714.会話 刃こぼれの話
本日もこんばんは。
刃こぼれしていなくても刃物は怖い。
「魔王さんが刃物を両手に持って立っていたので、ついに殺されると思った勇者です」
「刃こぼれを確認していたら、意図せず殺人者ポーズになってしまった魔王です」
「こんにちは」
「こんにちは」
「びっくりさせないでください」
「すみません、照明の位置的に、こうしないとよく見えなかったもので」
「刃こぼれでしたっけ。いつも料理していますもんね」
「いえ、魔物をぶった斬ったせいでなったものです」
「どんな斬り方したんですか」
「頭、腕、足、それぞれをゆっくりと斬り取って痛みを与え……」
「うわー」
「ようと思ったのですが、普通に真っ二つ」
「気持ちはあったんですね」
「人間を傷つけたやつでしたので、腹が立ちまして」
「我慢はできなかったようですが」
「イライラしてスパァンと斬ってしまいました」
「ちゃんと人間には笑顔を向けましたか?」
「超絶神聖美少女微笑で対応させていただきました」
「トラウマになっていないか心配です」
「お礼を言っていただけましたよ」
「言わないと真っ二つにされると思ったんじゃないですか」
「人間にそんなことしませんよう」
「したら怖いですけどね」
「新しい刃物を買わないといけません」
「魔王なんですから、魔法でいいじゃないですか」
「刃物の方がやった感があって」
「ええと、一応、ひらがなで表記してくださいね」
「もちろんですよ。あ、漢字にする場合は、メと木と几と又を組み合わせたものです」
「言わなくていいです」
「ぼくの魔法でやってもいいのですが、なんか神々しくて」
「だめなんですか?」
「もっと命の危機感を味わわせたいのです」
「発言が暗殺者みたいですね」
「でもまあ、魔物なんて一秒でもはやく消えてほしいですが」
「刃こぼれした刃物をすり合わせないでください」
「舌なめずりしましょうか?」
「ケガして泣いても慰めませんよ」
「勇者さんの方が似合いそうですね」
「誰が山姥ですか」
「そんなこと言っていませんよ。勇者さんは眼圧で相手を倒しそうだなぁって」
「刃物を使っていないじゃないですか」
「飾りですよ。刃こぼれした包丁とかナイフをチラつかせ、相手を怯えさせるのです」
「確かに怖そうですが、一ついいですか」
「いくらでもどうぞ」
「実際のところ、刃こぼれなく丁寧に手入れされている刃物の方が怖くないですか?」
「切れ味は抜群でしょうね」
「しかも、日頃から研いでいるってことですよ。背景の想像が用意にできます」
「お料理はお手の物ってわけですか」
「刃こぼれしたガタガタの刃物は痛いでしょうが、斬られればなんでも痛いです」
「それはそう」
「ガタガタ刃物より、ピカピカ刃物の方が恐怖度は高いと思います」
「斬られた時の感覚もばっちり想像できちゃいますね」
「というわけで、山姥の刃物はしっかり研いだ方がいい派の勇者でした」
「ありがとうございました。それでは聞いてください。何の話?」
「魔王さんも刃物はしっかり研ぐべきだという話です」
「その流れだと、ぼくが山姥になりますよ」
「山奥の古民家に住む魔王さん?」
「道に迷った人間に食事と布団を提供する真っ白美少女聖なる乙女、魔王です」
「怪しいな」
「どこがですか」
「まず、人間が道に迷っている点」
「そこを怪しんだら話が始まりませんよ」
「そして、食事と布団を用意してくれたのに、お風呂がない点」
「あ、普通に言い忘れです」
「最後に、超長寿なのに乙女などとほざいている点」
「い、いいじゃないですか、別に!」
お読みいただきありがとうございました。
物理派魔王。
勇者「魔法で作った刃物でやれば解決では?」
魔王「たかが魔物ごときに魔法を使うのがめんどうで」
勇者「刃物を研ぐ方がめんどうじゃないですか」
魔王「気持ちが高ぶるので一石二鳥なんです」




