702.会話 先生の話
本日もこんばんは。
今日も元気に魔王さんが己の欲をさらけ出しているSSです。
「ぼくの人生経験は誰にも負けないくらい豊富で有名ですね」
「びっくりご長寿ですからね」
「勇者さんにいろんなことを教える先生役もできるわけです」
「学びたいことなどありません」
「魔物の倒し方はどうですか?」
「魔王が教えていいんですか」
「勇者さんに『先生』と呼ばれるためなら、ぼくはこの身を捧げます」
「わあ、聖女の絵面」
「遠慮しなくていいですよ」
「ありがとうございます、それではさっそく首を」
「そういう捧げ方ではなくてですね」
「目にもとまらぬ速さで避けられた」
「世の中には『先生』と呼ばれるひとがたくさんいます。何かを教える人やお医者様、小説家、保育士などが一例でしょう。さあ、どれがいいですか?」
「なにがですか?」
「ぼくが今日なるひとです」
「そんな簡単になれるものでしたっけ」
「なれません。ですので、なんちゃって職業体験です」
「すべてのひとに謝ってください」
「敬意と尊敬の念を込めてなんちゃるのです」
「変な言葉をうまないでください」
「ぼくの望みはただひとつ。勇者さんに『先生』って呼ばれたい!」
「相変わらず素直」
「いつもの『魔王さん』呼びも最高にどきがむねむねするんですけど」
「逆では?」
「やっぱり、いつもと違う呼び方をされてどきがばくばくしたいのです」
「たぶん何も考えずに喋っているんだろうな」
「夕暮れ時の教室。先生だけの静かな部屋にやってきたひとりの生徒。少し躊躇いながら、『先生』とつぶやく。応えるようにめくれたノートに書かれていたのは……」
「なんの話ですか?」
「ぼくの憧れの学校シチュエーションその五百七十九のうちのひとつです」
「多いな」
「わかりますか、勇者さん。少し上がるトーンで放たれる『先生』の破壊力!」
「え、なに、全然わからん」
「詳細に描写するのであれば『先生?』といった感じですね。しかし、クエスチョンマークがつくほどの上がり方ではないのです。ほんのわずかな問いかけの波というわけです」
「あ……、うん、続けてください」
「いま話しかけてもだいじょうぶかな。先生とふたりきりで少し緊張しちゃう。でも、いまはぼくだけを見てくれるから、ちょっと甘えてもいいかな……というわけです」
「どうしよう。全然ついていけない」
「願わくば、ノートは隠すように後ろ手で持ち、顔は少し傾けて上目遣いで」
「いつもより魔王さんが元気」
「風でなびき、乱れた髪はあえてそのままに。はい、ここテストに出ます!」
「ギリギリ科目は国語かも」
「別のシチュエーションでは、準備室で集中してしまった先生の肩を――」
「ストップ。これ以上はだめです」
「なぜですか? 年齢制限の敵になるようなシチュエーションではありませんよ?」
「単純に長いからです。飽きました」
「しっかり学んでください。いざという時、困るのは勇者さんなんですよ」
「限定的すぎる学校シチュエーションに突入する予定はありません」
「ぼくが作りますから」
「作るな。理性と戦ってください」
「戦っているから、いま妄想だけで済んでいるのです」
「負けないでくださいね」
「………………」
「なんで何も言わないんですか」
「がんばります」
「ほんとかなぁ」
「とはいえ人間生活や勇者業、知っておくべき大事な事などいつでも訊いてくださいね」
「この草って食べられましたっけ」
「毒草ですね」
「あの石って食べられましたっけ」
「そもそも石は食べません」
「あんまり知識になった気がしません」
「もっと有意義な質問をしてください」
「というと?」
「長生きのぼくだからこそ知っているようなことです」
「はい、先生。神様をこてんぱんにする方法を教えてください」
「そんなのぼくが知りたいです!」
「先生タイム終了」
お読みいただきありがとうございました。
神様をこてんぱんにする方法はないです。
勇者「長生きなのに知らないんですね」
魔王「全能というわけではありませんから」
勇者「魔王っぽくないですね」
魔王「勇者さんの身長体重スリーサイズは知っています」
勇者「こいつ……」