713.会話 魔界の文化の話
本日もこんばんは。
魔界の文化を覗いたり覗かなかったり。
「別に興味はないですが、魔界の文化ってどんな感じなんですか。別に興味はないですが」
「興味ありそうな言い方ですね。魔界の文化ですか。そんな目立ったものはありませんよ」
「やっぱり人間の踊り食いとかするんですか?」
「しませんよ。魔界は人間が生きられる世界ではありませんから、するなら死体喰いです」
「そういう否定のされ方は想定外」
「それに、人間を食べる魔なるものは一部です」
「代表的なひとが魔王さんですね」
「そうですね。んなわけ」
「いつか、私もおいしく調理されて食べられるのでしょうか」
「ぼく、人間は食べません」
「低温加熱されたきれいな赤身になって、半熟卵を乗せられるんだ」
「ローストビーフおいしいですよね」
「おしゃれなプレートに盛り付けられ、季節のお花とか散りばめられるんだ」
「食用花を使っていると料理上手っぽいですよね」
「飲み物は百パーセントの果物ジュースと栄養満点のスムージーで」
「お腹にも優しい」
「最後に写真を撮られ、『#今日の魔王ごはん』で投稿されるんだ」
「料理小説始めますか?」
「フォロワー五億人の人気インフルエンサーになり、毎回一千億のいいねがつくんだ……!」
「愉快な勇者さんのなんちゃって魔界文化解説コーナーでした」
「それで、実際のところはどうなんですか」
「人気インフルエンサーはいますよ」
「いるんだ」
「人間の料理もありますけど、ぼくは不適切投稿で通報しています」
「魔界では普通なのに」
「ぼくの逆鱗に触れたら全部アウト」
「厄介な統治者だな」
「アカウントも停止させます」
「だいぶめんどくさい」
「あと、なんとなくうざいやつも削除要請を出します」
「疲れているなら休んだ方がいいですよ」
「魔界は不法地帯ですからね。ぼくの頭がおかしくなりそうです」
「とんでもない光景が広がっていそうなイメージです」
「基本的に魔界は嫌いですが、たまに行ってよかったと思う時もあります」
「珍しいですね。どんな時ですか」
「猛獣の踊り食いをしようとした魔族が、逆に猛獣に食われていた時」
「イメージ図は年齢制限の為、モザイクでお送りしています」
「ざまぁわらわら、と思いました」
「魔王さんが疲れていることはわかりました」
「手がつけられないので、魔界人間界動物園に移送したんですけどね」
「魔界なのか人間界なのか、ややこしいです」
「魔界は、意外にも人間界の文化が根付いているのですよ」
「人間をよく知り、しっかり食べるということですか」
「すぐそういうことを。違いますよ、人間の文化は便利で楽しいからです。娯楽も輸入していますし、かぐやさんの著書は魔界でもベストセラーです」
「ご無沙汰しております、かぐやさん」
「映画、アニメ、マンガ、小説などを始め、あらゆる文化が魔界にも伝わっています」
「思ったより楽しそうですね」
「食文化も広まっていますよ。人間が編み出す料理はおいしいと話題ですから」
「味覚が似ているのですね。人間を食べるくせに」
「田舎にいけば、もっと人間界っぽいですよ。縁側でお茶したりお昼寝したり」
「いつか、わくわく魔界ツアーをしてみたいです」
「勇者さんなんて、全魔族から襲われると思います」
「そこは魔王さんの鶴の一声で」
「わかりました。鶴の鳴き声を練習しておきます」
「そういう意味じゃない」
「とはいえ、例のごとく人間は魔界に行けません。というより、行ったら死にます」
「毒毒パラダイスって感じですか?」
「人間にとってはそうです」
「空もどんよりしていそうですね」
「意外にも、空気はきれいなんですよ。花粉も黄砂もPM二・五も飛んでいません」
「うらやましいです」
「全自動の吸い込み係魔族がいるので」
「ちなみに、名前を訊いてもよろしいですか」
「ダイソ――」
「あ、もう結構ですよ」
お読みいただきありがとうございました。
ン。
勇者「魔界の文化は不思議ですね」
魔王「理解できないことの方が多いです」
勇者「魔族から見れば、魔王さんも大概ですよ」
魔王「人間びっぐらぶ」




