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71.会話 吊り橋の話

本日もこんばんは。

吊り橋をあえて揺らす人いますよね。落ちればいいです。と思って書きました。(そんな物騒な内容ではありません)

「『吊り橋効果』というものをご存じですか? 不安や緊張、恐怖といった強い感情を持っている時に出会った人に恋愛感情を抱きやすくなる現象のことなんですけど。簡単に言えば、『こわい!』と思うと心臓がどきどきしますよね? そのどきどきを恋のどきどきだと思ってしまう~的なことですよ」

「突然の知識披露ありがとうございます。ひとつ不満があるとするなら、今にも崩れ落ちそうな吊り橋を渡ろうとした私に言うことではないと思います」

「むしろ今言わずにいつ言うのかって話ですよ」

「歩きながらくだらない話をしている時でいいじゃないですか。踏み出そうとした足が迷子になってしまいました。どうしてくれるんですか」

「どうと言われましても、勇者さんの次はぼくも渡るので安心してください」

「ふたりも耐えられる顔をしていませんよ、このおんぼろ橋」

「『みんなで渡ればこわくない』ということわざがありますよ」

「この私でも自信を持って違うと言えます。誤った知識を植え付けないでください」

「ですが、対岸に行くにはこの橋を渡るしか他に道がありませんよ。さっき確認したでしょう?」

「橋があると書いてあったので油断しました。『ある』と『渡れる』は同じ意味じゃないんですよ。あの看板立てたやつ吹っ飛ばしてやりたいです」

「勇者さんが悪い顔をしている……。まあまあ、スリル満点の冒険ということで、楽しんで行きましょうよ」

「あのですね、魔王さん。命に執着のない私でも、さすがに死ぬとしか考えられない場所に自ら行くほど愚かではありませんよ。見てください、このヒモ。何年経てばここまで劣化するんですか」

「切れていないのが不思議なくらいですね。褒めてあげるべきです」

「今は生きていても、私が渡り終えるまでにこと切れたら意味がないんですよ」

「……ヒモだけに」

「魔王さん、お先にどうぞ」

「す、すみませんすみません、つい出来心で」

「やだなぁ。私は魔王さんのためを思って提案しているんですよ。こんなおんぼろ、どう考えたってふたりも通ったら死にます。ひとり通るたびにダメージは蓄積していきますから、二番目に渡る人はよりダメージが増えた橋を通ることになります。つまり、ひとり目の方が生存確率は高いというわけです」

「正論っぽいのに生贄感が否めないのはなぜでしょう……」

「加えて、昨夜の大雨でさぞかし雨にも風にもさらされたでしょう。この橋の命は風前の灯火といえます」

「橋の下に流れる川も驚きの濁流ですもんね。とても泳げません」

「ということで、どうぞ」

「丁寧な所作で促さないでください。もはや生贄の儀式ですよ」

「失礼ですね。わかりましたよ。私が一歩だけお手本を見せて差し上げます」

「ぼくは赤ちゃんじゃないです」

「記念すべき第一歩です。その目に焼き付けてください」

「言い方がベイビーの成長のそれですね」

「せーのっと。……うわぁあぁっぶな……。あっぶな……」

「び、びっくりさせないでくださいよう! だいじょうぶですか?」

「魔王さんが手を掴んでくれなかったら落ちてましたね。いやあ、間一髪」

「当然のように板が抜けましたね。勇者さんが落ちそうになった衝撃でヒモもお亡くなりになりましたし、もう渡っちゃだめですよ、これ」

「お手本はここまでにして、元気よくどうぞ」

「話きいてました?」

「魔王さんだしいいかなと」

「そこは別の道を探しましょうとか、渡る方法を考えましょうとか言うところですよ」

「とは言っても、無理そうですけどねぇ。ここ、川に囲まれた島ですし」

「これは川が落ち着くまで待つしかなさそうですね」

「楽しげに野宿の準備をしているところ申し訳ないのですが、魔王さんって飛べましたよね」

「……そうですね」

「か弱そうな見た目して馬鹿力なの、私は知っていますからね」

「……りんご潰せる程度ですよ」

「魔王さんが私を持って飛べば解決では?」

「いやですよう! せっかく舞台を整えたのに!」

「やっぱりあなたでしたか。目が覚めたら知らない場所にいた私の気持ちも考えてください」

「勇者さんとキャンプしたくて……。クローズドサークルシチュエーションで」

「うるせえんですよ。キャンプはまた今度です。はやく私を運んでください。お腹すきました」

「うう……。では、ぼくの手に来てください」

「その姿勢だとお姫様だっこになるんですが」

「行きもこれでしたよ?」

「魔王さん、あとでグーパン三発」

「なんでぇ⁉ 大切に運んだのにぃ~……」

「しがみつくので飛んでください。たいして距離もありませんし、だいじょうぶですよね」

「わかりましたよう……。ではおんぶしますから、どうぞ」

「お願いします。……おお、意味の分からない画ですね。ちょっとおもしろいです」

「あ、あの……。背中からよくない気配がするのですが……。勇者さん、なにをしています?」

「魔王さんのうなじに剣先を向けています」

「危ないのでやめてください⁉」

「千載一遇のチャンスです」

「飛んでいる時に攻撃されたら勇者さんが落ちちゃうかもしれないじゃないですかぁ!」

「私の心配ですか」

「他になんの心配があるんです!」

「……まあ、やめておきます。剣先も安定しませんし。仕損じる可能性が高いですから」

「そ、そうしてください~」

「それにしても、こんなに高いところにいるのは初めてかもしれません」

「そうなんですか? ご感想はいかがです?」

「どきどきします」

「ハッ⁉ ま、まさか吊り橋効果がっ⁉」

「心臓の動きがおかしいくらいです。なんだか息も苦しくて……。これが恋ですか」

「抑揚のない声で恋とか言わないでください……。勇者さんのそれは恋のどきどきじゃなくて動悸ですよ。病気じゃないでしょうね?」

「嘘ですけど」

「むしろ安心しました……。はい、着きましたよ」

「ありがとうございました。乗り心地は微妙ですね」

「唐突な言葉の攻撃」

「姿を変えられるならもふもふの獣とかにして欲しかったです」

「び、美少女の方が人気ありますよ」

「大きくてふわふわな毛並みを持つ生き物にダイブ……。どんな布団より最高な睡眠を誘うもふもふ……。ああ、想像するだけで胸が苦しいです……」

「ちょっ、ちょっと待ってください⁉ それはぼくでもいいんですか⁉ ぼくの変化でも許容範囲ですか⁉」

「どっちだと思います?」

「お、教えてください! 答えてくれないと、ぼくのどきどきが止まりません!」

「どきどきしているんですか」

「ばくばくですよ! 緊張……? 焦り……? わかりません~‼」

「きっと吊り橋のせいですよ」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんは魔王さんが乗っている時かつ他に誰もいない時だけ豪快に揺らすタイプです。


勇者「高所からの落下死ってちょっといやです」

魔王「いやと言いながら揺らすのやめてもらっていいですか」

勇者「落ちるのは魔王さんだけですから」

魔王「どういう補正ですか⁉」

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