「わああん、ぼくが泣いちゃう!」
「とはいえ、タピオカを喉に詰まらせる魔王もかなり情けないですよ」
「そんなぼくもきゅーとですね」
「見なかったフリしてさようならしようかな」
「ちゃんと見ていてください!」
「どうしたんですか、急に大声だして」
「勇者さんが見てくれていないと、喉に詰まらせた時に助けてくれる人がいません」
「それ、言っていて悲しくなりませんか?」
「こうしている間も、ぼくは四回ほど『うっ』となっています」
「そうですか。さようなら」
お読みいただきありがとうございました。
天目は一度だけ飲んだことがあります。それが最後でした。
勇者「魔王さんも入れる老人ホームはあるのでしょうか」
魔王「毎日面会に来てくださいね」
勇者「それはめんどくさいかも」
魔王「入居拒否で」




