703.会話 安全な町の話
本日もこんばんは。
安全かもしれないし安全ではないかもしれない町の話。
「勇者さんが滞在している町は、世界で一番安全といえるでしょう」
「同時に魔王さんもいるので世界で一番危険なのですが」
「安全と危険が奮発し合い、いい感じの町になるのですね」
「パワーバランスは釣り合っていないのですよ」
「んもう、ぼくって、か弱い儚げ美少女なんだから……」
「私、さっき町に出現した魔物を片手で捻り潰しているのを見ました」
「おや、すごいですね。そんなひとがいるならば安心です」
「髪は白く、目は青く、頭の上に輪投げの道具が浮かんでいるひとでした」
「ずいぶん神々しいですね。輪投げじゃないですけど」
「町の人々から『勇者様』と呼ばれて慕われていました」
「なんと、勇者だったのですね」
「例のごとく魔王さんですけど」
「歓声を浴びちゃいましたね」
「倒し方はさすが魔王といった感じで」
「人間に襲いかかろうとしていたので、つい演じるのを忘れてしまいました」
「演じるって言っちゃった」
「ですが、己の力を開示したうえで認められることのうれしさといったら」
「顔に『ドン引きされるかも』って書いてありましたもんね」
「感謝されて安心しました」
「ドン引きはされていましたよ」
「えっ、ほんとですか」
「ドン引きしながら感謝していたんです」
「なんてこったい」
「目の前で魔物を片手粉砕されたら誰でもビビります」
「人間にそんなことしませんよ」
「当たり前です。やめてください」
「魔なるものに怯えて暮らす人々に光と安寧をもたらすのです」
「魔王さんがいることで平和になる町というのも、おかしな話ですね」
「勇者さんがお仕事すれば、もっと平和になるのですよ」
「まるで私が仕事していないみたいな言い方ですね」
「事実じゃないですか」
「失礼ですね。ちゃんと働いていますよ」
「えっ、どの辺がですか?」
「魔感知を行っています」
「ぼくにもできますよ」
「人々の避難誘導」
「ぼくに任せてください」
「魔物退治」
「それも大体ぼくですね」
「じゃあもう魔王さんが勇者でいいですよ」
「だめですよ。ちゃんと勇者してください」
「茨魔法で魔物の通り道を塞いだ時のことを知ってもそう言いますか」
「さきほどの出来事ですね。魔物と人間を分断するすばらしい采配でした」
「私、また魔族だと思われましたよ」
「なにゆえ」
「茨魔法がこわいって」
「フォローしにくいですね」
「トゲトゲした感じや刺さると痛い茨がとても味方には思えなかったようです」
「勇者なのに……。世界で一番人間の味方する人なのに……」
「私に限っては違いますけどね」
「うそでも味方と言っておいた方がいいですよ」
「別にこの町がどうなろうと私の知ったことではありません」
「発言には気をつけてください。いま、この町は安全なのです」
「魔物が湧いて出ても魔王さんがぺいってしてくれるでしょう」
「もちろん、ぺいっとぐちゃっとそりゃっとすやぁっとえいっとしますけども」
「途中寝た?」
「物理的な安全だけでなく、人々の心の平穏を守るのも勇者の仕事ですよ」
「聖女に頼めばいいじゃないですか。どっかから引きずってきましょうよ」
「『神よぉぉおぉおぉぉ~』と祈りながら引きずられる聖女を想像してしまった」
「れっつ誘拐」
「同じ聖性の者で争わないでください」
「私は誘拐の計画を立てるので、魔王さんは魔物退治お願いします」
「犯罪はだめですよ、勇者さん」
「ほら、魔物軍団のお出ましですよ」
「あれ、さっきも倒したのにまたですか」
「魔王さんがいるからじゃないですか?」
「それをいうなら、勇者さんがいるから寄ってくるんだと思いますよ」
「ダブルで寄ってくるんですか」
「そうですね」
「世界で一番危険な町じゃないですか」
お読みいただきありがとうございました。
湧いた魔物はすぐ倒されるので、安全といえば安全かもしれない町の話。
勇者「勇者が去れば魔物の数は減るはず。となると、やっぱり勇者はいない方がいい気がします」
魔王「そこ、魔王じゃないんですね」
勇者「魔王さんは魔物を倒してくれるので」
魔王「堂々巡りですね」




