712.会話 灯台の話
本日もこんばんは。
灯台を見るたびに、にょきっと動き出さないかどきどきします。
「灯台とは、船に情報や光を送り、目印にもなる重要な施設。そう、まるでぼくですね」
「どのへんが魔王さんなんですか」
「人間を導く聖女のごときぼくに何か疑問が?」
「おかしいと思うべきなんですけど、あいにく何も思いません」
「これからは灯台魔王と呼んでください」
「ほんとうにそれでいいんですか」
「あ、待ってください。変えます」
「どうぞ」
「ライトハウス魔王でお願いします」
「横文字にすればいいってもんじゃないですよ」
「ぼくは勇者さんも照らしたいです。はい、ぴかりんちょ」
「顔に懐中電灯を向けるな」
「違いますよ。勇者さんの背後にいる魔物に向けているのです」
「うわ、こんにちは。さようなら」
「勇者さんの回し蹴りが決まりました。みなさん、拍手を」
「すごーい、さすが勇者。すごーい」
「心のこもっていない声ですね」
「誰も褒めてくれないので、自分でやるしかないのです」
「ぼくは褒めますよ。全力全身でいきます。こほん、勇者さ――」
「灯台といえば、海を切り裂くビームを放つことで有名ですね」
「知りませんけど……」
「全世界ビーム選手権で準優勝したことを知らないんですか?」
「そこは優勝じゃないんですね」
「前年は予選敗退」
「一年間努力したのですね」
「今では、灯台の右に出る者はいないそうです」
「船は通りますけど」
「浮き輪で流されていく魔王さんも通ります」
「いやぁ、また遭難しちゃってぇ」
「そんな魔王さんを光で案内する慈悲の建物が灯台というわけですね」
「いつの間にか話をすり替えられている」
「魔なるものから人間を守る結界も」
「そんな力があるのですか」
「ないですよ」
「灯台の光は魔を浄化する力があるとか」
「もちろん、ないです」
「仕方ないですね。ぼくが聖なるぱぅわぁーをえいやってそうやっておりゃあっと」
「魔王なのに聖なる力があるんですか」
「ないですよ」
「誰もまともにツッコまないから、こういうくだらない会話が生まれるのです」
「どちらもボケると困りますよね」
「まあ、ツッコみ役っぽい私がお茶目にふざけるからですけど」
「どの口が己をツッコみ役などと」
「属性盛りだくさんの魔王さんだけには言われたくないです」
「勇者さんもそこそこ盛られているような」
「魔王さんには負けますよ」
「勇者と魔王が属性勝負しても、堂々巡りのような気がします」
「おや、いつから自分が魔王だと錯覚していたのですか?」
「えっ、ぼく、魔王じゃないんですか?」
「そして、私はいつから勇者なのでしょう」
「あ、しらばっくれる気ですね」
「勇者じゃないかも」
「諦めてください」
「魔王だったかも」
「究極の二択じゃないですか」
「そうだ、私は魔王だったのです」
「違います、勇者です」
「やっと気がつきましたよ。世界の真実と、己の真実に」
「あ、真実が二つ」
「あと、魔王さんの真実と灯台の真実と魔女の真実とその辺の真実も」
「これには名探偵も困惑」
「目が覚めました。私は魔王だ」
「勇者さんのおふざけモードが加速していますね」
「ふはははははは、私は魔王だ、ふははははははうわぁあ目が」
「あ、灯台ビーム。魔王とか言うので、浄化されちゃったみたいですね」
「もう魔王やめる」
お読みいただきありがとうございました。
灯台ってちょっとエリンギに似ている気がする。
勇者「まだ目がしょぼしょぼします」
魔王「よほど強力なビームだったのですね」
勇者「あれなら世界も滅ぼせそうですよ」
魔王「なんでちょっとうれしそうに言うんですか」




